2 国際世論の高まり
このようにして、環境汚染に対する意識は、最近になって、一大国際世論となって高まってきたように思われる。そして、国際協力によって人類共通の敵である環境汚染からこのかけがえのない地球を守ろうとする気運も生まれてきた。
国連においては、従来から、世界保健機構(WHO)、教育科学文化機構(UNESCO)等の専門機関やヨーロッパ経済委員会(ECE)等の地域経済委員会において環境問題についての調査検討が進められていたが、1968年の国連経済社会理事会第44回会議においてスウェーデン代表は、人間環境に関する国際会議の開催を提案した。「技術革新は否定的な面を含んでおり、とくに無計画、無制限な開発は人間の環境を破壊し、生活の根底をおびやかしつつある。この問題をあらゆる角度からとらえ、国連における討議を通じてこの深刻な問題に対する理解を深め、国連機関による調整を図り、国際協調を強化する必要がある」という認識に基づいたものであった。
一方、世界の社会科学者の中にも、このような認識が高まり、1970年3月には東京において各国社会科学者による公害シンポジウムが開催された。
この会合で宣言された東京決議は、「環境破壊は地球的規模で広がっており、現代最大の問題の一つになっている。物質的な破壊だけでなく、文化的退歩にまで及び、人々の福祉を阻害している。よい環境に住むのは人間の基本的権利であり、また、よい環境をこれからの世代に遺産として渡すのは、現世代の責務である。」と述べている。このような認識は、その後の環境問題に対する国際世論の形成に大きな役割を果たしたといえよう。
他方、OECD(経済協力開発機構)でも、加盟国における環境問題の拡大と、この解決の重要性に対する意識が高まり、1970年7月には環境問題をもっぱら扱う常設の委員会として環境委員会が設置された。先進国間における経済成長、開発途上国援助および貿易の拡大などを主たる目的として設立されたOECDが環境問題を取り扱うようになったのは、この問題が、経済上あるいは国際貿易上からも関心を持たれてきたという背景があるからである。
また、最近では、民間学識経験者による国際的研究団体であるローマクラブによる全地球的かつ長期的な環境問題に対するアプローチも多大な関心を集めるに至っている。
以上のような環境問題に対する国際的な世論の盛り上がりの結集点が、本年6月にストックホルムで開かれる国連人間環境会議であるといえよう。そして、同会議で採択される予定の「人間環境宣言」は、人間環境の保護と創造に関し、世界の人々に共通の指針を与えることになるであろう。
この宣言案は、
? ひとは、良好な環境で快適な生活をする基本的権利を有すること、
? 現在および将来の世代のために、大気、水、自然の生態系を含む地球上の天然資源等が適切に計画、管理されなければならないこと、
? 有害物質の排出等により生態系に対し回復できない影響を与えてはならないこと、
? 経済開発、社会開発、都市化計画などの諸計画は、環境の保護、向上と両立できるよう配慮すること、
? ひととその環境は、大量破壊兵器の実験の継続等による重大な影響から免がれなければならないこと
などの原則を謳いあげている。現在まだ明確な環境問題を経験していないと思われる開発途上国が圧倒的多数を占める国連の場において、“OnlyOne Earth(かけがえのない地球)”というスローガンのもとに全世界が共通の認識をもつに至ったこと、そして、国際協力により環境汚染からこの地球を守ろうと宣言しようとしていることは、画期的なことである。
環境問題に対する以上のような国際世論の高まりは、GNPで自由世界第二位とその国際社会の中での地位を高めてきたわが国が、国際協調のもとでさらに積極的な役割を果たすべきことを示唆しているといえよう。