前のページ 次のページ

第2節 

2 地域別汚染状況

(1) 広域的な汚染が高度かつ複雑に進行している地域(東京、神奈川、大阪、兵庫)
ア 東京
 
 東京とは昭和30年にばい煙防止条例を制定し、ばい煙発生施設の監視、指導、取締りを強化しているが29年より降下ばいじん量、32年に二酸化鉛法によるいおう酸化物濃度の測定、同じく37年からは導電率法によるいおう酸化物の自動測定を開始している
 降下ばいじん量についてみると、29年までは都内の平均値が20トン/km
2
月前後であつたが、35年24.4トン、36年には28.3トンに達し、その後横ばい状態で推移し、41年24.3トン、42年23.7トンとなつている。用途地域別では、32年に商業地域において40トンを上回り、最も高い値を示したが、34年以降工業地域では20トン以下の値から増加し、38年に工業地域が商業地域を上回り、41年には、工業地域32.6トン、商業地域22.9トン、住居地域13.9トンとなつている。
 区域的には墨田、江東地区をはじめ、台東、文京、千代田、中央地区の汚染が目だち、38年には、30〜40トンであつたが、燃料転換、集じん施設の整備に伴い、減少傾向をたどつている
 テープエアサンプラのよる浮遊ふんじん自動測定記録の結果では、第2-1-3図のように降下ばいじんと同様に減少の傾向が認められる。 
 一方、二酸化鉛法によるいおう酸化物濃度は、35年地点平均0.87mg・SO3/100cm2/月であつたのに対し、41年には43地点平均1.08となり、年間3.0以上の高濃度汚染地域は豊州埠頭を中心とした江東区の南部地区であり、年間2.0以上の城南方面とともに東京都における二つの高濃度汚染地区となつている(第2-1-4図参照)。
 ばい煙発生施設の分布状況をみると、東京都の一定規模以上の法(ばい煙規制法)対象施設は中心部に集中し、規模の小さい条例対象施設は城東地区に多く、重油使用量は中小工場の多い後者の方が大きい(第2-1-2表および第2-1-3表参照)。施設の89%はボイラーであつてほとんどが暖房用であるため、冬季には特異な高濃度汚染を生ずる要因となつている。なお、特に大量のばい煙を発生する施設は、城南城北および城東地区に集中している。導電率法によるいおう酸化物の測定記録をみると、第2-1-4表のように40年以降の濃度増加が目だち、0.2ppmを上回る時間値の出現率は急激に増大し(第2-1-5表参照)、その結果、スモッグ注意報の発令回数は40年5回(警報1回)、41年5回(1回)、42年8回(3回)となつている。濃霧の発生日数は横ばい状態にあるが隣接する神奈川県との同時発令が多くなりいおう酸化物の広域汚染が進んでいることおよび夏季にスモッグが発生する日数が増加し南よりの風によつて高濃度時が出現している点が注目される
イ 神奈川
 川崎、横浜は、京浜工業地帯の中核として発展し、臨海コンビナートには大規模のばい煙発生施設が集中しているため、わが国で最もいおう酸化物の濃度の高い地区が出現し、特に川崎の臨海部、横浜鶴見地区の大気汚染が著しい。
 降下ばいじん量は、第2-1-5図のように、川崎の臨海工業地区が最も多い。川崎市の地域別の経年変化は、減少ないし横ばい状態にあるが、工業地域には年平均51.6トン/km2/月にもなる地点が含まれ、依然として高い値を示してる。季節的には南ないし南西の主風向で海風が卓越する夏季の濃度が高く、昭和41年田島地区の夏季平均値は冬季の2倍以上に達し、いずれの地域においても12月が最低となる。
 二酸化鉛法によるいおう酸化物の濃度は、川崎の工場地帯である田島地区で平均5.0mg・SO3/100cm2/日、大師地区で平均0.3を上回り、高濃度で横ばい状態となつているのに対し、横浜はいずれの地区も増加が目だち、川崎、横浜(鶴見)の臨海部は3.0の等濃度線で囲まれるようになつている。月別変化をみると、川崎の臨海部では春季から秋季にかけて高くなるが、横浜の工業、準工業地域ではその差が少なく、商業、住居地域ではむしろ冬季の濃度が高い。
 導電率法による自動測定装置は39年から40年にかけて整備されており、これによつて得られた年平均値の推移は第2-1-6表のとおりである。川崎大師は年間を通じて最も濃度が高く、月平均値は0.15〜0.16ppmに達し、川崎の砂子にある衛生試験所を含めて高濃度汚染地域を形成し、季節的変動も類似している
ウ 大阪
 大阪は近畿圏の中心として急速な発展を遂げ、昭和30年以降の10年間に240万人の人口増、4.5倍の工業生産の増大をきたした。この反面、戦前から阪神工業地帯の代表的なばい煙都市として、すす、ふんじんが問題となつていたが、燃料転換、自動車走行台数の増加、南部の堺泉北臨海コンビナートが造成等により、すす、ふんじんのみならずいおう酸化物や一酸化炭素による大気汚染が深刻な問題となつている。このため25年8月、大阪府事業場公害防止条例が制定され、その後数度にわたり改正がなされ規制が図られている
 降下ばいじんの経年変化は第2-1-7表のように36年の大阪市平均23.1トンをピークとして減少傾向を示し、15トンを下回る状況で推移している。
 府公衆研究所における4年間の浮遊ふんじん測定記録によると、8〜10時と20〜22時の間にピークがあり、冬季に高い値を示し、41年の平均値は0.35mg/m
3
(府下15地点平均0.2mg/m
3
)となり、府下の最大濃度落地点は堺市立衛生研究所0.42mg/m
3
である。
 二酸化鉛法によるいおう酸化物の大阪市の経年変化をみると、35年の1.00mg・SO3/100cm2/日から39年には1.41、42年には1.78となつている。濃煙霧発生日数(視程2km以下)は、35年の160日をピークに急激に減少し41年には83回となつている。導電率法による大阪府におけるいおう酸化物の経年変化は第2-1-8表のとおりである。
エ 兵庫
 阪神工業地帯の尼崎および神戸市、西播工業地帯の姫路市を中心とした大気汚染が問題となつており、臨海部に沿ったほとんどの地域がばい煙規制法指定地域となつている。
 大規模発生源の主要な業種は鉄鋼、火力発電であつて、その周辺では特にばいじんが問題となつたが、集じん設備の普及、拡充に加えて燃料転換の影響を受け減少に転じ、特に尼崎、姫路地区では減少が目だつている。いおう酸化物については、尼崎において年平均値が2.0mgSO3/100cm2/日、神戸では同様に1.0を示すほかは0.7以下である。経年変化を調べるとだいたい横ばいの傾向が見られる(第2-1-9表参照)。しかし継続して測定を行なっている地点について年平均値を比較すると、尼崎、姫路地区には期間中に2倍以上増加している点がみられ、尼崎の10地点の平均は、昭和35年1.10であつたのに対し、37年2.18、39年2.13、41年2.41と増加の傾向になつている。


