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第8節 

1 公害に係る紛争処理および被害救済制度の確立

 公害対策においては、公害の発生を未然に防止する措置を講ずることが肝要であるが、同時に公害が発生した場合に、その被害者を救済するための措置、あるいは紛争処理のための措置を講ずることが必要であり、基本法においては、その21条で「公害に係る紛争の処理制度確立のための措置」、「公害に係る被害の救済措置」を講ずべき旨を規定している。
 このため政府は、昭和44年度において公害に係る健康被害の救済制度および公害に係る紛争の処理制度の確立を図ることとし、関係法案を第61回国会へ提出した。
(1) 公害紛争処理制度
 公害による被害は、単に財産的なものにとどまらず、人の生命、健康に及び、しかも当事者が多数にわたり、かつ加害と被害との因果関係の究明も困難であるなど公害特有の問題があり、これらが公害紛争の迅速、円滑な解決を困難ならしめているのが実情である。現在、かかる公害紛争を処理する行政上の制度として、水質の汚濁、大気の汚染等について和解の仲介制度があるが十分ではなく、また現行の司法制度をもつてしては、必ずしも簡易迅速な解決を図るのに十分でないうらみがある。このような現状にかんがみ、公害紛争の迅速かつ適正な解決を図るため、公害紛争処理制度の整備を図ることなどを目的とする「公害紛争処理法案」を提出している。
 その概要は、第1に公害紛争を処理するための専門的な機構を中央および地方に置くこととし、公害紛争について、和解の仲介、調停または仲裁を行なわせることとしている。
 第2に、これらの機構には、その所握する事務の性質上、独立性を確保するための配慮を払うとともに、紛争の迅速かつ適正な解決を図るための調査権等必要な権限を付与している。
 第3に、これらの機構については、具体的な紛争の処理を通じて得られた公害防止の施策の改善についての意見を申し述べることできることとしている。
 以上のほか、公害問題は地域住民に密着した問題であるので、地方公共団体は公害に関する苦情について適切な処理に努める旨の現定を設けている。
 なお、44年度においては、総理府の機関として設置される「中央公害審査委員会」に必要な経費として、3,640万円を計上しているが、同委員会は、委員長および5名の委員(うち非常勤3名)をもつて構成することとし、その庶務を担当する職員の定員として16名を確保している。
(2) 公害に係る健康被害救済制度
 公害による被害については、発生責任者の民事責任に基づく損害賠償のみちが開かれているが、現段階では、因果関係の立証や発生責任者の明確化等の点で困難な問題が多く、このため公害対策基本法においても被害救済の円滑な実施を図るための制度の確立がうたわれているところである。このような見地から、今回、公害による被害のうち当面緊急に救済を要する著しい健康被害について救済を図るため、公害の発生責任者による賠償等が行なわれるまでの応急的つなぎの措置として、一定の条件の者に対し医療費等の支給を行なうことを内容とした「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法案」を、第61回国会に提出し、被害救済制度の実施を図ることとしている。その概要は、第1に相当範囲にわたる著しい大気の汚染または水質の汚濁が生じたため、その影響による疾病が多発している地域を指定し、これらの指定地域の都道府県知事または政令で定める市の長が当該疾病にかかつている者であつて、その疾病が当該大気の汚染または水質の汚濁の影響による旨の認定をした者に対して救済措置を行なう。
 第2に、救済の措置としては、負担能力がある者を除き、医療費のほか、医療手当(月額4,000円または2,000円)および介護手当(1日300円)を支給するものとする。医療費は、当該疾病の医療に要した額から社会保険等による医療に関する給付の額を控除した額を対象として支給する。医療手当は、症状が一定の程度以上の者に支給し、介護手当は特に介護を要する者に支給する。
 第3に、給付に要する費用は、産業界、国および地方公共団体がそれぞれ分担する。その割合は、都道府県が実施する場合は、産業界4分の2、国および都道府県がそれぞれ4分の1とし、市が実施する場合は、産業界6分の3、国、都道府県および市がそれぞれ6分の1ずつとする。
 なお、産業界および国の分担は、公害防止事業団を通じて行なうこととする。
 第4に、産業界の分担は、本制度に協力することを目的とする民法による法人で、その申し出により厚生大臣および通商産業大臣の指定を受けたものが、公害防止事業団と契約を締結し、毎年、公害防止事業団に対して所定の額を拠出することにより行なう。

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