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第3節 

1 防止技術の研究開発

(1) 概要
 大気汚染防止対策に占める防止技術の研究開発は重要であり、汚染問題の深刻化とともに政府としてもその技術開発に力を注いでいる。
 大気汚染防止技術の開発については、おもに政府や地方公共団体が推進しており、たとえば、いおう酸化物対策技術は工業技術院が、自動車排出ガス対策技術は工業技術院自動車安全公害センターや運輸省船舶技術研究所等において進められている。このほか政府は、民間の研究開発力を活用または助長し、防止技術を確立するための制度を設けており、工業技術院においては、大型工業技術研究開発制度(大型プロジェクト)による民間への研究開発の委託や重要技術研究開発費補助金制度による民間の研究開発に対する補助が行なわれている。
 他方、大気汚染問題の国際性にかんがみ、OECD研究協力委員会および天然資源の開発利用に関する日米会議等の場を通じて、技術の国際交流が図られている。
(2) いおう酸化物対策関係技術
 いおう酸化物対策としては脱硫する方法(脱硫技術)と高煙突により排煙を大気中に拡散させる方法(ばい煙等拡散技術)とがある。
ア 脱硫技術開発の概要
 最近の工業地帯における大気汚染は、主として重油の使用に伴い排出されるいおう酸化物によるものである。わが国の原油輸入量の大半がいおう分を多く含む中東産原油であること、重油消費量が年々かなりのテンポで増加していることなどにより、大気汚染は近年深刻化してきている。これを抜本的に解決するためには、いおう分を燃料油(おもに重油)中から除去するか、あるいはボイラーなどによる燃焼後の排煙ガス中から除去するなどの技術開発にまたねばならない。前者を重油の直接脱硫といい後者を排煙脱硫と称する。
 このため、大型プロジェクトにおいては排煙脱硫および重油直接脱硫の両技術について研究開発を進めており、その長期計画は第3-2-4表のとおりである。
イ 排煙脱硫
 排煙脱硫のもっとも有望と思われる活性炭法および活性酸化マンガン法の2方法をテーマに取り上げ、研究開発を行なっている。
(ア) 活性炭法
 この方法は、活性炭に排煙中のいおう酸化物を吸着させ、水洗脱着後にこれを硫酸として回収するものであり、民間に研究を委託している。昭和41年度から排煙処理量6,000Nm3/時(発電要領2,000KW相当)のテストプラントの設計、製作に着手し、42年1月に五井火力発電所構内に設置を完了して同年11月まで運転研究をおこなった。テストプラントの運転研究によって得られたデータをもとに、排煙処理量15万Nm3/時(発電容量5万5,000KW相当)のパイロットプラントを設計、製作し、同発電所構内に、43年11月に設置し、現在運転研究をおこなっている。
(イ) 活性酸化マンガン法
 この方法は、活性酸化マンガンに排煙中のいおう酸化物を反応させて硫酸マンガンとし、これにアンモニアおよび突気を吹き込んで硫安を回収するものであり、民間に研究を委託している。昭和41年度から排煙処理量15万Nm3/時のパイロットプラントの設計、製作に着手し、42年12月に中部電力四日市市火力発電所構内に設置を完了して44年3月まで運転研究を行なった。本運転研究により、実規模装置の設計に必要な基礎データの取得という所期の成果がほぼ達成されたが、関連業界が本パイロットプラントを用い大型プロジェクトの成果をもとにさらに詳細なデータ取得のため追加研究をおこなっている。
(ウ) 重油直接脱硫
 この方法は、触媒作用により重油中のいおう分に水素を反応させ、これを硫化水素として回収するものである。
 本技術は昭和42年度から大型プロジェクトのテーマに取り上げ、工業技術院所属の試験研究所および民間において、42年度は高性能触媒の探索、43年度は42年度に探索された優良触媒のライフテストを行なった。この結果、長期にわたって目標脱硫率を維持する触媒が数種開発されたので、44年度以降は触媒の実用性研究を進めるほか、500バーレル/日のテストプラントを設計、製作し、運転研究をおこなつて46年度までに所要の基礎データを得ることとしている。


(2) ばい煙等拡散技術
 いおう酸化物等の有害成分を除去する技術が、経済的に実用段階に至つていない現在においては、高煙突による排煙の拡散が、地上を汚染する有害ガスを減少させるための最も有効な手段である。
 拡散技術に関する研究は、科学技術庁科学技術防災センターおよび工業技術院資源技術試験所で行なつっている。資源技術研究所では、わが国の産業地帯の地形的影響を考慮して、まず拡散風洞に現地と相似の地形模型を設置し、定性定量試験法などによって拡散による汚染域を予測する技術の確立を目標とする研究を行なうとともに、エアトレーサーの拡散実験を含めた広範囲の大気拡散技術の研究を進めている。
(3) 自動車排出ガス対策関係技術
 自動車排出ガスによる大気汚染は、わが国における自動車の増加と都市における道路交通環境のアンバランスにより生じた現象であり最近大きく取り上げられるようになつた。
 わが国における排出ガス対策技術の研究は、通商産業省工業技術院の機械試験所を中心とする自動車安全公害研究センターおよび運輸省船舶技術研究所等により実施されている。
 現在の研究開発テーマとしては、排出ガスの測定方法の開発、排出ガス中の有害成分の除去および処理技術の開発、新方式の自動車原動機の開発等が挙げられ。
ア 自動車排出ガスの測定方法の開発
 自動車の運転条件と排出ガスの関係(自動車走行サイクル)、排出ガス分析方法、実用的な有害ガス測定器等について、資源技術試験所、機械試験所および船舶技術研究所等で研究が進められている。これにより排出ガス分析法についての日本工業規格(JISD1030)が制定されている。
イ 排出ガス中の有害成分の除去および処理技術の開発
 資源技術試験所における触媒式浄化装置の研究、機械試験所におけるエンジンの改良としての電磁式燃料噴射装置の研究、船舶技術研究所における排出ガス浄化装置の研究等が実施されている。
ウ 新方式の自動車原動機の開発
 自動車の排出ガスによる大気汚染を根本的に解決するため、排出ガスの出ない電気自動車の開発が強く望まれている。このため工業技術院大阪工業試験所においては、電気自動車用動力源として単位重量および容量当たりが高出力で、取り扱いが容易でしかも長寿命かつ安価な高性能電池の開発を行なっている。

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