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第6節 

2 濃水産の被害

(1) 農業被害
 水質汚濁による農業被害には農作物に対する被害および農業用施設に対する被害がある。
 農作物に対する被害には、汚濁水の濃度が限界濃度をこえて直接作物に被害を与える場合と、土壌の物理性や化学性を悪化したり、土壌中の微生物活動に影響を与えて間接的に作物の正常な生育を阻害する場合とがあるが、その状況は汚濁物質の種類、濃度、農作物の種類、品種、天候、土壌の性質、作物の生育の時期等によって異なり、きわめて複雑である。
 農業用施設に対する被害としては、浮遊物が水路壁、スクリーン等に付着して機能を低下させたり、酸性水によって揚水機が腐蝕されるような場合がある
 33年と40年に全国の農地を対象として行った実態調査によれば、このような農業被害面積は、33年には304地区9万9,000haであったが、40年には898地区12万7,000haに達し約3万ha(27.8%)増加している。
 これを地域別にみると、特に関東、東海、近畿の各地域における増加が著しく、40年は33年に比較してそれぞれ174%、170%、697%となっている。次に汚濁源別にみると、40年には33年に比較して鉱山排水によるものが約1万ha万減少したが、工業排水による被害が2万3,000ha増加し33年当時あまり問題とされなかった都市汚水による被害が40年には約2万haとなっている。
(2) 水産被害
ア 水産被害の概況
 水質汚濁による水産被害は増加し、被害の発生は各都道府県に及んでいる。水質汚濁の発生源としては、工場、事業場等の排水、都市排水、船舶廃油、農薬等の排出、し尿の投棄等多岐にわたっている。
 また、水産被害の形状は、有機汚濁物質等の蓄積、急性毒物質に伴う水産動植物の斃死、成長阻害等のほか、石油工場等排水、船舶廃油等に起因する異臭魚の発生など多様化の傾向を示している。
イ 水産被害の状況
(ア) 水質汚濁発生源の概要
a 工場等排水および都市排水
 水質汚濁発生源としては、工場、事業上等の排水によるものが最も多く、都道府県報告によると42年度の水産被害発生件数の約75%を占め、43都道府県において発生している。
 おもな発生源を業種別にみれば、鉱業、製糸、パルプ工場等従来から発生源として問題となっているものと、化学工業、石油工業、合成繊維工業、食品工業等最近問題となっているものがある。
 また、地域別にみれば、京葉、京阪神、瀬戸内海周辺におけるコンビナート方式の工業団地において、特に著しい。なお、これと関連して、建設事業の需要増大に伴う活発な砂利採取、土木工事等による汚濁も発生している。
b 船舶廃油等
 国内における石油類需要の増大により油送船舶等が増加し、これらの船舶から排出、投棄される油、ビルジ、バラスト水などによる海水の油濁が増加している。油濁による水産被害は42年度においては24都道府県に及んでおり、特に、ノリ養殖漁場として重要な伊勢湾、瀬戸内海などにおける油濁が増加している。
c その他
 以上のほか、近年農業近代化の一環として開発されている除草剤等の農薬の不注意な散布およびし尿の排出、投棄により河川、沿岸の漁場において水質汚濁が発生している。


ウ 水産被害の様態
(ア) 魚類の被害
 水産被害のうち魚類の被害が最も多くその大部分は工場、事業上等の排水によるものである。
 沿岸水域においてはスズキ、カレイ、エビ等の移動範囲の少ない魚類、河川等の内水面水域ではコイ、フナ、ワカサギ等およびさく河性のアユ、サケ、マス等の魚種が被害を受けているが、特に、河口域等における水質汚濁は、さく河性魚類のそ上、およびふ化稚魚の降河などの障害となって水産資源の消長に影響をもたらしている。
 また、石油化学工業等の排水、船舶廃油等に起因する魚類への異臭の付着は、伊勢湾、水島湾等に発生しているが、これらは漁獲物の商品価値を低下させて漁業経営面に影響を及ぼしている。
(イ) 貝類の被害
 貝類は浅海干潟部および河川河口域を生息圏としており、ほぼ定着性であるため、埋立、しゆんせつ等の土木工事、工場等排水、農薬等による水質汚濁の被害をこうむりやすい。
 松島湾、広島湾においてはカキの斃死とミドリガキの発生、東京湾、伊勢湾などにおいてはアサリ、ハマグリ等の斃死、苦味、悪臭の発生および瀬戸内海等においては養殖真珠貝の生育阻害、斃死等が見られる。
(ウ) 藻類の被害
 藻類の被害は、沿岸における養殖ノリ、ワカメ、コンブ等が、大部分を占めている。汚濁源としては、工場等排水、船舶廃油があげられる。特に、沿岸の養殖ノリについては船舶廃油等の排出投棄によるものがほとんどである。
 油濁によるノリ、コンブ、ワカメ等の藻類被害としては、油類が葉体に付着し、枯死させ、また、一時的な油濁による汚染であっても色沢、芳香を失わせ商品化を困難にしている。
 さらに、工場等排水に起因してノリ葉体に発生するガン腫病等も生産の減少と商品価値の低下をもたらしている。
 なお、瀬戸内海等においては、水産生物の種苗発生、成育に好適なホンダワラ、アマモ等の藻場が、水質汚濁によって逐次減退消失している。

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