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第3節 海水の汚濁

 近年、海域、とくに内海、港湾等では各種産業からの排水、都市下水道による汚濁が急激に進行しており、洞海湾等のように海水の移動の少ない海域では、地域の生活環境にも悪影響を及ぼしている。
 さらに、四日市、水島地区では、製油所、石油化学工場や港湾内における船舶から投棄される廃油等が魚に着臭し、その商品価値の低下をきたしている。このような状況から、沿岸漁業やレクリエーションのために必要な環境を保全するために、水質保全法、工場排水規制法によって、汚水の排出を規制している。さらに石油関連産業の急激な発展と海上交通量の急増に伴い、船舶の油による海水の汚濁が問題となってきているため、上述の2法に加えて昭和42年8月に「船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律」が制定され、これにより船舶からの油による海水の汚濁の防止対策が進められている。
 船舶からの油の排出は、海難事故によるもののほかに、通常、船舶の運航によって生ずる廃油がある。この廃油は、ビルジ、油性バラスト水およびタンク洗浄水がおもなものである。
 ビルジは、船舶の機関から運転中に漏出する燃料油や潤滑油を含む廃油であり、ビルジ排出防止装置を設置していない船舶から、わずかであるが常時海中に排出されている。
 油性バラスト水は、油送船が船積港に空船で回送されるときに喫水を深くして船体の安全を保つため貨物倉に入れるものである。この量はビルジおよびタンク洗浄水に比べ最も多く、船積港による積荷前に海中に排出されている。このため、外航油送船による原油輸入の際は、わが国の周辺の海域では問題にならないが、内航油送船の場合は、船積港が国内であるのでその付近の汚濁が問題となっている。
 タンク洗浄水は、船舶が検査、修繕のため造船所に入渠する場合と油送船が荷油の種類を入れ替える場合等に貨物倉その他のタンクなどを洗浄することから生ずる廃油である。その量は、油性バラスト水に次いで多く、油の含有量も多いため陸地の付近で排出すると大きな被害を生ずるおそれがある。
 この油性汚水が、わが国沿岸で発生する年間の量(廃油処理施設で処理される油性汚水の量を含む)は、39年で約1,000万トン、47年には2,300万トン、50年には2,600万トンにもなるものと推定されている。
 一方、都市近海の海域では流入河川からの汚濁、沿岸の都市下水、工場排水等による汚濁が進んでおり、この状況を一例として油分の含有量とCOD数値をもって示すと、第2-2-3表のとおりである。
 これらの資料よりみると、一般的にいって港内は港外に比較して汚染が進行しており、また、港の形状別に比較すると、奥行の深い港は、港外と港内の汚濁の差が大きく認められる。
 油分についてみると、石油工業のある港、入出船舶の多い港および大都市の港に高い汚染度がみられる。海水汚濁の原因としては、
(1) 沿岸航行船舶の排出する油類


(2) 臨海工場から流出する廃液
(3) 大都市沿岸に投棄されるし尿その他の汚物
 の三つに大別されるが、各種の経済活動の中心となっている東京湾、伊勢湾、瀬戸内海に多発している(第2-2-4表参照)。
 海上保安庁が44年中に通報等により、具体的には握した海水汚濁発生件数は、第2-2-4表のとおり308件で、43年の264件に比べ62件、25%の増加を示している。
 海水汚濁発生件数を原因別にみると、油によるものが大部分で、308件のうち273件、89%を占めており、また、発生海域別にみると、東京湾51件、伊勢湾26件、瀬戸内海(大阪湾を含む)87件で、この3海域で53%を占めており、海水汚濁件数がこれら海域に集中していることが注目される。

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