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第2節 

2 今後における公害対策の課題と方向

 今日すでに重大化している公害をもたらした諸要因は、適切な対策が講ぜられないかぎり、今後いっそう増大するおそれがある。巨大な生産設備と高度の生産技術を誇る大企業群が集積し、一大コンビナートを形成する一方、都市指向型の生活パターンが支配的であるわが国において、都市への人口流入は止め得ないすう勢となり、多様化し、高度化した日常生活行動が集積して、過密現象を顕著にする。主要エネルギー源である重油消費量は今後急速に増大し、重化学工業その他の産業からの排水量の増大や汚濁物質の複雑化も進むであろう。また、都市の膨張等に伴って廃棄物も質的に多様化し、モータリゼーションの進行や高速道路、航空機等交通手段の急速な発展に伴う騒音問題も見逃せない。
 このように、今日の公害は、発生源において多種多様であり、汚染範囲は広域化し、重大、複雑な影響・被害を及ぼすものである。
 このような公害問題の根本的解決を達成することは決して容易ではないが、公害対策基本法に示された基本的な防止施策を着実に実行に移し、科学的、総合的、計画的な公害対策の実現に努めることが急務である。また、国土の総合的な開発計画、都市計画、産業政策、エネルギー政策、交通運輸政策等において公害防止の配慮をますます強め、広い視野にたった実効ある対策の実現に努めるべきであるが、当面つぎのような課題に施策の重点を置く必要がある。
 第1に、環境基準の設定の推進である。すでに設定をみたいおう酸化物、一酸化炭素ならびに水質汚濁に係る環境基準に引き続き、浮遊ふんじん、騒音等について、すみやかに環境基準を決定し、公害対策推進の目標を明らかにする必要がある。公害防止施策の目標を数量化して示すことによって、防止施策の選択や実施効果の判定が計量的に可能となり、対策の妥当性や実用性を確保することができる。
 第2に、発生源対策の強化である。各種の汚染物発生源に対して実効ある規制および適切な誘導を行なうため、地域の汚染物排出量の動向や環境汚染の動向に応じて、各種規制法令上の規制基準の強化等を図らなければならない。この、場合規制基準は、環境基準およびその達成期間と地域の汚染総負荷量との関係から科学的に設定されるべきである。また、いおう酸化物による大気汚染を根本的に解決する観点から、すでにその端緒が開かれた低いおう化対策の推進が重要である。
 第3に、公害防止技術の開発である。公害に関する規制措置を実効あるものとするためには、より効率的な防止技術の開発が不可決であり、排煙脱硫技術や重油直接脱流技術の推進、自動車排出ガスによる大気汚染防止技術、各種排水処理技術、その他の各種公害防止技術および計測技術の開発がきわめて重要である。
 第4に、公害防止に関する社会資本の整備も急を要する課題である。防止対策としては、下水道をはじめとして、緩衝緑地、清掃施設、廃油処理施設、上水道、工業用水道、都市・産業廃棄物処理施設等々、公害防止に直接役立ち、あるいはこれに資する社会資本の種類はきわめて多い。これらの社会資本は単に公害防止のみならず、国民生活の安定向上のために不可欠なものであるが、わが国においては、民間投資の伸長に比較して社会資本の整備は立遅れの状況にある。資金の重点的、効率的投入を図ることによって、これら社会資本の整備の促進を図らなければならない。また、河川等に蓄積した汚濁物質の除去等も必要である。さらに、社会資本の整備と並行して公害発生源における防止施設の整備に対する投資を積極的に推進するため、中小企業に対する配慮をも深めつつ、公害防止事業団事業の拡充、日本開発銀行による融資等の金融面や財政および税制面においてさらに助成措置を構ずる必要がある。
 その他、公害の原因と影響に関する組織的な調査研究体制の確立、公害の未然防止のための科学的かつ総合的な事前調査の実施、公害監視測定体制の整備、公害紛争処理制度の確立等各般にわたる公害防止施策を総合的、計画的に実施しなければならない。
 以上のように、公害の根本的解決を図るために今後講ぜられるべき対策は、広範多岐にわたっているが、これらを有機的に組み合わせ施策の効率的実施を図るためには、地域の特性に適応した公害防止計画等に基づいて総合的かつ計画的な施策が強力に実施されなければならない。そのため、とくに公害防止計画策定地域の拡大を図るとともに、公害防止事業に関する企業の費用負担原則を確立し、国および地方公共団体の重点的投資とあわせて公害対策の円滑かつ効果的な推進を図らなければならない。
 なお、企業が地域社会と融和しつつ、結集して自主的に公害を防止しようとする努力を助長することも必要であり、また、公害防止機器の開発,供給等の施策も重要である。
 さらに、公害防止は、産業経済政策、運輸交通政策、国土開発政策、社会開発政策等の総合的な開発発展政策と深く結びついているものであり、新全国総合開発計画や新経済社会発展計画においても公害防止のための諸々の配慮が払われているところであるが、今後においてもこのような広い視野と高い立場から一貫した公害対策を推進していくことが不可欠であろう。
 わが国の公害対策は、基本法の制定以来その基本理念にそって体系的、総合的に整備されつつあるが、公害発生要因の拡大傾向もまた著しく、公害対策の効果が国民の日常生活の上で十分実感される段階には至ってない。
 しかしながら、わが国のきびしい経験と独自の行政手法に基づく各般の防止対策は、すでに着実に軌道に乗りはじめている。
 これらの対策をさらに強力に整備充実し、全力をあげて公害問題の克服に立ち向うことこそわれわれに課せられた70年代の重要な課題であり、わが国経済発展の成果を真に偉大なものたらしめる途もそこにある。

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