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第1節 

1 工場騒音、建設騒音対策

(1) 地方公共団体による規制等
 騒音は、公害の中でも最も一般市民の日常生活に身近かなものであり、しかもそれによる被害が直接的具体的に意識されるところに特徴がある。最近の人口の都市集中や自動車交通量の増大等により、騒音に関する苦情件数は公害の苦情に中で最も大きな比率を占めている。
 騒音に対する規制は、他の公害に対する規制と同様、まず地方公共団体が条例を制定することにより出発した。騒音問題も最初の段階においては、特定の地域における特殊な問題として発生してきたという事情から、地方公共団体の行政事務条例によって、その解決が図られてきたのである。
 昭和24年に東京都が工場公害防止条例を制定したのを契機に大阪府、神奈川県、福岡県などの大都市をかかえる地方公共団体は、あいついで同様の趣旨の条例を制定し、騒音の規制に当たってきた。また、条例を制定しないまでも公害防止対策要網等に基づいて対策を進めている地方公共団体もある。さらに、これに加えて、工場における騒音防止施設の設置などについて条例または要網を定め、資金のあっせん、利子補給等の助成を行なっているところも多い。
 これらの条件等に基づく騒音防止の施策は、各地方公共団体の地域の実態に応じた規制であり、規制基準の内容、規制対象等も多様であるが、概括的にいえば工場騒音の規制を主体に、その他街頭放送の規制、自動車運転者に対する協力要請等を規定している。
 また、建設騒音については、規制の方法等技術的に規制が困難な面もあり、ほとんど規制の対象となっていなかった。
(2) 騒音規制法の制定
ア 騒音規制法制定の経緯
 騒音問題については、前述のように地方公共団体による規制が行なわれ、国による一元的な法律上の規制措置は講ぜられていなかった。しかしながら騒音問題が、大気汚染、水質汚濁とならんで全国共通的な社会問題となるに至り、国としても国民の生活環境を保全する立場から地方公共団体の条例による規制のみにゆだねることなく、自ら責任をもって積極的にこれに対処することが必要となった。
 昭和42年8月に制定された公害対策法においては、騒音を公害対策の対象として明示し、環境基準の設定、排出規制等の措置を講ずることが明らかにされた。
 こうしたことから、公害対策基本法の実施法として騒音に関する規制を行なうべく新たに法制化されたのが騒音規制法である。
 
