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第1節 

1 水質保全法および工場排水規制法等による規制

(1) 排水規制制度のしくみ
 およそ河川、湖沼、沿岸地域等の公共用水域の水質の保全に関しては、古くから河川法、港則法、鉱山保安法等の各種の関連法規が制定、施行されていたが、戦後の経済の発展および人口の都市集中に伴う水質汚濁問題の多発化と複雑化に対処して、昭和33年12月25日、排水規制を直接の目的とする公共用水域の水質の保全に関する法律(水質保全法)および工場排水等の規制に関する法律(工場排水規制法)が公布され、翌年3月1日から施行された。
 上記法律および関連法律による排水規制のしくみは次のとおりである。
 まず、水質保全法に基づき、経済企画庁官は、水質汚濁が原因となって公害が問題となっている水域を指定水域として指定し、この水域ごとに、工場排水、鉱山排水、水洗炭業排水および下水道からの放流水等について、水質基準を産業の相互協和と公衆衛生の向上という統一理念の下に定める。
 この水質基準を遵守させるため、工場排水については、主務大臣は、工場排水規制法に基づき同法施行令で定める「特定施設」を設置する工場または事業場であって指定水域に汚水等を排出するものについて、特定施設の設置等の届出、水質の測定等を行なわせるとともに、汚水等の処理方法の計画変更あるいは改善等の命令を行なうこととされている。この命令違反には罰則が適用される。また、鉱山排水、水洗炭業排水および下水道からの放流水については、それぞれ鉱山保安法、水洗炭業に関する法律および下水道法に基づき、水質保全法により定められた水質基準が遵守されるようそれぞれの所管大臣が、監督、指導を行なうこととしている。
(2) 水質保全法の適用
ア 水質保全法の概要
 水質保全法の主要な骨子は、河川、湖沼、沿岸、海域等の公共用水域のうち、水質の汚濁が原因となって関係産業に相当の損害が生じ、もしくは公衆衛生上看過しがたい影響が生じているもの、またはそのおそれのあるものについて、経済企画庁長官は、所要の実態調査を実施のうえ、指定水域として指定し、同時に当該指定水域に係る水質基準を定めることを規定していることである。この水質基準とは、工場、事業場、鉱山、水洗炭業または下水道から指定水域に排出される水の汚濁の許容限度である。指定水域の指定と水質基準の設定にあたっては、水質審議会の議を経ることとされているとともに、地域社会への影響が大きいため、関係都道府県知事の意見を聞かなければならないこととされている。
 ちなみに、指定水域以外の水域に排出される水または工場排水規制法に定める特定施設を設置していない工場または事業場から指定水域に排出される水については、地方公共団体が必要に応じ条例により所要の排水水質規制を行なっている。
イ 指定水域の指定および水質基準の設定の状況
 昭和33年における水質保全法の制定以来、43年度末までに30水域について指定水域の指定および水質基準の設定を行なってきたが、近年における産業活動の活発化、都市集中化等に起因する水質汚濁の増大に対処するため、44年度においては、第3-5-1表に示すように、一般水域については、和歌川、神崎川、淀川(下流)等12水域について指定水域の指定および水質基準の設定を行なった。このうち、都市河川方式を適用した水域は7水域で、これで全国の都市河川のおおむね全域について水質基準の設定をみたことになる。
 また、メチル水銀のみに係る水域についてじは、和歌川、五ヶ瀬川および大竹、岩国地先海域の3水域につき、メチル水銀以外の項目についてはも水質基準が設定されたので、これをメチル水銀関連水域から除き、新たに、千葉県市原五井地先海域および大阪府高石市泉南地先海域を指定水域に加えた。これにより、メチル水銀のみの指定水域は、合計28水域となった。
 以上により、44年度末までに指定水域の指定および水質基準の設定が行なわれた水域は、メチル水銀関連水域28水域含め、70水域にのぼっている。
ウ 水質基準の変更の状況
 44年度における水質基準の変更は、シアンおよびクロムに係る変更および規制項目の追加等を内容とする変更である(第3-5-2表参照)。
 シアンおよびクロムについては、昨年の木曽川、多摩川における魚のへい死事件にかんがみ、ほぼ全指定水域について、基準項目としての追加、小規模工場の適用除外の廃止等により、すべての工場または事業場について規制を行なうこととしたものである。
エ 水質調査の実施の状況
 水質基準を設定するためには、水域における流水の水質、工場排水等の水質および両者の因果関係等各水域ごとの水質汚濁のメカニズムについて詳細な科学的調査(いわゆる水質調査)が必要であり、経済企画庁長官は、水質保全法第4条に基づき策定した「公共用水域の水質の調査に関する基本計画」に準拠して所要の水質調査を実施している。
 44年度においては、その一環として次のとおり調査を実施した。
(ア) 水域指定調査
 水域指定調査は、調査対象水域について概括的な調査を行ない、水質汚濁問題の所在をは握するとともに、当該流域の開発の現状および将来計画をは握することによって、早急に水域の指定を行ない、水質基準の設定を行なう必要があるかどうかなど排水水質の規制に関して必要な資料を作成するために行なうもので、44年度においては、8水域について調査を実施した(第3-5-4表参照)。
(イ) 水質基準調査
 水質基準調査は、指定調査の結果に基づき、早急に水域の指定を行ない排水水質の規制を行なう必要があると認められる水域について、水質基準の設定等を行なうのに要する汚濁のメカニズムに関する詳細な資料を作成するために行なうもので、44年度においては、17水域について調査を実施した(第3-5-4表参照)。
(ウ) 水質保全調査(アフターケアー調査)
 水質保全調査は、指定水域の水質のその後の状況をは握し、排水水質規制の効果を総合的にチェックするとともに、問題があれば適切な措置を講ずるために行なうもので、44年度においては、メチル水銀関連水域を含め、65水域について調査を実施した。
(エ) その他の調査
 以上のほか、海域における特殊問題(拡散状況)等につき所要の調査を実施した。


(3) 水質保全法による排水規制の強化の検討
 近年における公共水域の水質汚濁の汚濁源の多様化、水質汚濁問題の全国的な発生傾向等に対処して、水質基準による排水規制対象の範囲をへい獣処理場、と蓄場、し尿処理施設、養豚場、廃油処理施設等からの排水にまで拡大することとし、これを主要な内容とした水質保全法の一部改正法案を第61回国会、第62回国会に提案したが審議未了となった、同法案は、第63回国会にも提案している。
(4) 工場排水規制の強化
 指定水域の増加と経済発展に伴い、工場排水規制法に基づき監督を行なう対象工場の数が増加したこと、また、地域社会と密接な関係にある公害監視の事務は地方公共団体が行なうことが望ましいとの観点から、工場排水規制法に基づく立入検査、報告徴収、改善命令等の権限を、44年4月1日から、大幅に都道府県知事に委任することとなった。
 この大幅な権限委任によって、きめ細かな指導監督が行なわれることが期待されている(第3-5-3表参照)。


(5) 公害対策基本法に基づく環境基準の検討
 排水水質規制の前提として、本来公共用水域において維持されることが望ましい水質のレベルを設定することが必要である。このためもあり、経済企画庁において、44年6月、経済企画庁長官の諮問機関である水質審議会に環境基準部が設置され、公害対策基本法第9条に基づく水質汚濁に係る環境基準の設定の基本方針につき検討が行なわれ、45年3月31日答申された。

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