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第1節 

1 発生状況

 騒音とは「ない方がよい音」「不必要な音」あるいは「あることの好ましくない音」というように定義される。現代社会においてわれわれが生活する以上、多かれ少なかれ外部からの騒音に暴露され、生活妨害が起こりうる。騒音の発生は、エネルギーを用いて物を製造するものを動かしたりするとき、損失エネルギーの一部として出てくるものが大部分である。たとえば各種工場の騒音、ビルや道路の建設騒音、自動車、電車等の交通などの交通騒音、飛行機の騒音等である。
 その他娯楽遊技場の騒音、楽器演奏する音等がある。


(1) 工場騒音
 工場騒音は工場の中で使用される各種の機械または施設から生ずる騒音の複合されたものである。工場騒音は、わが国の高度経済成長による工場の急増と土地の適正利用に対する配慮不足等の事情により住居と工場が混在し、しかもわが国の家屋構造が音に弱いということもあって、全国的に問題となっている。また工場は同一場所に定着して騒音を発生させる点で地域住民の生活環境に与える影響が大きい。しかしながら最近においては工場の側においてもしゃ音塀や二重窓の設置、消音ボックスや吊基礎の取りつけ等により自主的に騒音防止のための努力がなされてきている。個々の機械から生ずる騒音の大きさという点からみれば圧延機械、製管機械、ベンデイングマシン、機械プレス等が一般的には高い音を発生するが、音の大きさは、工場の敷地の広さや工場と住宅との距離によって減衰するという性格があり、住民の日常生活に与える影響も異なる。
 
(2) 建設騒音
 建設工事にともなって生ずる騒音は、工場騒音と比べるとかなり大きなものがある場合が多い。しかし建設騒音は、その工事が終わればなくなってしまうものであるため、工場騒音の場合とは若干趣を異にしている。しかし、場合によっては非常に大きい騒音が発生するために苦情も多い(第2-3-2表参照)。
 市街地およびその周辺のベットタウンとよばれる地域等どにおける建設工事は、人口の集中などに伴って増大の一途をたどっており、これとともに騒音による被害も増加してきている。
 建設工事を施工する際に発生する騒音は主として工事に使用する機械類から発するエンジン音、機械類と工事材料とによって発する衝撃音、摩擦音等であり、これによる被害は、一般に睡眠妨害、仕事の能率低下、学習の障害といったように直接に人の健康に障害を及ぼすというより、生活妨害という形をとっているものが多い。
 現在、建設工事用に使用されている機械類で特に騒音の程度が高く、苦情の多いものをあげると杭打、杭抜機(ディゼルパイルハンマ、バイブロパイルドライバ等)、鋲打機(リベットハンマ)、さく岩機(コンクリートブレーカー等)、空気圧縮機、コンクリートプラントおよびアスファルトプラント等である。
 建設工事の施工に伴って発生する騒音の特性についてみると、工場騒音と比較し、騒音を発生する期間が一時的であり、かつ短期間であるが、通常作業が屋内において行なわれ、特に市街地等においては工事か所が周囲の住居等と近接しているため周辺に及ぼす騒音の程度が高いものが多いことがあり、また特に静穏を保持する必要がある地域においても一定の工作物を建設しなければならないといったこと等がある。
(3) 交通騒音
ア 道路交通騒音
 最近におけるモータリゼーションの急激な進行、都市における自動車交通の高密度化等に伴い自動車による騒音が大きな社会問題となっている。
 自動車による騒音は、排気管、タイヤ、エンジンなどから出る音が統合されたものであるが、騒音の大きさは自動車の種類、走行条件、周囲の状況等により異なっている(第2-3-3表参照)。
 バス、普通トラック等の大馬力の大型自動車および軽自動車の騒音が特に大きくなっており、小型トラック、乗用車がそれに次いでいる。
 一部の自動車使用者は故意に大きな排気音を出すような構造としたり、十分な整備を行なわず大きな排気音を出して走行しており、特に二輪車、スポーツカータイプの乗用車等の排気音による騒音が大きな問題となっている。
 また、自動車の警音器については、その音量を制限するとともに(115ホン以下、90ホン以上:保安基準)、その使用を一定の場合または危険を防止するためやむをえない場合のみに限定しているが(道路交通法第54条)、警音器が乱用されていることが多い。
 自動車における騒音は、道路環境状態、交通事情等によりその程度が異なってくるが、最近の都市における騒音は、第2-3-4表に示すように数年前と比較して低下の傾向を示している。これは都市において高速道路があいついで完成したため、交通量が一部の地域を除いて減少し、加えて交通規制の強化、車両の改善、騒音レベルの比較的低い乗用車の交通が中心となったこと等により騒音レベルが低下したものと考えられる。
 しかしながら、交通量の多い幹線道路沿いの住民、一部の学校、病院等への自動車騒音による影響は、依然として大きく、音源対策として車両の改善を今後ともいっそう強力に推進する一方、道路構造の改良、適切な交通規制の実地等について関係機関の協力が必要である。
イ 新幹線の騒音
 新幹線は、現在の時刻表によれば、東京、大阪間を直通運転するひかり号、こだま号は1時間最高12回の往来がある。したがってこれによる騒音の大きさは、場所により異なるが線路の中心から25m離れた屋内で60〜70ホン、屋外では80〜90ホンである。


