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第1節 

1 水質保全法等による規制の強化

(1) 水質保全法の一部改正
 水質保全法は、公共用水域の水質の保全を図るため指定水域の指定、水質基準の設定等に関する規定を設け、産業の相互協和と公衆衛生の向上に寄与することを目的として昭和33年に制定されたものであるが、その後における水質の汚濁の進行状況にかんがみ、本法による規制対象の範囲を拡大するとともに、国と地方公共団体との協力関係をいっそう密接にするなど、公共用水域の水質の保全のための施策をさらに強化する必要を生じてきた。このため、これらの事項を内容とする水質保全法の一部改正案を第61回および第62回国会へ提出したが審議未了となり第63回国会へ三たび提出したところ、45年5月12日に成立し、同年6月10日に公布、施行された。また、この改正により、新たに規制対象となった事業場についての実体規制法と本法との関係をより明確にするため、これら実体規制法の関係政省令に本法の水質基準との橋渡し規定を設けることとし、6月10日に関係政省令の改正が公布施行された。
 水質保全法の改正内容の要旨は、次のとおりである。
ア 公害対策基本法の趣旨に即して、この法律の目的のうち「産業の相互協和と公衆衛生の向上に寄与すること」とあるのを「国民の健康の保護および生活環境の保全と産業の相互協和に寄与すること」に改めるとともに、指定水域の指定要件についても、これに即して所要の改正を行なったこと。
イ 近年における水質の汚濁原因の多様化の傾向に対処して、この法律の規制対象として、従来からの工場、鉱山等に加え、へい獣処理場等、採石場、と畜場、廃油処理施設および砂利採取場を追加するとともに、し尿処理施設および養豚場等を政令で指定して追加するみちを開いたこと(これに基づき、水質保全法施行令が改正され、し尿処理施設が政令で指定された)。
ウ 水質汚濁問題については、全国的な立場から統一的な対策を実施するとともに地域の特殊性を考慮して適切な措置をあわせて講ずることが必要であることにかんがみ、公共用水域の水質の保全について、関係地方公共団体の長は、経済企画庁長官に対し、必要な協力を求め、または意見を述べることができることとするなど、国と地方公共団体との協力関係の緊密化に関して規定を整備したこと。
エ 水質基準設定後における指定水域の水質の保全に万全を期すため、都道府県知事が指定水域の水質の汚濁の状況をは握するため必要な測定を行なうものとしたこと。
(2) 指定水域の指定および水質基準の設定
ア 排水規制のしくみ
 経済企画庁長官は、水質保全法に基づき、河川、湖沼および沿岸海域等の公共用水域のうち、「水質の汚濁が原因となって人の健康を保護し、若しくは生活環境を保全するうえで看過し難い影響が生じ、若しくは関係産業に相当の損害が生じているもの又はそれらのおそれのある水域」について、所要の実態調査を実施したうえ、水質審議会の議を経て、かつ関係都道府県知事の意見を聞き、この水域を「指定水域」として指定し、同時に当該指定水域に工場、事業場等から排出される水の「水質基準」を設定するものとされている。また、このようにして設定された水質基準については、次に掲げる各実体規制法に基づき、各主務大臣、都道府県知事等がこれらの工場、事業場等からの排水について水質基準遵守のための規制および監督を行なうものとされている。
(ア) 工場または事業場(製造業関係のものに限る)については、工場排水規制法
(イ) へい獣処理場等については、へい獣処理場等に関する法律
(ウ) 鉱山については、鉱山保安法
(エ) 採石業に係る採取場については、採石法
(オ) と畜場については、と畜場法
(カ) 水洗炭業に係る事業場については、水洗炭業に関する法律
(キ) 廃油処理施設を設置する事業場については、船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律
(ク) 砂利採取業に係る砂利採取場については、砂利採取法
(ケ) し尿処理施設を設置する事業場については、清掃法および建築基準法
(コ) 下水道については、下水道法
イ 水質基準の設定の状況
 政府においては、水質保全法に基づき、昭和37年度から44年度までに42水域について指定水域の指定および水質基準の設定を行なってきた。これらの指定水域を掲記すると第3-5-1表のとおりとなるが、この表からも明らかなように、法施行(34年3月)から42年度までの指定水域数が22であったのに対し、43年度においては8水域、44年度には12水域が指定され、さらに45年度においては、第3-5-2表のとおり29水域が指定されている。このことは、水質汚濁問題の急激な進展に対応して、水質基準設定の迅速化が図られたことを意味している。
 規制対象項目についても、37年4月に指定水域第1号として指定された江戸川水域では、当時はpH、CODおよびSSの3項目が取り上げられたにすぎないが、46年2月9日に指定された旭川・吉井川水域では、pH、BODおよびSSのほか、石油系油分、フェノール類、銅、亜鉛、鉄、大腸菌群数、シアン、カドミウム等の健康9項目の18項目を対象としており、問題水域の水質汚濁態様が複雑化してきていることを反映している。
 また、健康項目のみを規制している指定水域は、44年度末でメチル水銀のみを規制している水域が28水域であったが、45年度においては健康9項目を規制するとともに、13水域が追加指定され、あわせて41水域となった。しかしながらこのうち9水域については、水島、洞海湾、播磨地先、小矢部川、鹿島灘、児島湾、吉野川および関川が一般水域として指定水域に指定されたことに伴い吸収されることとなったので、45年度末では第3-5-3表のとおり32水域となっている。
 したがって、これら両者を含めた指定水域の数は45年度末で103水域(一般水域71健康項目規制水域32)となっている。
 なお、松島湾、球磨川、八代地先海域、名古屋港、庄内川、渥美湾および豊川の7水域については、すでに水質基準の設定について水質審議会の答申が行なわれているのでこれに基づき近く告示される予定である。
ウ 水質基準の変更の状況
 45年度における指定水域または水質基準の変更の状況は、第3-5-4表のとおりである。
 なお、45年4月に水質汚濁に係る環境基準が閣議決定され、人の健康の保護に関する環境基準が、全公共用水域につき一律に適用すべきものとされ、しかもただちに達成すべきものとされた。そこで、人の健康に係る環境基準として掲げられているシアン、アルキル水銀、有機リン、カドミウム、鉛、クロム(6価)、ひ素および総水銀の健康8項目およびクロムの9項目について、一般水域における工場または事業場の水質基準に追加して規制を行なうこととし、45年8月1日づけで告示され、即日適用された。また、公共下水道および都市下水路の放流水についても同様の措置がとられ、45年11月14日づけで告示され、即日適用されることとなった。
 さらに、アルキル水銀のみの水質基準を定めた指定水域についても同様の措置をとることとし、前記9項目のうち、アルキル水銀を除く8項目をすべての規制対象事業場の水質基準に追加して規制することとし、45年9月9日づけで告示され、即日適用された。これらの健康項目規制は、特別の場合を除き、全指定水域について一律の基準として設定されており、その基準値は、次のとおりであるが、希釈効果等を勘案し、環境基準に掲げる基準値のほぼ10倍程度となっている。
エ 水質調査の実施の状況
 水質調査は、公共用水域における水質汚濁の実態を明らかにすることにより、指定水域の指定および水質基準の設定等の円滑な実施を図り、公共用水域の水質の保全に万全を期するために行なわれる。
 水質調査については、水質保全法第4条の規定に基づき、経済企画庁長官が公共用水域の水質の調査に関する基本計画を立案するものとされており45年度末までに176水域が調査対象水域として告示された。
 45年度においては、この調査基本計画に基づき、次のとおり調査を実施した。


