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第4節 海水汚濁の状況

 近年海域、特に内海、湾岸等では各種産業からの排水、都市下水などによる汚濁が急激に進行してきており、洞海湾などのように海水移動の少ない水域では、地域の生活環境にも悪影響を及ぼしている。沿岸漁業や、レクリエーションのために必要な環境を保全するために、水質保全法上の規制等によって対処すべき水域は今日でほとんど全国的な範囲まで及んできた。中でも石油関連産業の急激な発展と海上交通量の急増に伴い、油による海水の汚濁が公害問題として大きく取上げられるようになった。このうち陸上の工場等から排出される油性汚水については、水質保全法および工場排水規正法によって、その規制を受けることになっているが、船舶から廃棄される油については、昭和42年8月に船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律が制定されるまでは、港則法(港内等における廃油等の投棄禁止)、水産資源保護法に基づく都道府県漁業調整規則(水産動植物に有害な物の海面遺棄禁止)等による取締りが行なわれている。
 しかしながら、これらの措置のみでは十分対処しえない面もあり、船舶から排出された油により、港内、沿岸など環境衛生や美観がそこなわれるのみならず、漁場、海水浴場等で被害が続出した。特に、海面に捨てられた廃油がのり漁場に漂着し、ノリに油が付着して商品価値を全く失ったり、また、製油所、石油化学工場や港湾内における船舶から投棄される廃油が魚に着臭し、その価値の低下等をはじめとして水産物の受けた被害は大きく、都道府県の報告によれば、42年度における被害の発生は24都道府県に及んでいる。
 また、例年夏季海水浴シーズン中、湘南海水浴場一帯に船舶から投棄されたと考えられる廃油が漂着し、海水浴客に被害を与えており、主要都市における国民のレクリエーションは重大な脅威を受けているといえる。
 海難による船舶の油濁事件としては、42年3月、英国沖で座礁したトリー・キャニオン号(6万1,263総トン)事件は、巨大タンカーによる史上最大のもので、その防止対策の困難さにおいて世界の耳目を集めたものである。また、日本近海でも、43年6月下田沖で発生した霧島丸(5万706トン)とサントス号(1万15総トン)衝突事件によりサントス号の機関燃料費が流出、神奈川、千葉両県沿岸に漂着したことは記憶に新しいところである。昭和42年度における原油の輸入量についてみると、第2-2-1図に示すように約1億2,100万キロリットルで昭和32年度に比較して約8倍と飛躍的に増加しており、さらに運送量の増加とともに輸送能率の向上を図るため船舶は大型化し、20万重量トンの油送船も就航している。
 このような現状においては、油送船の交通安全の確保を図るとともに、海難事故に伴う油濁防止対策が急務とされている。
 海難事故等による海上への油の流出は別として、通常船舶から排出される廃油としては、ビルジ、油性バラスト水およびタンク洗浄水がある。 
 ビルジは、船舶の機関から運転中に漏出する燃料油や潤滑油を含む廃油であり、通常船舶からわずかではあるが常時海中に排出される。
 油性バラスト水は、油送船が船積港に空船で回送されるときに、喫水を深くして船体の安全を保つために貨物艙に入れる海水である。この量は、ビルジおよびタンク洗浄水に比べ最も多く、積荷前に海中に排出されている、このため、油性バラスト水による海水の汚濁は、油の積出港の附近で起こるわけであって、わが国の場合、原油を大量に輸入する外航油送船による被害は積出港のペルシャ湾附近と異なり問題はないが、内航油送船については、石油積出港附近の汚濁が問題となっている。
 タンク船浄水は、船舶が検査、修繕等のために造船所に入渠する場合、油送船が荷油の種類を入れ替える場合等に、貨物艙その他のタンク等を洗浄することから生ずる廃油である。その量は、油性バラスト水についで多く、油の含有量も多いため、陸上の附近で排出すると大きな被害を生ずるおそれがある。
 以上の油性汚水がわが国沿岸で排出される年間の量は、39年で約1,000万トンをこえるものと推定される(第2-2-3表参照)。
 一方、都市近海の海域では、流入河川からの汚濁、沿岸の都市下水、工場排水等による汚濁に加えて汚物の海岸投棄による沿岸被害が発生し、特に大都市周辺では問題が表面化している例がある。
 水質の汚濁対策とあいまって、海洋への投棄に対する規制措置を強化する必要が生じてきている。

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