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第6節 

1 各種用水の汚濁

(1) 河川水の汚濁と工業用水道
 わが国の工業用水道の施設能力は、昭和42年度末で約1,200万m
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/日に達し、その水源としてほとんどが河川の表流水に依存している現状にある。また、自家用工業用水としても約2,500万m
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/日程度が使用されており、このうち河川表流水を水源としているものは約1,000万m
3
/日である。 
 河川表流水を水源とする工業用水は、一般的には汚染を受けない河川を選び、または上流部の比較的汚染の少ない地点を選定して取水するものであり、さらに浄水施設を設けてこれに各企業の使用目的に応じた水質改善を行って使用しているものであるが、汚染が相当程度進んでる河川においても地理的条件等から遠くに水源を求めることができないいため多額の費用を投じて必要な水処理を行わざる得ない例が近年ではかなり多くなってきている。
 現在、工業用水道が大量にその水源を依存している河川のうち、淀川、揖保川、遠賀川等は特に工業用水源として望ましくないものの代表的なものといえる。淀川は都市下水、揖保川は皮革排水、遠賀川は洗炭排水のおもな汚染源とし、それぞれ異なる汚染形態をもち、水質も多様であるが、たとえば阪神地区工業用水のほとんどが大部分がその水源を依存している淀川に例をとると、34年ごろに比較してBODで約4割、電気伝導度で示される溶解性物質の濃度で約2割も水質が悪化しており、特に渇水期における水質の劣化は著しいものがある。こうした水質の原水を工業用水としての要求水質に改善することは、現在の工業用水道の水処理施設からみてほぼ限界に達しており、これがさらに悪化するような事態になれば、現在の水処理施設の抜本的な改善が必要となる。このように工業用水道事業にとって河川の汚濁は、水処理費の増大と直接に結びつく問題であり、すでに現状においても事業の経営およびその施設の管理に非常に好ましくない影響を与えている。
 最近、特にこうした河川の汚濁は全国的に広がりつつあるので、水の合理的利用の見地に立って河川の汚濁防止対策について有効適切な措置が検討されなければならない。
(2) 水の汚濁と上水道
 水道の使命は、国民が日常生活を営む上に必要不可欠な水を、衛生上安全なかたちで、しかも豊富安価に供給することにある。ことに水質は、水道の水質にふれるものであり、法律上も水道が供給する水の水質については厳重な規制が加えられている。そこで水道は、できるだけ水質の良好な水源を求めあるいはできるだけ汚染を受けることの少ない地点に水源を求め、さらに浄水施設などその施設内容についても、年間を通じて変化する原水の水質が最悪の場合にも十分その機能を発揮しうるように計画され、建設されている。しかし、全国的にみて水道水源となっている河川等の水質汚濁の進行状況は著しく、水道水源の水質汚濁が水道の浄水施設の能力をこえ、あるいは現在の水道でとられている浄水操作だけでは除去不能な種類の物質による汚染が出現するなど、時には水道施設の存続さえ危うくなってきている。
 水質汚濁による被害がいつごろから水道に現れているかは、その判断の基準となる水質をどこにおくかによって異なり、年間を通じて徐々に汚濁が進行している事例では、それを知ることはことに困難である。しかし、昭和33年、厚生省が行った水質汚濁による上水道の被害調査の結果よりみてみるとすでに昭和15年ごろより北九州市(北九州水道組合)など遠賀川を水源とする水道では、洗炭排水による水質の悪化のために沈でん池の増設を行っており、また都市下水、工場排水の多い淀川については、24〜25年から水質の悪化による被害が水道に出始めたとされている。
 水質汚濁による原水水質の悪化は、ろ過池の短時間閉塞等浄水施設効率の低下、水処理に要する薬品の種類、量の増加という程度のものから、水源、取水地点の変更、浄水方法の変更等水道施設の改善、さらには浄水場の放棄に至るまで、汚濁の種類、程度によりさまざまな被害を水道に与えている(第2-2-8表参照)。
 水道の水質汚濁による被害は、厚生省の調査によると、30年には16府県、33か所の水道に現れているとされており、さらに42年にはその被害が27都道府県、124か所の水道にまで広がっている。
 また、水道水源の汚濁、汚染源については従来より、水道に起因する赤痢など伝染病の集団発生と関連してし尿、下水などが問題とされていたが、最近の状況は第2-2-9表のとおりであり、各種工場、砂利採取などがおもなものとなっている。
 工場排水についてここで特に注意したいのは、最近の産業技術の進歩に伴い、カドミウム、有機水銀など従来は予測できなかった有害産業廃棄物が出現し、あるいは従来の水道における通常の浄水操作では除去不可能な物質が水源を汚染する事例が現われていることである。

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