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第2節 

6 公害紛争処理法の制定

 公害紛争処理法(昭和45年法律第108号)は、45年5月第63回国会で成立し、同年6月1日公布され、同年11月1日から施行された。
 公害紛争は、公害そのものの性格を反映して、?当事者が多数にわたることが多いこと ?加害行為と被害の因果関係の立証が困難であること ?加害者の故意過失の証明が困難なこと ?被害は人の生命健康に及ぶ場合も少なくないこと ?被害者は経済的に弱い立場にある場合が多いこと ?解決を求める請求の内容も損害賠償、防止施設の設置および工場等の移転等多岐にわたることなどの特殊性を有している。
 このような公害紛争を解決する方法としては、最終的には民事訴訟等の司法制度によることになるが、現行の司法制度は、公害紛争のように技術的専門的な問題で、しかも迅速な解決を図る必要があるものについては、必ずしも十分な効果をあげていないうらみがある。また、行政上の制度として大気汚染防止法、公共用水域の水質の保全に関する法律および騒音規制法によって設けられていた「和解の仲介制度」についても、紛争の解決に不可欠な事実の調査等に必要な出頭命令権、立入調査権等の強制的手段が確保されていないこともあって、必ずしも十分利用されていたとはいえなかった。
 公害紛争処理法は、公害紛争の特殊性および公害紛争処理制度の現状にかんがみ、また公害紛争の処理のため必要な措置を講ずべき旨を定めた公害対策基本法の精神にのっとり、公害紛争について和解の仲介、調停および仲裁を行なう専門の機関を国および都道府県に設け、その迅速かつ適正な解決を図ることとしたものである。なお、公害紛争処理法においては、大気汚染防止法、公共用水域の水質の保全に関する法律および騒音規制法による「和解の仲介制度」を吸収し、一本化するとともに、公害に関する苦情についても、地方公共団体に公害苦情相談員を置き公害に関する苦情相談の窓口を明確にするなどその処理体制の整備に努めることを義務づけ公害に関する苦情の適切な処理を図ることとしている。
 公害紛争処理法による公害紛争処理制度の特色は、おおむね次のとおりである。
(1) 訴訟等とは異なり、紛争当事者の合意をあくまで基礎とする和解の仲介、調停および仲裁の制度を設けたこと
(2) 公害紛争の処理には専門的知識経験を必要とし、その処理は中立的立場で行なう必要があることから公害紛争処理を専門に行なう機構を設けたこと
(3) 公害紛争における被害者救済のため、因果関係の究明等事実の調査を紛争処理機関が積極的に行なうこととして、これに必要な権限を付与し、また費用についても当事者の負担を軽減するよう措置したこと
(4) 公害紛争においては、その解決にあたり、規制および助成等の行政上の措置に期待されるところが少なくないことから、紛争処理機関が紛争処理を通じて得た公害防止に関する施策についての意見を関係行政機関の長に申し出ることができることとし、その意見を行政上の施策に反映させるみちを開いていること

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