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第1節 公害の防止に関する基本的施策の確立

 公害は、その発生原因や範囲等の点できわめて多種多様であるのに対応して、公害の防止のための施策も広範かつ多岐にわたる。国における段階の施策についてみても、ほとんどすべての省庁がなんらかの形で公害問題に関係している。従来、これらの公害対策は、ややもすると個々の施策間の統一性、計画性が十分でなく、実効のあがる総合的な公害対策の推進が図られない点も見受けられた。他方、公害問題は社会経済の発展に伴ってますます深刻さを増してきており、これまでの公害対策に反省を加え、新たに強力な施策を講ずる必要性が痛感された。
 このような状況を背景に、諸般にわたる公害対策における共通の原則を定め、公害の防止に関する基本的な施策を確立することを目的として、昭和42年8月公害対策基本法が制定された。今後における公害対策は、この基本法の理念に基づき、相互に有機的な関係を保ちつつ、総合的、計画的に推進されることとなるが、基本法の概要は、次のとおりである。
 第1に、公害対策の究極の目的は、国民の健康を保護するとともに、経済の健全な発展との調和を図りつつ生活環境の保全を図ることであり、また、基本法が対象とする「公害」は、大気汚染、水質汚濁、騒音、振動、地盤沈下および悪臭の6種類とする。
 第2に、公害の防止に関する関係当事者等の責務が明確にされている。すなわち、事業者、国、地方公共団体および住民は、それぞれの立場において、公害の防止に関する施策を実施し、およびこれに協力することなどにより、公害の防止を図る債務を有する。
 第3に、公害の防止に関する基本的施策として、次のような施策があげられている。
(1) 環境基準の設定
 大気汚染、水質汚濁および騒音に関する環境上の条件について、人の健康と生活環境を守るうえで維持されることが望ましい基準を定め、公害防止のための各種の施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより、この環境基準が確保されるように努めるものとする。
(2) 国の施策
 政府は、公害の防止に関する施策として、ばい煙の排出等の公害発生源に対する規制措置、土地利用および公害発生施設(工場等)の設置に関する規制措置、緩衡地帯の設置等の公害防止事業および下水道等の公共事業の推進、公害の監視測定体制の整備、公害防止に関する技術研究の振興等各般にわたる施策を実施するものとする。
(3) 地方公共団体の施策
 地方公共団体は、公害の防止に関して、国の施策に準ずる施策を講ずるほか、地域の自然的、社会的条件に応じた所要の施策を実施するものとする。
(4) 特定地域における公害防止計画の作成等
 内閣総理大臣は、公害が著しい地域等について、その地域で総合的、計画的に実施されるべき公害防止計画の基本方針を示して計画の作成を関係都道府県知事に指示するものとし、知事は、基本方針に基づき公害防止計画を作成するものとする。国および地方公共団体は、公害防止計画の達成のため必要な措置を講ずるように努めるものとする。
(5) 公害の紛争処理および被害救済の制度の確立
 政府は公害問題の円滑かつ的確な解決を図るため、公害の紛争処理および被害救済の制度の確立のために必要な措置を講じなければならない。
 第4に、公害対策に必要な費用の負担および財政措置等についてふれている。まず、事業者は、その事業活動による公害を防止するために国および地方公共団体が実施する事業の費用の全部または一部を負担するものとし、その費用の範囲、負担割合等は、別に法律で定めるものとする。このほか、地方公共団体に対する国の財政措置、事業者による公害防止施設(ばい煙処理施設等)の整備に対する金融上、税制上の助成措置等があげられている。
 第5に、公害行政の体制の整備を図るため、公害対策会議および公害対策審議会を設置するものとする。公害対策会議は、内閣総理大臣を会長とし、関係大臣を委員とする総理府の附属機関であり、公害の防止に関する基本的かつ総合的な施策の企画の審議およびその施策の実施の推進に当たる。公害対策審議会は、公害対策に関する基本的事項の調査審議に当たる審議機関であり、中央段階では、総理府に中央公害対策審議会が置かれており、地方公共団体には、条例に基づき、地方公害対策審議会を置くことができることになっている。
 以上のように、公害対策基本法の制定によって公害対策の骨組みが完成されたのであるが、今後は、この基本法に盛られた事項を具体化していくことが公害対策の課題となっている。

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