(4) 航空機騒音
 最近におけるわが国の民間航空の発展は、まことにめざましいものがあり、旅客輸送量についてみても過去10年間に平均年率29.9%と、わが国の経済成長率(平均年率9.9%)をはるかに上回る率で伸びている。航空需要の増加は、航空機の大型化および高速化を促し、同時に、運行回数が著しく増加するに至った。ジェット機は、このような航空需要に応ずべく、昭和34年にわが国に登場したが、以来その収容力、高速性、安全性、経済性などの見地から、国内線、国際線を問わず、急速にジェット化が進められている。
 ジェット化の状況を東京国際空港についてみれば、同空港における昭和42年の定期便離着陸回数は10万4,000回で、このうちCD-8、B-727などのジェット機が約60%を占めている。
 このようなジェット機を中心とした航空運送の増加、発展は、反面、空港周辺の住民の日常生活を航空機の騒音によって脅かすいわゆる航空公害を惹起することとなった。
 航空機の騒音は、飛行場におけるエンジンテスト等の際に発生する地上騒音と、離陸時における低空飛行中に発生する騒音が主たるものであるが、前者は、サイレンサー、防音林、防音壁などによってある程度被害を軽減することは可能であるので、航空機騒音として問題になるには、主として後者であり、そのうち、特にジェット機の低空飛行騒音が障害となっている。ジェット機の発生する騒音は、高速噴出される燃焼ガスが、空気と摩擦するときに生ずる音と、ジェットエンジンの中の空気圧縮タービンの回転音が複合したものであるが、離陸時は、噴射ガスと空気との摩擦音が主要な音源となり、着陸時には、噴射出ガスが減少するのでタービン音が主となることが多い。プロペラ機の騒音は、プロペラの回転音が主であり、低音成分が多く、また出力も小さいので、ジェット機の騒音に比べて、被害は少ない。
 航空機は前述のとおり、離着陸の際に最も大きな騒音を発生するが、わが国で最も使用ひん度の多い東京および大阪両国際空港について、航空機騒音の現状をみると、東京国際空港には、A、B、Cの3本の滑走路があり、国際線用ジェット機は、AまたはC滑走路、特にC滑走路を使用して、北風時においては、着陸は木更津側から、離陸は大森側に向かって行っているが、南風時においては、これと逆の方向に離着陸を行っている。国内線用ジェット機、ターボプロップ機およびレシプロ機は、離着陸時の風向、風速の状況に応じて3本の滑走路を使い分けている。ただし、AまたはC滑走路から離陸する場合は、航行の安全が確保できる範囲内で、できるだけ早く旋回して、海面に出るよう指示している。
 大阪空港では、航空機は、滑走路の前方に山があるため、周辺都市の上空を旋回して、海上へ飛行する。したがって騒音コンターは非常に複雑で、広範囲にわたっている。また、離陸後、十分高度を取らないうちに急旋回するため、騒音強度は大きく継続時間も長い。飛行経路下の各市においては、70ホン以上の騒音レベルは平均20〜30秒続き、ときには50秒以上も継続することがある。
(5) 一般騒音
 よく一般騒音ということばが用いられるが、これにははっきりした定義があるわけでなく、以上述べた工場騒音、建設騒音、交通騒音、航空機騒音以外の騒音をいう。具体的には、事務室内の事務機械、街頭放送、娯楽遊技場の騒音等がそれに属する。事務室内の事務機械は、最近事務の能率化のため各種の機械が用いられているが、ときにはそれらが騒音による被害を与えていることがある。娯楽遊技場としては従来のパチンコ屋に加えてボーリング場、バッティングマシン等の新しい施設が近隣に騒音による迷惑をかけることが多くなってきている。街頭放送、移動放送については、近年減少傾向にある。これは、条例で規制されているところもあることも一因であるが、都市における交通騒音等の影響で宣伝効果がなくなりつつあるためと考えられる。その他、隣の家のピアノの音、犬の鳴き声、ルームクーラーの排気音等による苦情件数が増えてきている。

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