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昭和45年度公害白書の発表にあたって

総理府総務長官
山中 貞則
 わが国は、昭和30年代以降長期間にわたって比類まれな高度の経済成長を続けており、私的消費の面においても次第に豊かさを増しつつありますが、その反面、かかる驚異的な経済成長を支える生産の拡大と生活水準の向上に伴い、わが国の環境に排出される各種排出物、廃棄物も逐年大幅に増大しており、その結果環境の汚染が全国的に進行し、快適な生活環境がそこなわれつつあるばかりではなく、汚染の著しい地域においては、すでに健康被害という重大な公害の発生をみるに至っております。
 さらに、現在では、全世界的な汚染物質の増大、累積により、環境汚染の現状は、局地的な公害問題を発生させるに止まらず、われわれ人類の生存の基盤である環境のシステムそのものの破たんすら憂慮されるまでに深刻化しつつあります。
 このような環境汚染の進行は、環境問題に対する関心を急激に高めるとともに、物質的な豊かさによっては補い得ない環境問題との関連において、改めて豊かなる生活のあり方を考えさせ、さらには人類の繁栄の方途について抜本的な再検討をせまっております。
 政府は、このような環境問題の現状に対処するため、昨年末の第64回臨時国会とそれに引き続く第65回通常国会において環境保全対策の拡充強化、事業者責任の明確化等を中心とする公害関係法制の根本的改善整備を図るとともに、本年7月1日からは環境庁を発足させることといたしております。
 今後は、国民各位の御理解と御協力を基礎として、この整備された法制と機構を十二分に活用し、公害問題の克服と自然環境の保護にさらに努力を傾注してまいる所存であります。
 この公害白書は、公害対策基本法に基づき、政府が第65回国会に提出した報告書であり、その内容は、環境問題の現状と環境問題をめぐる国際的な動向を解説した総説、わが国の公害の現状、この1年間に実施した公害対策および昭和46年度において講じようとする公害関係施策の4部からなっております。
 この白書を通じて、国民の皆様が、公害および環境問題の動向とこれに対して、政府が実施し、また実施しようとする施策についての御理解を深められ、さらには公害対策の方向についての御意見や御批判を賜わることを念願している次第であります。
昭和46年5月

厚生大臣
内田 常雄

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