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第1節 

3 道路交通法の一部改正

(1) 改正の趣旨
 近年における著しいモータリゼーションの進展に伴い、道路の交通に起因して生ずる大気汚染、騒音、振動等生活環境を阻害する交通公害は年々悪化し、かつ複雑、多様化してきている。
 とくに、昭和45年5月に起こった東京牛込柳町交差点附近における鉛汚染問題、さらに7月東京杉並区の立正高校グランドでの光化学スモッグ問題は、大きな社会問題となった。
 これらの道路の交通に起因する公害を防止するためには、たとえば、排出ガス、騒音および振動の発生源である自動車の構造、燃料の改良、道路構造の改善および都市改造等の抜本的対策がとられねばならない。しかしながら、これら施策のなかには、技術的にもむずかしいものがあるほか、これらの施策が講ぜられるには相当な経費と期間を要するものと考えられる。
 この抜本的な対策が講ぜられるまでの間に交通公害による被害が現に発生することとなれば、当面の対策として、自動車の運行の禁止制限等の交通規制対策が、補充的対策として必要であると考えられるが、改正前の道路交通法においては、自動車の排出ガスによる大気汚染防止や自動車騒音を理由に、通行の禁止、制限等の交通規制を行なうことはできない建前になっていたので、大気汚染防止等のために交通規制が行なえるよう、第64回国会で道路交通法の一部を改正する法律が成立した。
(2) 改正の概要
ア 道路交通法の目的の改正
 改正前の道路交通法の目的は、交通の「安全と円滑」を図ることのみであったが、今回の改正により新たに、「道路の交通に起因する障害の防止に資すること」を加え、交通公害の防止を図るための交通規制も行なうことができるようにした(第1条)。
イ 交通公害の定義
 交通公害の定義については、「道路の交通に起因して生ずる大気の汚染、騒音および振動のうち総理府令・厚生省令で定めるものによって、人の健康または生活環境に係る被害が生ずることをいう。」として、新たに定義づけられた(第2条)。
ウ 交通規制の権限および手段
 交通公害の防止を図るための交通規制の権限および手段は、信号機の設置および管理(第4条第1項)、通行の禁止および制限(第7条第1項)、最高速度の指定(第22条第2項)ならびに徐行すべき場所の指定(第42条)に限られている。交通規制の権限および手段をこれらに限ったことは、これら交通規制を行なうことによって効果的に交通公害の防止を図ることができると考えるからである。
 また、公安委員会が交通公害の防止を図るために行なう通行の禁止および制限、最高速度の指定ならびに徐行すべき場所の指定は、原則として道路標識等を設置して行なわなければならないが、緊急を要するためまたはその交通規制の性質上やむをえないと認めるときは、道路標識等の設置にかえて警察官の現場における指示により、これらの交通規制を行なうことができることとなった(第9条第2項)。
エ 交通規制の手続
 公安委員会は、知事から交通公害の防止を図るため、大気汚染防止法(第21条第1項もしくは第23条第4項)または騒音規制法(第17条第1項)に基づく要請があった場合その他交通公害が発生したことを知った場合において、必要があると認めるときは、交通公害の防止を図るため交通規制を行なうものとし、この場合において、必要があると認めるときは、知事その他関係地方公共団体の長に対し、当該交通公害に関する資料の提供を求めることができることとしている。
 また、公安委員会は、交通公害の防止を図るため交通規制を行なう場合、その禁止または制限を行なうことにより、広域にわたり道路の交通に著しい影響を及ぼすおそれがあるときは、知事等の意見をきかなければならないとしている(第110条の2)。

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