(ア) 水域指定調査
 この調査は、水質汚濁の問題となっている水域について、水質汚濁の現状のは握ならびに当該流域の開発の現状および将来の計画をは握することにより、指定水域の指定および水質基準の設定に関して必要な資料を得るために行なう概括的な調査であるが、45年度においては9水域について調査を実施した。
(イ) 水質基準調査
a 一般水域関係
 この調査は、原則として水域指定調査を行なった水域のうち、当該指定調査の結果、指定水域の指定および水質基準の設定の必要があると認められる水域について水質基準の設定等に要する資料を得るために行なう詳細な調査であり45年度においては、14水域について調査を実施した。
b 水質基準見直し調査
 この調査は、水質基準の設定後において、水域における自然的または社会的経済的環境条件の変化等により、水質基準の改訂を検討する必要が認められる水域について、所要の資料を得るために行なう調査であり、45年度において、6水域について調査を実施した。
c 重金属関係水域調査
 この調査は、微量重金属により水質が汚濁し、または汚濁するおそれのある水域について、当該重金属に係る水質基準の設定等に要する資料を得るために行なう詳細な調査であり、45年度においては、5水域について調査を実施した。
(ウ) 水質保全調査
 この調査は、指定水域の水質の汚濁の状況をは握することにより、指定水域の水質の保全に万全を期するために行なう調査であって、45年度においては75水域(一般水域39、健康項目規制水域36)について調査を実施した。
(エ) その他の調査
 以上のほか、特殊問題調査(泥質中に存在する重金属が水質に及ぼす影響の調査)、未規制汚濁源調査(水質保全法の一部改正に伴い新規に規制対象となった水質汚濁源の実態調査)等所要の調査を実施した。


(3) 工場排水規制法による規制の強化
ア 特定施設の追加
 45年5月1日に工場排水規制法施行令が改正され、汚水または廃液を排出する特定施設として、みそ製造業の用に供する施設、無水けい酸製造業の用に供する施設、砕石製造業の用に供する施設、魚かすまたはフィッシュソリュブル製造業の用に供する施設について追加指定が行なわれ、即日施行された。
 また、46年2月16日には、同じく農薬製造業の用に供する特定施設として、アルキル水銀ろ過分離施設等の追加指定が行なわれ、即日施行された。
イ 規制権限の委譲
 工場排水規制法に基づく取り締り権限は、従来から大幅に都道府県知事に委譲されていたが、45年8月25日の公害対策関係閣僚会議において、公害が地域的問題であり、地域の実情に即した解決が求められるという特性にかんがみ、まだ委任されていない業種の委任を進め、さらにこれを法律上明定するなど地方公共団体の長の取り締り権限を拡大する。という方針が決定された。これに基づき、まだ委任されていなかった11業種についても、全面的に都道府県知事に委任することとし、45年9月18日にこの旨工場排水規制法施行令を改正、同年11月1日に施行された。これによって、工場排水規制法に基づく取り締り権限はすべて都道府県知事に委任されることとなった。

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