前のページ 次のページ

第1節 概説

 通常の公害物質は、排出規制によりその濃度を低くすることによって無害化し、あるいは自然浄化サイクルの中で分解消滅することによって、環境の保全が可能になるということが公害防止対策上の前提となっている。重金属による汚染を防止するためには、発生源に対する規制は当然行なわれるべきものであるが、根本的には重金属を回収し、人為的に固定し、あるいは生物圏外に拡散する以外には汚染の防止の方法はない。問題は、重金属類は土壌や生物に蓄積し濃縮する傾向があることであり、このため、きわめて微量であっても長期間にわたって排出が続けば、その事業場の近辺の土壌に蓄積し、魚介類中に濃縮され、あるいは農作物中に蓄積されることが考えられる。土壌そのものの汚染からは直接人体への被害は考えられないが、ひとたび土壌がある程度の汚染を受けるとその環境生物への影響は短期間では消えない。また、アルキル水銀等の水溶性金属塩類のある種のものは、検出不能な低濃度でありながら魚介類には、その何百倍という濃度で濃縮してゆく事実がある。したがって、重金属類による環境汚染を防止するためには、個別の排出規制だけでは不十分であり、時間のファクターを考慮に入れた対策が必要である。
 重金属対策は、水俣湾沿岸地域および阿賀野川流域に発生したメチル水銀中毒症、神通川下流地域に発生したカドミウム中毒症について、国がその原因の究明のために行なった調査研究をふまえ、昭和43年に公式の見解を示す前後から種々の対策が講じられてきた。

前のページ 次のページ