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第1節 

1 公害紛争処理制度の確立

 公害紛争は、年々増加の傾向にあり、かつ、その内容も深刻化している。かかる公害紛争の解決は、最終的には民事訴訟によらざるをえないとしても、被害救済の見地からは、できるだけ簡易迅速な処理を図ることが必要である。しかしながら、公害紛争を適正に解決するには、因果関係の究明等技術的専門的知識を必要とし、また被害者には一般に弱い立場にあることなどを考慮すれば、その簡易迅速な解決を図るには、現行の司法、行政上の諸制度では必ずしも十分でないうらみがある。
 このような現状にかんがみ、公害対策基本法第21条第1項に基づいて、公害紛争の迅速かつ適正な解決を図るため、公害紛争処理制度の整備等を図ることなどを目的とする「公害紛争処理法案」を第63回国会に提出している。
 この「公害紛争処理法案」は、第61回国会および第62回国会に提案されたがいずれも審議未了のため、廃案となったものである。
 同法案の概要は次のとおりである。
(1) 紛争処理機構
 公害紛争を処理するための専門的な機構を中央および地方に設け、公害紛争について和解の仲介、調停または仲裁を行なわせることとしている。
 中央には、総理府の機関として、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命する委員長および委員5人(うち非常勤3人)をもって組織する中央公害審査委員会を設け、公害に係る紛争のうち社会的に重大な事件、2以上の都道府県の区域にわたる事件等について調停および仲裁を行なうこととしている。
 都道府県には、条例で定めるところにより、議会の同意を得て知事が任命する非常勤の委員9人以上15人以内をもって組織する都道府県公害審査会を設け、委員の互選により選任された会長が指名する委員が、都道府県の区域内の公害紛争について和解、調停および仲裁を行なうこととしている。また、公害審査会を置かない都道府県にあっては、都道府県知事が毎年9人以上15人以内の公害審査会委員候補者を委嘱し、その中から都道府県知事が指名する委員が、公害審査会の場合と同様和解の仲介、調停および仲裁を行なうこととしている。
 なお、被害地および加害地が2以上の都道府県の区域にわたる公害紛争については、関係都道府県が事件ごとに共同して連合審査会を設け、これを処理することができることとしている。
(2) 権限
 紛争処理機構には、その所掌する事務の性質上、独立性を確保するための配慮を払うとともに、公害紛争の迅速かつ適正な解決を図るため、調停の場合には当事者に対し出頭要求を、さらに一定の事件については文書、物件の提出要求および立入検査を、また仲裁の場合には出頭要求のほか文書、物件の提出要求および立入検査を行ないうることとしている。なお、中央公害審査委員会については、専門の事項を調査させるため専門調査会を置くことができることとしている。
 また、中央審査委員会にあっては内閣総理大臣または関係行政機関の長に対し、都道府県公害審査会にあっては都道府県知事に対し、それぞれ具体的な紛争の処理を通じて得られた公害防止の施策の改善についての意見を申し述べることができることとしている。
(3) その他
 以上のほか、公害問題は、地域住民に密着した問題であるので、地方公共団体は公害に関する苦情について適切な処理に努めるものとし、公害に関する苦情について住民の相談に応ずる「公害苦情相談員」の制度を設けることとしている。

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