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第5節 

1 水銀による環境汚染

 熊本県水俣湾周辺に起こった、いわゆる水俣病事件は、昭和28年から35年にかけて、患者発生数111名、うち死亡者42名、ついで新潟県阿賀野川周辺で起こった有機水銀中毒事件は39年から43年に至る間に患者発生数30名、うち死亡者5名を数えている。
 43年9月26日水俣病事件については厚生省から、阿賀野川有機水銀中毒事件については科学技術庁から、それぞれ最終見解が発表された。両事件はいずれもメチル水銀化合物によって汚染された魚介類を地域住民が長期かつ大量に摂取したことによって起こったものであるが、前者については新日本窒素水俣工場の工場排水に含まれたメチル水銀化合物によるものであることが明確にされ、後者については主として昭和電工鹿瀬工場の工場排水に含まれたメチル水銀化合物による魚介類の長期継続的汚染がその発生の基盤をなしたものと考えられた。あわせて厚生省は、両者とも公害に係る疾患と認め、今後の患者対策を行なうこととした。
 厚生省では、40年12月、各都道府県に対する書面調査により全国の水銀使用工場のリストアップを行ないおよそ194の工場が水銀を使用していることをは握し、41年公害調査委託研究費によってこのうちカーバイト法によってアセトアルデヒドの製造を行っている3工場について、製造工程、排水、環境等を精密調査した。その結果、工程中にはメチル水銀化合物が生成されているが排水処理を厳重に行っているので、排水中にはメチル水銀は不検出であること、環境の水銀汚染はある程度認められるが、メチル水銀化合物は検出されないこと、しかし、絶えず環境汚染について注意の要があることを確かめた。
 引き続き42年度において、同じく公害調査委託研究費によって24都道府県にわたり各業種別に51工場(内1工場は廃業)について環境汚染の実態調査を行った。
 その結果は第2-2-4表および第2-2-5表のようであるが、50工場中、37工場の工場廃水から水銀が検出されている。また、この37工場のうち16工場について第2次調査を行ったところ、そのうちいくつかにおいては、第一次調査の結果を裏づけ、無機水銀だけでなく有機化された水銀が微量ではあるが含まれていることが明らかとなった。 
 また、この実態調査の一環として行われた富山県小矢部川、福岡県大牟田川附近の魚介類中から微量ながらメチル水銀様物質が検出された。この場合発生源については明らかではないが、保健衛生上放置しておけないので、43年3月前者の小矢部川について漁獲自粛を要望し、急きょ富山県と共同で人体影響の度合いを地域住民の毛髪内水銀含有量を測定して調査した結果、一応現在の状態であれば支障のないものと認められたので、43年6月末自粛要望を解除した。
 なお、現在では、水銀を使用するカーバイト法アセトアルデヒド製造工場は、すべてそれを用いない石油化学法の設備への転換を完了しており、塩化ビニールの製造についても水銀を使用する従来のカーバイト法から石油化学法への転換が進められている。
 

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