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第2節 公害行政の進展

 公害の防止を直接の目的とする一般的な公害規制法として最初に立法化されたものは、昭和33年に制定された公共用水域の水質の保全に関する法律(水質保全法)および工場廃水等の規制に関する法律(工場排水規制法)である。これらの法律が制定された動機は、当時各地における河川の汚濁が悪化しつつあったことにあるが、特に33年の江戸川における漁業被害を巡る乱闘事件が直接の契機になつたものである
 これらの法律は、河川、湖沼、沿岸海域等の公共用水域の水質の保全を図ることによって産業の相互協和と公衆衛生の向上に寄与することを目的とするものであつたが、水質保全法は、公共用水域の水質汚濁の状況の調査を実施するとともに、規制を必要とする公共用水域を指定し、指定水域に汚水や廃液を排出する工場、鉱山、下水処理施設などが守らなければならない水質基準(指定水域に排出される水の汚濁の許容限度)を決めるしくみのものである。工場排水規制法は、水質保全法の対象となる施設のうち、主として製造業関係の工場排水の規制を行うものである。水質保全法による指定水域のうち隅田川(東京)淀川(大阪)等の都市河川では汚濁が著しいうえに、工場排水のほか家庭汚水等による汚濁も大きな、ウエイトを占め、都市の公共施設としての下水道の整備が基本的な防止対策であることが強く認識された。これが広域的な下水道の整備も促すとともに、新増設の工場等に対して厳しい規制を行う都市河川に関する規制方式を生み出すことになつた。また、海水の汚濁防止の必要性にかんがみ、昭和42年に船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律が制定され、船舶から排出される油の規制や廃油処理施設の整備が行われることになつた。
 次に、大気汚染防止のための行政施策としては、昭和37年のばい煙の排出の規制等に関する法律(ばい煙規制法)の制定がある。この背景には、これまでに述べたような30年代における急速な産業経済の発展に伴う大気汚染の進行が会った。このような事態にかんがみ、大気汚染防止に関する国の最初の立法であるばい煙規制法が37年6月に成立した。この法律は、著しい大気汚染が発生している地域を規制の必要な地域として指定し、その指定地域内においてばい煙発生施設を設置する場合は届出を要するものとし、ばい煙発生施設から排出されるばい煙の濃度が一定の基準をこえる場合に構造の改善などの規制措置を命令するするしくみになつていた。この法律の施行に伴う除じん装置の普及は、石炭から石油へのエネルギー源の転換とあいまって、石炭燃焼によるすす、ふんじんの減少に大いに寄与した
 ばい煙規制法による規制措置のほか、大気汚染の監視測定体制も逐次整備されていった。また、局地的に重大な大気汚染が生じた四日市については、38年11月に厚生省および通商産業省による「四日市地区大気汚染特別調査団(黒川調査団)」が組織され、各専門分野からの多角的総合的な調査が実施された。調査団の報告書は四日市の大気汚染を防止するための対策として、排出基準の強化と処理施設の設置、都市計画の再検討、住宅地帯の分離、緑地帯の設置、住居の集団移転、被害者治療施設の設置、公害防止施設整備資金についての助成措置などの諸点について勧告するとともに、今後の他地域での工業立地に際しては、立地計画段階での公害の未然防止のための強力な行政指導、公害対策を折り込んだ合理的な都市計画の策定、防除技術の開発研究の促進などの必要性を指摘したものであつた。この調査は単に四日市のみならず、その後の大規模な工業立地に際しての総合的な公害対策の基本方向を示す点で意義の深いものであり、国、地方公共団体等において、各種の専門分野のスタッフによる総合的な調査が実施される事例が増加していった。一方、いおう酸化物、一酸化炭素等による大気汚染の各種影響調査も盛んに行なわれた
 騒音問題も都市公害の典型として顕著になってきたが、騒音については、地域性の強い公害として地方公共団体の条例による規制が多くの地域で実施されることとなった。国においては、特に問題化しつつあった航空機等の騒音について、騒音防止工事に対する助成や特定の被害に対する損失補償等を行うための立法措置として、昭和28年には日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊等の行為による特別損失の補償に関する法律が、41年には防衛施設周辺の整備等に関する法律が、42年には公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律がそれぞれ制定された
 地盤の沈下についても、東京、大阪等において高潮出水など防災上の問題点が指摘され、昭和31年には、地下水源の保全を直接の目的としながら地盤沈下の防止をも考慮した工業用水法が制定され、工業用水道の普及整備をみたが、37年には、地盤沈下の防止をさらに強化するための同法の一部改正が行なわれるとともに、新たに地盤沈下の防止を直接の目的とする建築物用地下水の採取の規制に関する法律が制定された
 また、鉱害の防止については、鉱山保安法(昭和24年制定)に基づいて、一元的かつ組織的な対策が講ぜられている。この鉱山保安法による監督指導は、施設の改善命令、鉱業停止命令等の措置に担保された強力な体系的取締であり、鉱山保安監督局部において全鉱山を定期的に検査して法規違反を監督し、各鉱山の特殊性に応じてきめこまかな改善指導がなされている。さらに通商産業大臣の諮問機関である中央鉱山保安協議会において鉱害問題について検討を進めていくこととしている
 公害問題が激化し、これに対する各方面からの批判が高まるとともに、公害の主要発生源である生産活動を営む産業の側でもこれを防止するための努力が要請されるようになり、公害防除技術の開発にも急速に努力が払われるようになつた。このような傾向を助長するため、国や地方公共団体においても各種の金融、財政、税制上の特別措置を講じた。特に、昭和40年には、公害防止のための共同処理施設や共同利用建物、しや断緑地(グリーンベルト)等の建設譲渡や融資を専門的に行なう機関として公害防止事業団の設立をみた。事業団の事業はその後順調な推移をたどり、千葉県市原市や三重県四日市市におけるグリーンベルトの建設をはじめ各種の公害防止施設等の設置の促進が図られてきている
 尚、公害防止のための技術開発についても努力が払われてきた

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