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第3節 

3 今後における公害対策の課題

 昭和42年度におけるわが国の国民総生産は、43兆1.167億円(1.198億ドル)に達し、自由主義諸国中、アメリカ、西ドイツについで第3位を占めるにいたつたが、一人当たり国民所得はいまだ34万5,000円(959ドル)程度で世界第20位前後にとどまっている。わが国が今後さらに飛躍的な発展を目ざすために、経済の成長は引き続き重要な国家的課題となる。わが国土の面積は、37万km
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で、たとえばアメリカの一州であるカリフオルニア州の広さにも及ばず、人口はアメリカの約2分の1にあたる。しかも人口、産業とも日本列島の太平洋側に偏在し、人口の4割近くが、東京、大阪、名古屋の各都市周辺に集中し、また、日本の工業生産の8割り近くが東京湾、伊勢湾、大阪湾、瀬戸内海沿岸および北九州の工業地帯において行なわれている
 このような条件のままで、産業経済の拡大が図られるとすれば、今日すでに重大化している公害をもたらした諸要因はいつそう増大するおそれがある
 たとえば、今後も主要なエネルギー源である重油の消費量は急速に増大し、50年には現在の約2倍、60年には約4倍に達することが見込まれており、十分な対策が講ぜられなければこれによって生ずるいおう酸化物の負荷は膨大な量になることが予想される
 また、重化学工業やその他の産業においても、その排水量は増大するとともに、汚濁物の種類も技術革新に伴って複雑化することが見込まれる。
 一方、都市の膨張や生活構造の高度化等も進行する。これに伴なって汚水やごみ等も質的に多様化する。またモータリゼーションの進行に伴う自動車の台数は飛躍的に増加すると見込まれており、排出ガスによる大気汚染がさらに重大な問題となると考えられる
 さらに高速自動車道路や新幹線等の整備、超大型ジェット機の登場等高速交通手段の急速な発達に伴って生ずる騒音も見逃してはならない問題である
 以上のような経済開発や都市化の進行あるいは生活高度化のための諸手段の発達に対し適切な計画や制御を欠く場合は、今日不幸にしてあまり多くみられるような人の健康に被害を与え、生活環境に悪影響を及ぼすような事態を今後再び繰り返すことになる。このため、公害防止対策のになうべき使命は重く、その課題は多い。
 このような情勢にかんがみ、今後わが国において、広い視野と長期的な見通しのもとに、国土の総合的な利用計画、産業政策、エネルギー政策などに公害防止の面からの周到な配慮を加え、公害の原因および影響の解明ならびに防止技術に関する研究開発を推進するとともに当面次のような課題に施策の重点を置く必要がある。
 第1に、環境基準の早急な決定である。
 すでに設定をみたいおう酸化物に係わる環境基準に引き続き、大気汚染、水質汚濁および騒音の主要公害について、人の健康を保護し、および生活環境を保全するうえで維持することが望ましい基準をすみやかに決定し、これによつて公害対策推進の目標を明らかにする必要がある。
 第2に、発生源対策の強化である。
 各種汚染源に対して実効ある規制を行ない、逐次、その強化を図るほか、監視測定体制とりわけ広域監視測定体制の整備を図る。また、低いおう燃料または原料の確保に努める。
 第3に、土地利用の適正化である。
 適切な都市計画に基づく用途地域の確保を推進し、工場と住宅の分離等土地利用の適正化を図るとともに総合的な事前調査を拡充するほか、公害発生源の新増設に対する調整措置等を推進する。
 第4に、社会資本等の整備である。
 暖衝緑地、上下水道、清掃施設等、公害防止に資するための各種公共施設の整備を図るとともに、公害発生源たる企業の公害防止施設の整備に対する投資の積極化を促進し、財政、金融、税制面等において適切な助成措置を講ずる
 第5に、公害防除技術の開発と実用化の推進である
 重油脱硫および排煙脱硫技術の開発と脱硫装置の設置を推進するほか、自動車排出ガスの効果的防除装置や汚水処理技術等公害防除技術の研究開発および実用化を強力に推進する
 第6に、公害の原因と影響に関する調査研究体制の確立である。微量重金属等による公害の発生のおそれのある地域についてすみやかなる原因究明とその防止を図るため、積極的かつ組織的に対処する。
 以上のような各種施策は、地域の汚染の現状や将来の見通しにたつた総合的な公害防止計画等によつて強力にその実施が推進されなければならない。企業自らの努力が要請されることはいうまでもない。
 世界の驚異とされたわが国の経済開発等が、反面において人間環境の悪化を招いたことは否定しえない。公害はすでに重大な様相を呈しており、さらに拡大の要因をはらんでいる。その解決は大きな困難を伴うと思われるが、公害問題を克服しなければ、自然の秩序と調和がとれ、人間の真の福祉の増進につながる明日の社会の実現はありえない。そこにわれわれに課せられた新たな試練がある

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