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第1節 

2 開発整備地域等調査

 公害の発生が問題となるおそれのある地域における公害防止対策の効果的な推進を図るためには、これらの地域における気象および大気等の環境条件やその他の実態等について統合的な調査を実施し、それを基礎として事前に公害の発生を防止するための計画的な予防対策を確立しておくことが、きわめて重要なことである。とくに新産業都市や工業整備特別地域等のように、今後、大規模な工業開発が行なわれ、急速なテンポで工業化、都市化が進んでいく地域については、工業開発の当初から、大気汚染を主とした公害を未然に防止する計画を十分に検討し、所要の公害防止対策の確立を図ることが緊要となっている。このため厚生省においては、昭和40年度以来、これらの地域についての事前予防対策の確立に資するために必要な基礎資料を入手することを目的とした開発整備地域等調査を実施してきている。
 調査は、初年度においては環境大気調査だけで始められたが、41年度から大気拡散調査が加わり、それぞれ調査対象地域の特性に応じた調査が行なわれてきた。
 45年度までの実施地域数は、第3-15-3表に掲げるとおり、環境大気調査が24か所、大気拡散調査が10か所で、計34か所となっている。また、調査の実施は、厚生省の企画指導のもとに関係都道府県(市)に委託して行なわれ、その結果は、すでに厚生省に設置されている公害問題に関する専門の学識経験者からなる公害調査委員会の意見を聞いて解析試価され、それに基づき地域における工業立地、土地利用、都市計画等の適正化、緩衝緑地帯の設置、生活環境施設等の整備等の各般にわたる公害防止のための計画の策定とその推進等について、関係地方公共団体に対し、必要な指導を行なってきている。
(1) 環境大気調査
 この調査は、工業開発がある程度進行している地域あるいは既成工業地域を対象にその地域における大気汚染の推移をは握し、生産活動との対応関係を知るとともに、とくに必要がある場合には水質汚濁等の実態等も調査し、大気等の環境上の諸条件を的確には握することをおもな目的として行なわれるものである。とくに大気汚染の測定分析にあたっては、その正確を期するため1地域について通常3年間程度追跡して調査することになっている。
 調査の内容は、測定する環境汚染物質として、従来、いおう酸化物、浮遊ふんじんを中心に測定してきたが、近年の公害問題の多様化に対処するため、45年度には窒素酸化物、ふっ化水素等を追加して調査を行なった。調査は最も汚染が起こりやすい時期に1週間実施することとし、調査対象地域の企業立地状況や環境上の諸条件を勘案して、既設の測定網による通常の測定資料では、その測定点が少ないことや測定方法の差異等によって求めることのできない詳細なデータを入手するため調査地域内の20〜30測定点において実施している。捕集された試料は都道府県や市の試験研究機関において分析されるが、とくに浮遊ふんじん中の金属成分については、(財)日本環境衛生センターにおいても統一的に分析されている。また、環境汚染物質の測定と同時に、地上における一般的気象観測のほか、鉛直方向の特殊気象観測も行ない、環境濃度と汚染負荷量との相関関係について所要の検討を行なうこととしている。


(2) 大気拡散調査
 この調査は、石油、石油化学、鉄鋼、アルミ精製等のコンビナート化や、火力発電の立地等いおう酸化物を多量に発生する企業の立地が予定され、また、現にそのための工業開発が進行している地域等について、工業開発計画の段階から、これらの地域における大気汚染の濃度や分布の状態を予測し、推計することをおもな目的として行なわれるものである。
 調査は、41年度に福島県小名浜において、厚生省がわが国初の試みとして実施したエアトレーサシステムによる大規模な大気拡散実験として行なわれてきている。
 その内容は、調査地域内の高煙突やあるいはヘリコプターを利用してエアトレーサを放出し、その放出点から主風向を考慮して、風下方向15km程度までの扇形状に設けられた約100か所の地上測定点において放出されたエアトレーサの着地濃度を測定して拡散の状態を調査するほか、上空500m程度までのエアトレーサの濃度を数か所で測定する。エアトレーサには、蛍光粒子または6ふっ化いおうガスが使用される。また、高煙突に着色ガスを投入し、その有効煙突高の測定も行ない、さらにエアトレーサの拡散に影響する気象条件として、温度、湿度、日照度、風向風速等必要な項目を詳細に観測する。
 この調査は、約300人程度の動員を必要とする大規模な野外実験として行なわれ、通常の場合1週間の間に気象条件のよい日を選んで、数回にわたってエアトレーサの放出が行なわれる。調査により得られた各種のデータは、専門家の解析に付され、地域に特有な拡散パラメータが計算される。この拡散パラメータをもとに、地域における公害防止対策の基礎となる大気汚染濃度を推算することとなっている。

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