(2) 局地的な大気汚染が高度かつ複雑に進行している地域(四日市、福岡)
ア 四日市
 臨海部に石油化学コンビナートが立地、操業するに伴い昭和33年〜35年ごろから大気汚染が問題となり始め、火力発電、化学工場群が増強され、第2期の拡張建設段階にはいつた38.9年ごろにはいおう酸化物による汚染が局地的に著しく進行し、39年1月にはいおう酸化物濃度1ppm以上がひんぱんに記録されるに至り、代表的な公害都市として注目されるようになつた
 この地区の汚染物は重油燃焼に伴ういおう酸化物、各種炭化水素系の有機物質、金属精製に伴う排ガス、さらに悪臭、刺激物質等が複合累積されたもので、これに海陸風による疾風汚染等の気象条件や住居、工業地域の混在を含めた立地条件の悪さ等が組み合わさつて局地的な汚染特性が強く現れている
 降下ばいじんは、42年平均8.4トン程度であり、部分的に10トンを上回ることがあつても、すす、ふんじんの発生施設が少ないので比較的低濃度で推移している
 導電率法によるいおう酸化物濃度をみると磯津、塩浜地区の汚染が目だつているが、地域全体としてはある程度の改善が認められる
 特に0.2ppmを上回る高濃度の出現度数が多く、臨海コンビナート特有の高いピーク濃度の出現が目立つている(第2-1-11表参照)。
イ 福岡
 北九州市および大牟田市は福岡県の代表的工業地帯であり、産炭地域を背景として鉱工業が発展し、特異な大気汚染特性を示す。特に北九州は筑豊炭田を背景にして製鉄を中心とした各種産業が発展し、わが国四大工業地帯の一つとして以前からばい煙が問題となつていた
 地区別、用途地域別に北九州市の降下ばいじん量の経年変化をみると、第2-1-12表のように工業地域の減少が目だち、ばい煙発生施設の影響を受けやすい八幡、戸畑、若松地区の減少傾向が顕著であるが、住吉地域または小倉、門司地区では横ばい状況にあり、部分的に増加の兆候もみられる
 地点別には八幡城山において昭和42年50トン/km
2
/月を上回り、局地的に汚染が問題となつている。季節的には変化が少なく降雨量の多い月の値が高い
 同様に大牟田市の場合、平均して37.8年ごろをピークとして30.7トンから24トン前後に減少しているが(第2-1-13表参照)工業地域は依然として30トンを上回る年平均値を示し、全体として最も降下ばいじんの多い都市となつている。季節的には北部地区は夏季が最も高く、南部地区は秋季に高い値を示す。浮遊ふんじんの濃度指数(透過率(%))は市役所、三川支所では冬季が高く、20%をこえる月平均値を示す
 二酸化鉛法によるいおう酸化物濃度は、北九州市の工業地域の42年の平均値は1.36mg・SO3/100cm2/日、商業、住居地域ではそれぞれ0.95、0.80であり、地域別では小倉1.29、戸畑1.17、若松1.15となり、必ずしも降下ばいじん量と比例しない。経年変化は第2-1-14表のように増加の一途をたどり、8年間の増加率は工業地域68%、商業地域47%、住居地域66%に達し、地区別には小倉158%、門司116%、八幡57%の順となり前2地区の増加は加速的になつている。季節的にみると全般的に冬季の濃度が高く、降雨量とは関係ない。大牟田の工業地域のいおう酸化物の平均値は0.78、商業、住居地域はそれぞれ0.95、1.01となり、住居地域の濃度が高く、局地的に高濃度汚染地区が含まれている(第2-1-15表参照)。


