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第4節 

3 農林水産業に与える影響

(1) 農業被害
 水質汚濁による農業被害には、農作物に対する被害および農業用施設に対する被害がある。
 農作物に対する被害には、汚濁水の濃度が限界濃度をこえて直接作物に被害を与える場合と、汚濁物質が土壌に蓄積してその物理性や化学性を悪化したり、土壌中の微生物活動に影響を与えて間接的に作物の正常な生育を阻害する場合とがあるが、その状況は汚濁物質の種類、濃度、農作物の種類、品種、天候、土壌の性質、作物の生育の時期等よって異なり、きわめて複雑である。農作物に被害を及ぼす汚濁物質としては、都市汚水および工場排水に含有される有機物のほか、工場排水および鉱山排水に伴う塩類、重金属がある。
 農業用施設に対する被害としては、浮遊物が水路壁、スクリーン等に付着して機能を低下させたり、酸性水によって揚水機を腐蝕させるような場合がある。
 40年度に全国の農地を対象として行なった調査によれば、このような農業被害は898地区、12万7,000haに達しており、その後さらに増大していると予想されるので、44年度から2カ年計画で調査を実施している。
(2) 水産被害
ア 水産被害の概況
 水質汚濁による水産被害の発生は依然として多数に及び、また、その発生場所も全国的範囲に及んでいる。
 水質汚濁の発生源は、工場、事業場等からの排水が多いが、その他の要因も少なくなく、また、その様態においてもますます多様化する傾向をみせている。
 とくに近年は、シアン等毒物による魚類の大量へい死等の事例が多発しており、また、固形物の浮遊または沈積による操業障害も問題となっている。さらに、魚介類の汚染のうわさによる当該水域の水産物の市場価値の低落、赤潮の発生による漁獲量の減少等間接的な被害も発生している。
イ 水産被害の発生源
(ア) 工場排水等
 43年度についての都道府県報告によれば、水産被害の発生源としては、工場、事業場からの排水、土木工事や砂利採取に伴う汚濁水、都市汚水、鉱山排水、し尿、家畜汚水、農薬等があり、工場・事業場からの排水としては繊維工業、パルプ工業、化学工業、石油精製業、でん粉製造業等従来から汚染源であったものが主となっている。
(イ) 船舶からの排油等
 船舶からの排油等による水産被害が東京湾、伊勢湾、瀬戸内海等で発生しているほか、衝突事故等による油の流出が原因となっている水産被害も発生している。
(ウ) その他
 海水を工場の冷却水として使う場合、この温排水は、漁場環境に種々の影響を与えている。また、ビニール、木皮等が漁業操業に大きな支障を与えているなど、水産被害はますます多様化の傾向にある。
ウ 水産被害の態様
(ア) 海面
 海面においては、のり、かき、真珠、はまち等の養殖業のほか、沿岸漁業のほとんどの業種に被害がみられる。
 養殖業では、のりの被害が主体で、地域的にも、のり養殖地域の大部分に及んでおり、その被害の態様も発芽、生長の阻害のみならず、油等の付着による商品価値の低下等、多様にわたっている。
 このほか、かき、真珠、はまちのへい死、生産減がみられる。
 養殖業以外においても、水質の汚濁等に起因する魚類の大量へい死、漁獲高(数量、金額)の減少がみられるほか、着臭等による生産物の価値低下の例も多い。また、瀬戸内海では活魚として販売することができないために生ずる生産物価値の低下という現象もみられる。
(イ) 内水面
 内水面においては、さけ、ます、あゆ、こい、ふな、うなぎ等の主要魚種に被害がみられる。
 内水面における漁業被害のおもな事例としては、シアン等毒物による魚類の大量へい死、産卵場の滅失、、魚類の生長阻害や棲息不能、さけ親魚のへい死あるいは採卵した卵の使用不能、さく河魚類のそ上不能、さらに当該水域での操業不能等の事例が各地で発生している。

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