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第2節 

1 公害対策の進展

 わが国の公害問題の推移ち動向に対応して、各般の防止対策が講ぜられてきたが、昭和42年に公害対策基本法(基本法)が制定され、公害行政が取り上げるべき公害の範囲が明らかにされるとともに、公害対策の基本理念やしくみが定められるに及んで、これまでどちらかといえば個別的、事後的に講ぜられがちであった公害対策は、予防的視点に立って、総合的、体系的に整備充実されはじめている。
 また、政府の公害対策の一元的推進のため、基本法に基づいて公害対策の基本的事項の審議決定を行なう内閣総理大臣を会長とし、公害関係の全閣僚を委員とする公害対策会議が設置され、公害対策関係行政の一元的な運用を図るうえで重要な機能を果たしている。
 進展した公害対策のおもなるものは、次のとおりである。
 第1は、公害対策推進の目標となる環境基準の設定である。基本法第9条に基づき、人の健康の保護や生活環境の保全のために維持することが望ましい環境基準が逐次設定され、公害対策が指向すべき目標が明らかにされるに至った。すなわち大気汚染については、44年2月に、いおう酸化物、45年2月には一酸化炭素に係る環境基準が定められ、さらに水質汚濁については、45年4月に環境基準が決定された。浮遊ふんじん、騒音等に係る環境基準の審議も進められている。これらによって、地域の汚染状況の統一的な評価と改善目標の決定、講ずべき対策の選択とその総合化が可能となってきた。
 第2は、特定地域の公害防止のための総合的計画の推進である。基本法第19条に基づき、公害の著しい地域や公害が著しくなるおそれのある地域について、国の指示に基づく総合的な公害防止計画の策定が進められた。すなわち、44年5月には千葉・市原、四日市、水島の3地域について内閣総理大臣が公害防止計画の基本方針を示して、その策定を関係知事に指示し、関係県において策定の作業が進められている。この計画は、50年までにそれぞれの地域において、環境基準等によって示される目標を達成推持することをねらいとして、発生源対策、土地利用、公害防止事業、環境整備事業等の各種防止対策を総合的にデザインし、国、地方公共団体、企業、住民の協力のもとに計画的・計量的に推進しようとするユニークな試みである。
 現在、引き続き、東京、神奈川、大阪の3地域に対する公害防止計画の基本方針が検討されている。
 第3は、各種規制法の整備と規制措置等の強化である。基本法に基づき、汚染物質の排出等に関する規制法として、43年に大気汚染防止法および騒音規制法が制定された。大気汚染防止法は、旧ばい煙規制法を廃止して新たに制定されたものであり、予防的見地からの規制地域の指定、環境基準と関連した排出基準の設定、とくに汚染の著しい地域における新増設のばい煙発生施設に対する特別排出基準の適用、自動車排出ガスの規制等旧法にはない特色を有している。同法に基づく指定地域は35地域であり、44年7月には、特別の排出基準が設定され、東京等5地域に適用されるとともに、一般の排出基準も45年2月から大幅に、かつ、きめ細かく改正強化されて適用されている。
 なお、総合エネルギー調査会の結論に従って、重油脱硫に対する原油関税軽減、脱硫装置に対する金融・税制上の助成措置その他の低いおう化対策が総合的かつ強力に推進されている。
 騒音規制法は、特定の工場等において発生する騒音を地域別、時間帯別に規制基準を定めて規制するとともに、特定の建設作業についても規制することとした。地域指定および規制基準の設定は知事が行なうが、和解の仲介以外の規制の実務は、市町村長が知事の委任を受けて行なうこととなっており、地域の実情に応じ、きめ細かく騒音規制が行なわれている。
 飛行場周辺の航空機騒音については、42年8月の公共用飛行場周辺における航空機による騒音の障害の防止等に関する法律の施行等により、必要な対策が講ぜられている。
 また、水質保全法に基づき、44年度において新たに14水域について指定水域の指定を行ない、現在までに合計73の指定水域について水質基準の設定を行なっているほか、基本法の趣旨に沿って同法の目的および指定水域の指定要件を改正するほか、水質基準の適用対象事業の拡大を図ることなどを内容とする同法の一部改正法案が第63回国会に提出された。
 また、海水油濁については、42年9月、船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律の施行等により必要な防止対策が講ぜられ、公共下水道については、下水道整備緊急措置法に基づいて整備が進められている。
 なお、鉱害の防止については、鉱山保安法に基づいて、一元的かつ組織的な監督指導の措置が講ぜられている。
 第4は、被害者救済制度およびに公害紛争処理制度の樹立である。公害問題は、一般に因果関係の究明や故意過失の判定が困難であり、また、当事者も多数にわたることなどから、そのすみやかな解決は困難なことが多く、基本法においても、迅速かつ円滑な公害紛争の処理および被害者の救済に関する制度を確立するために必要な措置をとるべきことが規定されているが、これに基づいて44年12月第62回国会において、公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法が制定され、著しい大気汚染や水質汚濁の影響によって発生した水俣病、イタイイタイ病その他緊急に救済を要する健康被害について、医療費等を支給するなどの行政上の救済措置が講ぜられた。
 また、公害紛争処理法案を第63回国会に提出し、現在、審議が行なわれているところである。
 第5は、公害防止技術の開発の進展および公害防止のための総合的な調査の実施である。
 公害防止技術の開発については、関係試験研究機関等において、積極的にその推進が図られてきたが、大型プロジェクト制度による排煙脱硫技術について44年9月に、所期の成果ををおさめてその研究開発を終了した。また、引き続き本制度による重油直接脱硫技術の研究開発を推進している。
 また、公害の未然防止の徹底を図るため、工業開発地域等における総合的、科学的な事前調査等が実施されてきた。
 第6は、企業の公害防止施設の整備に対する助成である。公害の未然防止については、公害発生源における防止施設が大きな効果をもつことから、その整備に対する企業の努力もしだいに高まってきたが、これに対して、資金面や税制面での助成措置の充実が要請されている。
 40年に設立された公害防止事業団は、長期低利の資金を原資として共同公害防止施設、工場アパートや移転団地、工場と住居とを分離する緩衝緑地等を建設・譲渡するとともに、企業等における防止施設等について融資を行なっており、そのほか、日本開発銀行、中小企業設備近代化資金、中小企業金融金庫、地方公共団体等による融資も拡充強化されてきた。また、ばい煙処理施設、汚水処理施設、廃油処理施設、重油脱硫設備等については、税制上の優遇措置がとられている。

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