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第1節 

1 騒音規制法の改正

 騒音の規制に関しては、昭和43年6月公害対策基本法の趣旨にのっとり制定された騒音規制法がある。騒音規制法は、工場騒音および建設騒音を対象に、これを規制する必要のある地域を指定地域として指定し(第3-7-1表参照)、地域の特性等に応じ規制基準を定め、基準に適合しないことにより周囲の生活環境をそこなう場合には改善命令等の行政措置を講ずることなどを内容とする。騒音対策は本法を中心に進められてきたが、第64回国会において騒音規制法の一部を改正する法律案が提案され、45年12月18日可決成立、同25日法律第135号として公布された。
 騒音は、各種公害の中で最もその苦情、陳情が多く、全体の4割近くを占めており、急激な都市化の進展、工業地域等の急激な膨張、モータリゼーションの進行等に伴い、騒音による生活環境の悪化が年々拡大し、かつ強まりつつある。今日の改正は、このような事態に対処するため、騒音を規制する地域の範囲を拡大するとともに、従来の工場騒音および建設騒音のほか、新たに自動車騒音を規制の対象に加えるなどの改正を行なったものである。
 その内容は、次のとおりである。
 第1は、目的規定の改正である。
 本法の目的規定中生活環境の保全に係る「産業の健全な発展との調和」に関する規定を削除するとともに、新たに自動車騒音についても、その許容限度を定めるなど必要な規制措置を講ずるものであることを明らかにした。
 いわゆる「調和条項」の削除は、政府の騒音公害に取り組む積極的姿勢を明確にしようとするものであり、公害対策基本法、大気汚染防止法等の目的規定の改正と軌を一にするものである。
 自動車騒音については、従来、道路交通法および道路運送車両法のもとで部分的にその対策が行なわれていたにとどまり、本法による規制の対象に取り上げられていなかった。これは、わが国の道路交通事情、自動車や道路の構造の問題等幾多の解決を要する問題との関係もあり、いまだ時期尚早と考えられたことによるが、近年自動車の構造に関する技術水準が相当高まってきており、また道路事情も徐々に改善されつつある一方、前述のように最近のモータリゼーションの急速な進行に伴い、自動車騒音により住民の生活環境がそこなわれる事態が深刻化してきており、国民の生活環境を保全するためには、もはやこれを看過することができない状態に至っているため、今回の改正となったものである。
 第2に、工場騒音および建設騒音について規制する地域として都道府県知事が指定すべき地域の範囲を拡大し、「住居の集合している地域、病院又は学校の周辺の地域その他の騒音を防止することにより住民の生活環境を保全する必要があると認める地域」に改めた。
 従来、工場騒音については、「特別区及び市の市街地(町村の市街地でこれに隣接するものを含む。)並びにその周辺の地域で住民の生活環境を保全する必要があると認める地域」を規制対象地域(指定地域)として指定すべきものとされ、たとえば市の市街地に隣接しないで別個に形成している町村の市街地等は対象にならず、また、建設騒音については、工場騒音の指定地域のうち住居の環境が良好である区域、病院、学校その他これらに類する施設の周辺の区域等に限って、建設騒音の規制対象地域に指定すべきものとされていた。
 しかし、産業の発展等に伴い工場騒音および建設騒音による生活環境の悪化は町村の区域にまで及んできている実態から、今回の生活環境保全の重視という目的規定の改正にも即応し、工場騒音について規制する地域と建設騒音について規制する区域との二本建の指定地域制を廃止するとともに、都道府県知事は、騒音の防止が必要であると認める場合には、その地域の実情に応じ、町村の区域についても騒音を規制する地域として指定できることとしたものである。
 なお、規制対象地域の拡大に伴い、建設騒音について改善勧告または改善命令が行なわれることとなる騒音の大きさの基準は、新たに区域の区分の要素を加味して定めることに改められた。
 第3に、自動車騒音対策の新設である。
 自動車騒音は、発生源である個々の自動車の構造のほか、交通事情や道路構造とも密接な関連を有する。したがって今回の改正では、個々の自動車について騒音の大きさの許容限度を定めるとともに、都道府県知事は、指定地域の自動車騒音が所定の限度をこえそのため道路周辺の生活環境が著しくそこなわれると認めるときは、都道府県公安委員会に対し、道路交通法の規定による指導をとるべきことを要請しうることとし、さらに、必要があると認めるときは、道路構造の改善等自動車騒音の大きさの減少に資する事項に関し、道路管理者または関係行政機関の長に対し意見を述べることができることとしている。
 第4に、都道府県知事は、火力発電所等の施設についても、その騒音により生活環境がそこなわれると認めるときは、通商産業大臣に対し、電気事業法等の規定による必要な措置をとるべきことを要請することができるものとし、あわせてこれに伴う立入検査等ができることとした。
 その他、今回、新たに都道府県知事は、指定地域について騒音の大きさを測定するものとする規定が設けられた。これは、規制の実施主体である都道府県知事に指定地域における騒音の状況を随時測定は握させ、これに基づいて工場騒音、建設騒音および自動車騒音から住民の生活環境を保全する措置をすみやかに講じうる体制を整備しようとするものである。

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