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第3節 公害の特質

 公害という言葉は、今日、きわめて一般的な用語として用いられているが、その厳密な定義については、さまざまな意見がある。産業活動や都市生活に伴って生ずる環境汚染等を介しての健康や生活環境に対する被害であること、被害および加害の態様が大規模かつ複雑な場合が多いこと、その防止のためには単に当事者間の民事的な解決のみでなく行政上の対策が必要であることなどは共通の理解になつているが、今日の公害問題を理解するためには、公害と呼ばれている現象の特徴をその実態に即しては握することが必要である。その最大公約数的な性格をあげれば次のとおりである。
(1) 公害は、自然災害と異り、生産活動や日常生活の遂行など人間の活動に伴って生ずる現象であつて、人の健康をそこない、快適な生活環境を奪うなど社会に有害な影響を及ぼすものである。
(2) 公害は、個々の発生源からの汚染を個別的にみればほとんど影響を生じない場合であっても、それが数多く集積することによつて重大な影響を及ぼすことになる場合が多いものである
(3)公害が及ぼす影響は多種多様であり、人間の健康や居住環境に対してはもちろん、動植物や物的資産等生活環境にも及び、しかも、その影響の範囲が相当の地域的広がりをもつている
(4) 公害は、多くの場合、加害の態様が継続的であり、しかも大気や水等の自然の媒体を通じて間接的に行なわれるものである。被害者の側でどこから被害を受けたか、また、その影響を社会的にどの程度まで受忍すべきかが明瞭でなく、発生者の側でも通常の生活活動等に伴って生ずることが多いことから原因者としての意識が希薄な場合が多い。
(5) 公害には必ず発生源があるが、その発生源が不特定多数であるか、あるいは特定していても因果関係が不明確であり、また、汚染にどの程度寄与しているかを証明することは容易でなく、責任関係を明らかにすることが困難である。
 以上に述べたような公害の特質からして、公害問題は単なる私法上の問題としてではなく、地域社会全体にわたる問題として総合的計画に行政上の施策の施策を講じていく必要がある

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