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第1節 

1 世論の動向

 1970年は、公害に関する世論の噴出した年であった。新聞、テレビ、総合雑誌などのマスコミ、市民団体等の機関誌、パンフレットなどのミニコミなどは、公害の状況を訴え、また公害問題の経済的、社会的分析を行ない、科学技術や人間社会のあり方を論じて、公害問題、公害対策に関する世論を形成していった。
 わが国の公害の歴史のなかで公害に関する世論は、足尾鉱毒事件、水俣病事件、公害対策基本法の制定等をめぐりいくつかのピークはあったが、昭和45年5月から46年にかけてのように、長期間にわたって、全国的なかつ深刻な議論と関心を呼びおこしたものは例がなかった。
(1) 世論調査
 急激にエスカレートしてきた公害問題に対応する国民の声を集めた世論調査がいくつか行なわれているが、これは公害に対する国民の関心の高さを反映しているといえよう。44年度には公害に関する世論調査は、ほとんど行なわれていないのである。45年1年間に行なわれた公害に関する世論調査のおもなものは、第2-8-1表のとおりである。
 これらの調査から国民の公害に対する反応をみると次のとおりである(カッコ内は前掲調査の番号を示す)。
 「大都市の欠点についてはどうでしょうか、あなたがふだん感じていることはどんなことですか。」という質問に対し、37.6%の人が「公害がひどい。」をあげ、第1位となっている(?)。また、「公害問題について新聞やテレビをよくみるか。」という質問に対しては、「よく見る。」が57%、「いつか公害を受けるかもしれないという不安を持つか。」という質問には、60%が「不安を持つ。」と答えている(?)。また、「人類の環境は年々有毒化されてひどくなり、放置すれば将来の地球上の生命がおびやかされる。」という意見についても、「賛成」が45%、「どちらかといえば賛成」が27%に達している(?)。これらは、公害問題に対する国民の関心の高さと被害感の強さを示すものといえよう。
 公害の原因については、「企業の社会的責任感の不足にある。」という意見に57%が「賛成」、28%が「どちらかといえば賛成」しており、また、政府の公害対策については30%が「消極的」、44%が「どちらかといえば消極的」という答をだしている(?)。「公害対策として、政府や地方自治体にはどんなことを望みますか」。という質問に対しては、「企業側に公害防止設備を設けさせる。」が35.9%、「道路、緑地帯、下水道などの整備」が32.2%、「関係法令を強化して厳重に取締る。」が28.9%となっている(?)。


(2) 新聞等への投書、社説の数
 公害問題に対する国民の関心の高まりは、新聞の投書欄への投書数の増加にも、その一端がうかがわれる。
 例えば45年1年間に、A新聞投書欄への投書数は総数6万2,452通であったが、これを問題別にみれば、6月になって急激に増加し9月にピークに達っした公害対策に関するものが2,281通、自然と動植物に関するものが2,090通に及び、第一位、第二位を占めた。これは43年1年間の公害問題に関する投書数673通(第27位)、動植物保護に関する投書数560通(第41位)、44年1年間の公害に関する投書数502通(第33位)、動植物愛護に関する投書775通(第14位)をはるかにこえるものである。
 また、新聞協会加盟111社のうち社説欄を設けているのは約50社であるが、新聞協会の調べによれば、5月19日以降の2週間だけでも公害を扱った社説は約120本、このうち水俣病補償関係41本、黒部市のカドミウム汚染関係17本、新宿柳町鉛汚染関係16本に及んだ。また、7月1か月間に公害を扱かった社説は200本に達し、1紙が1か月に4回の社説を載せたことになる。10月13日に法務省が公害罪法案の概要を発表したときには、約30紙の社説がこれを扱っている。
 テレビにおいても、特集、その他のレギュラーの報道番組の中心テーマとして公害は系統的にとりあげられた。そのおもなものには、「経済展望」、「現代の科学」、「現代の映像」、「日曜特集」、「こんにちは奥さん」(以上NHK)、「ワイドニュース」、「ドキュメント‘70」(NTV)、「ドキュメンタリー現代」(NET)などがある。そのほか、NHKの海外取材番組「生活優先への道」による世界各国の公害の実情と対策の報道、水俣病を扱ったRKB毎日放送の芸術祭参加番組「苦海浄土」、毎日放送の「公害への挑戦」などの公害キャンペーンなどが注目された。

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