イ 騒音規制法の内容
 騒音規制法は、昭和43年5月、第58回国会において成立し、同年6月に交付、12月から施行された。
 騒音規制法は、従来の地方公共団体の条例により個々に行なわれてきた騒音規制について規制基準や規制手続きの統一を図っており、そのおもな内容は、次のとおりである。
 第1に、騒音問題は、その性格上生活環境の問題として生じてくることから、生活環境の保全を図ることを目的としている。
 第2に、規制対象とする騒音は工場・事業場騒音と建設騒音である。これらの騒音は、全国的な問題となっており、規制方法も画一化しうるところから、当面はこの2つの騒音を規制することにより騒音防止の実効を期することとされた。
 都市の交通騒音や新幹線周辺の騒音等については、防止技術等の問題が残されているので、これらの対策は引き続き検討していくことになった。
 第3に、規制の内容としては、工場騒音については、都道府県知事が市の市街地等を規制する地域として指定し、住居地域、商業地域等の区域の区分と昼間、夜間などの時間の区分ごとに規制基準(ホンで示される)を定める。特定地域内に特定施設(著しい騒音を発生する施設で政令を定めるもの)を設置しようとする者は、市町村長に事前に届け出るものとする。市町村長は、届出に係る工場全体から発生する騒音が規制基準をこえることにより周辺の生活環境がそこなわれるおそれがあると認めるときは、事前に騒音の防止の方法等について必要な計画変更の勧告を行なう。
 さらに、市町村長は、特定施設を設置した後、その工場の騒音が規制基準をこえており周辺の生活環境をそこなっているときは、改善の勧告および命令をすることができるしくみになっている。
 建設騒音については、指定地域のうち一定の区域において特定建設作業(著しい騒音を発生する政令で定める作業)を伴う建設工事を施工する者は、都道府県知事に事前に届け出することとする。都道府県知事は、特定建設作業に伴って発生する騒音が、主務大臣の定める基準をこえていることにより周辺の生活環境が著しくそこなわれているときは、騒音の防止の方法および作業時間の変更について、必要な勧告および命令をすることになっている。
 第4に、いわゆる深夜騒音や商業放送による騒音については、地方公共団体が地域の実情に応じ条例で必要な規制措置を講ずることとなっている。
 このほか、地方公共団体の条例による騒音規制とこの法律の規制との関係を明らかにするとともに、騒音にかかわる紛争の解決に資するための和解の仲介の制度を定めることなどについて規定されている。
(3) 建設工事騒音の防止
ア 建設工事騒音の苦情処理
 建設工事騒音による被害の防止については、建設業行政の一環として建設業者に対する指導を行なっており、建設工事騒音による被害について苦情の申出のあったものについては、適切な指導を行なっているほか、特に悪質なものについては、建設業法の規定に基づき必要な行政処分を行なうことによりその是正を図ることとしている。
イ 建設業騒音対策
 建設工事の施工に伴って発生する騒音の防止は、騒音の発生源、主として工事に使用する機械類であることから、最終的には低騒音ないしは無騒音機類の使用、無騒音工法の採用等建設工事の施工方法の改善によらなければならないので、機械類の改良、新技術の開発を図る必要がある。
 かかることから建設省においては、建設機械改善打合会をもうけ、特に建設工事騒音防止について、実態調査の実施、建設機械性能の改善による騒音の減少、工事施工方法の開発改善による無騒音化等について検討を行なっており、さらに騒音規制法の施行を契機とし、建設業者に対しては、騒音の防止の方法、作業時間の選定等について具体的な基準を定め、これによって適切な指導を実施するよう検討を行なっている。
(4) 騒音についての各種調査および防止技術の開発
 騒音についての実態調査は、厚生省が40年度に東京都と協力して都内において実施した。その結果、空港周辺や交通要衝地点は別として、商業地域の騒音レベルが高いことが明らかにされた。また、商業地域の平均値は65ホンであるが、都電通りに面していると80ホン近くまで上昇し、住居地域でも平均50ホン程度であるが、幹線道路に接近する地域は70ホン程度まで上昇している。このように一般に都市における騒音レベルに関しては交通騒音の影響が大きいことが示された。
 騒音の人体影響に関しては、厚生省国立公衆衛生院で研究が行なわれているほか、関係各省において、それぞれの立場から調査研究が進められている。
 また、通商産業省では、昭和39年度においてどのような業種が騒音を多発する傾向にあるかを調査したが、41年には新潟県燕市、42年には新潟県三条市、43年には茨城県日立市において、地元県、市の協力を得て騒音の発生源となっている工場群について実態調査を実施した。その結果中小企業における公害防止に関する意識の低さ、工場建屋の構造の欠陥、防止施設等のための資金の不足など多くの問題点が指摘され、また根本的な解決策として土地利用の合理化の重要性が再認識された。さらに工業技術院の機械試験所において機械、自動車騒音、振動の防止技術の開発を進めており、機械騒音の発生機構解明を行なうとともに、騒音の発生源である回転部分を改良し、騒音を減少させる研究を進めている。
(5) 騒音防止のための助成措置
 東京、大阪などの過密地域から騒音を発生する工場が集団して移転する場合には、公害防止事業団は工場移転用地を造成し、長期低利で譲渡し、騒音の防止に役立っている。また、中小企業近代化資金など助成法により、工場等に設置された騒音防止施設に対して、中小企業設備近代化資金の無利子融資が行なわれる場合には償還期限を特に12年として優遇している。

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