前のページ 次のページ

第1節 

1 制度の趣旨

 公害による被害救済に関しては、その原因行為が人為的なものである以上、最終的には一般の民事紛争と同様に民法の不法行為の規定に基づき損害賠償等を求めることのできる司法上の救済の方途が開かれているわけであるが、公害問題に関しては因果関係の究明、故意・過失の立証、有責者の確定等の点で訴訟上種々の困難な点が多い。したがって、公害による種々の被害の迅速かつ確実な救済を行なうためには、いわゆる無過失責任の理論や挙証責任の転換の理論を導入する必要があるという議論が盛んに行なわれ、また、公害紛争処理法に基づき簡易かつ迅速に公害紛争を解決することを目的とする公害紛争処理制度が昭和45年11月に発足したところである。
 しかしながら、現段階においては公害による被害の救済には長期間を要しており、また、確実に救済を受けられるともかぎらないというのが実情である。さらに、公害紛争処理制度による解決や無過失責任主義の理論等が司法制度に取り入れられた段階における公害問題の解決についても、かなりの時間を要するものと考えられる。公害の影響による疾病にかかっている場合には、その被害者は公害の原因者に対して裁判等によって損害の補てんを求めることができるのは当然のことであるが、その解決を得るまでの期間については、財産等の物的損害に対する事後的な補償の場合とは異なって、日々治療等を必要とするものであり、一刻も放置できないという緊急性を有している。
 したがって、司法上の救済措置が究極的な解決手段であるという原則に立ちながらも、それとは別に、迅速かつ円滑な救済手段として行政上特別の救済措置を創設すべきであるという趣旨に沿って44年12月に制定された公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法に基づく健康被害救済制度は、今後いっそう充実改善してゆかなければならない。

前のページ 次のページ