(3) 大規模工業開発が進行中で大気汚染が問題化しつつある地域(千葉、愛知)
ア 千葉
 京葉工業地帯の造成、大規模発生施設の立地および操業に伴い、千葉、市原地区を中心とする臨海部の汚染の推移が注目されている
 京浜地帯に比較してまだいおう酸化物の濃度が低いが、0.5ppmを上回る高濃度汚染が出現しており、局地的には季節風による疾風汚染の傾向がみられる(第2-1-17表および第2-1-18表参照)。
イ 愛知
 名古屋港臨海部を中心として西部から名古屋南部、知多半島北部にかけての伊勢湾沿岸部に臨海工業地帯が造成されつつあり、名古屋市の汚染に加えて大規模発生施設の操業に伴う汚染が問題となつている
 名古屋市の降下ばいじんは、昭和36年の15トン前後から、40年、41年の10トン前後まで減少しているが(第2-1-19表参照)、二酸化鉛法によるいおう酸化物濃度は漸増の傾向を示し(第2-1-20表参照)、導電率法による4測定地点の値も42年にはテレビ塔で年平均0.053ppmま増加したのをはじめ、増加傾向をたどつている。
 県下の22測定値における42年の降下ばいじん量は6.5トンであり、39年の7.4トン(12地点)と比較して減少している。しかし、二酸化鉛法によるいおう酸化物濃度は、39年0.83mgSO3/100cm2/日から42年1.13まで増加している。(第2-1-21表参照)

前のページ 次のページ