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第2節 各種施策の拡充強化

 昭和43年度を中心のとして公害の防止に関して講じた具体的施策は、基本法に規定する事項の具体化を中心として、諸般の分野にわたっている。
 第1に、これまですでに規制の対象となつていた大気汚染について、現状に適合するように規制を強化し、かつ、合理化するとともに、未規制であつた騒音を新たに体系的に規制することとしたことである。まず、大気汚染の防止対策としては、従来のばい煙規制法(ばい煙の排出の規制等に関する法律(昭和37年法律第146号))を抜本的に改正した大気汚染防止法が第58回国会において制定され、43年12月から施行された。騒音に関しては、これまで都道府県や市町村の条例によってそれぞれ規制されていたが、騒音に関する苦情や紛争はあとを断たず、国としてその対策を迫られるに至った。そこで国が工場騒音および建設作業騒音について規制の態様や基準の統一化を図ることにより、全国的に騒音対策を進めるため、騒音規制法が第58回国会において制定され、43年12月から施行された。水質汚濁については、従来から水質保全法および工場排水規制法等によって汚濁防止が図られてきたが、有機水銀等特殊な重金属による河川汚濁に伴って生じた水俣病、阿賀野川有機水銀中毒事件、イタイイタイ病の悲惨な事件の発生を機に、これらの微量重金属の排出の規制の必要性が叫ばれるようになつた。これについては、水質保全法、工場廃水規制法、鉱山保安法による規制措置や行政指導による所要の規制措置が講ぜられることになつた。
 第2に、環境基準の設定および公害防止計画の策定についても進展がみられた。環境基準は、地域全体の環境についての一定の目標値であり、諸々の公害対策による達成目標になるという点で重要かつ緊急を要するものであるが、43年7月に厚生省の生活環境審議会において「いおう酸化物による大気汚染防止のための環境基準」に関する答申がなされ、政府部内でその設定について検討がなされた結果、44年2月に正式決定がなされた。公害防止計画については、早急にその策定を行うべき地域として43年度中に、四日市(三重県)、水島(岡山県)および千葉・市原(千葉県)の3地域について、国の基本方針を示して計画の策定を指示することを目標として作業が進められている。
 第3に、公害の紛争処理および被害救済制度については、水俣病、イタイイタイ病、阿賀野川有機水銀中毒等の患者に対する救済や各地で発生している紛争の的確な解決のため、早急にその確立が望まれており、43年10月には中央公害対策審議会から本制度の具体化に関して意見の具申が行われたが、これをもとに政府部内で成案を取りまとめ、関係法案の国会提出が行なわれた。
 第4に、公害防止事業および公害防止施設の整備振興についても着実な進行を続けている。このような防止事業の推進のための専門的機関として、40年に公害防止事業団が特殊法人として設立され、公害防止の観点から共同公害防止施設、工場アパート、工場移転団地、共同福利施設(グリーンベルトなど)等の造成建設を行なうとともに、企業の防止施設の設置に対する資金の貸し付けを行なっている。このほか、他の政府金融機関からの融資制度もあり、公害防止施設に対する租税の減免等税制上の特別措置も行なわれている。また、都市河川の汚濁防止に大きな役割を果たす下水道の整備については、42年度に始まる整備5か年計画をもとにして下水道の普及整備が図られており、ごみやし尿を処理する清掃施設についても同様の整備拡充が行なわれている。
 第5に、公害の監視測定体制の整備については、特に大気汚染関係について、諸措置の拡充強化が行なわれてきている。すなわち、全国的な範囲にわたって所要の地点で、いおう酸化物による汚染をはじめとする大気汚染の監視測定が行われており、都道府県においては、ばい煙規制法(大気汚染防止法)に基づく常時監視が実施され、また、各種データの収集分析のため、国設の大気汚染測定網の設置が推し進められている。
 第6に、公害の防止に関する調査研究については、各種の環境汚染の実態調査、人体に対する影響等についての調査研究をはじめ、工業開発予定地域についての公害の事前防止のための事前調査等各種の調査研究がなされている。また、公害防止技術の開発については、特に、大気汚染の主力となっているいおう酸化物による汚染の対策として、重油および排煙中に含まれるいおう分の除去技術(重油および排煙脱硫技術)の開発とその実用化が検討されているほか、各種試験研究機関において広範囲にわたる試験研究が行なわれている。なお、公害防止対策を総合的かつ効果的に推進するためには、合理的な土地利用計画を確立することが不可欠であるが、この面での施策を推進するため、第58回国会において新都市計画法が成立した。新都市計画法においては、市街化を図るべき市街化区域と市街化を抑制する市街化調整区域に区分するとともに、新たに開発許可の制度を創設している無秩序な市街化を防止し、計画的な市街地の整備を進めることを目的としている。

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