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第4節 

1 健康被害

 水質汚濁と健康被害との関係は、人がその汚染物質を摂取するという行為によって発生する。この因果関係は汚染した水を人が飲料水等として摂取する直接的なケースと、水の中の汚染物質が農作物や水中の魚介類に生物濃縮を起こし、これらの農水産食品を人が摂取することによる間接的なケースの2つがある。幸い汚染飲料水による健康被害の公害の事例はいまだ認められていないが、水俣病は工場廃液中のメチル水銀化合物が魚介類中に濃縮し、それを連日、大量に長期間摂食することにより発生した例であり、原因の探求や処置が遅れると深刻な健康被害が発生する事実を経験した。
 このため想像される有害物質については、規制物質の拡大等法整備の強化による水質汚濁そのものの防止とともに、生物汚染についても健康被害の事前防止を建前に広範な調査を継続してきている。厚生省では水銀とカドミウムについてその人体影響を重視し、それぞれ「環境汚染暫定対策要領」を示し(水銀については昭和43年8月、カドミウムについては44年12月)、この対策要領に沿って、所要の一般調査あるいは少しでも疑わしい地域が認められたときはその早急な詳細調査を進め、同時に所要の対策を行なうなどの重点的努力を続けている。
 今までのところ水俣病等の事例以来、同種の有害物質について、あるいは他の有害物質についても同様であるが、汚染の存在あるいは漁業被害等は幾つか認められながらも健康被害に至るケースは発生していない。
(1) 水銀化合物による健康被害
 昭和28年〜35年にかけて熊本県水俣湾沿岸地域において、39年〜40年にかけて新潟県阿賀野川下流域に発生したメチル水銀中毒事件は、いわゆる水俣病として公害の恐ろしさを警鐘するところとなったが、現在では両水域の魚介類の水銀汚染はほとんどみられなくなっている。とくに阿賀野川では自然の常態に戻っている。これら両地域とも魚介類摂取の禁止および原因と目される工場の操業中止によって、熊本においては36年以来、新潟においては41年以来新たな被害者が出ていないが、発生当時中毒症状が明確に表われていない要観察者等の中から、年とともに中毒症状の表顕してくる者があり、これらが年々新しい水俣病認定患者として若干ずつ増加してきている。46年2月末現在における水俣病患者発生状況は、第2-2-12表のとおりである。
 41年以来、厚生省で続けている各地水域における水銀生物汚染調査は、すでに約100水域になっているが、今までの調査結果から、比較的水銀濃度が高く検出されたのは富山県神通川、小矢部川、奈良県吉野川、北海道無加川および福井県日野川の5水域がある。いずれもこれらの水域での魚介類の連日大量の摂食習慣をやめるよう警告するとともに、精密な調査を行ない、現在までの調査の結果、水俣病の発生は心配ないとされている。なお、神通川、無加川、日野川については引き続き調査を進めている。


(2) カドミウムによる健康被害
 カドミウムによる環境汚染と関係のある健康被害としては、富山県神通川流域に発生したイタイイタイ病がある。この疾患については、公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法により、医療救済が行なわれており、認定患者数は、46年2月末現在、第2-2-13表のとおり94人であって、この1年間に2人が新たに患者に認定され、4人が死亡した。
 その他のカドミウムによる環境汚染の著しい地域については、厚生省は44年9月に示した環境衛生局長通知「カドミウムによる環境汚染暫定対策要領」に基づいて、カドミウム環境汚染要観察地域として、住民の健康調査等を進めているが、これまでのところ、これらの地域においてはカドミウム中毒と判定されるものは発見されていない。
 なお、46年2月末現在、要観察地域は、宮城県鉛川・二迫川流域、群馬県碓氷川・柳瀬川流域、長崎県佐須川・推根川流域、大分県奥岳川流域、富山県黒部地域、福島県磐梯地域および福岡県大牟田地域の7地域である。

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