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第1節 

1 概観

 日本列島は環太平洋地震地帯に位置しており、地殻運動が激しく、地盤の隆起、沈下は絶えず発生している。この地殻運動による地盤変動のほかに、人為的な原因による地盤の沈下がある。すなわち、地下の鉱物資源の採取によるもの、沖積平野における地下水のくみ上げによるものなどである。このうち公害として取り上げられる地盤沈下は主として地下水のくみ上げによって生ずるものであって、鉱物の採取のための土地の掘削によるものを除くとしている。
 わが国の平野部は大部分沖積平野であり、地下水を豊富に含んだ比較的軟弱な地盤であるため、沖積層に含まれている地下水の急激かつ大量のくみ上げが行なわれる場合、地盤沈下が起こりやすく、また、軟弱地盤特有の自然圧密による地盤沈下もわずかではあるが生じていると考えられる。
 東京、大阪等の大都市周辺地帯は、利根川、淀川等によって形成された河川デルタの沖積平野地帯で、これらの都市周辺の工業地帯では、従来、工業用水の大部分を地下水に求めたため、地盤沈下は昭和の初期から観測されていたが、地下水のくみ挙げ対策について具体的な措置をとるまでに至らなかった。
 戦後、わが国の産業は、東京、大阪を中心として急速に発展し、工業地帯の拡大、人口集中が著しかったため、都市用水需要は著しく増大した。とくに工業用水は地下水に依存せざるをえなかったため、これらの地帯では地盤沈下がしだいに拡大し、東京江東区の0m地帯はしだいに拡大した。
 昭和24年8月のキティ台風、25年9月のジェーン台風が来襲した時に、東京、大阪地方の地盤沈下地帯を含めた低地帯は広範囲にわたる浸水をみ、また一方、これらの大工業地帯の地下水の過大なくみ上げによる水質の悪化、地下水の涸渇による揚水が困難になってきたこともあって、31年には工業用水法を制定し地下水のくみ上げを規制するとともに代替水源としての工業用水道の建設を促進することとなった。さらに、37年には、工業用水法を改正強化するとともに建築物用地下水の採取の規制に関する法律(ビル用水法)を制定し地盤沈下の防止を積極的に図ることとなった。
 しかしながら、その後もとくに大都市周辺における工業立地、あるいは人口集中の傾向はますます強まっているため、これら地域における都市用水需要は急増しており、水資源の開発の遅れもあって、地下水のくみ上げの転換対策に困難をきたしている現状にある。
 首都圏、阪神圏あるいは中部圏における工業地帯や住宅地は今後ますます拡大することが予想されるので、これに対する水源確保対策を確立して、地下水の過大なくみ上げを規制することにより、地盤沈下を防ぐとともに、すでに沈下している東京江東地区、大阪西部臨海地帯の高潮対策、下水道対策等をさらに促進する必要があろう。

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