環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第2章>第3節 生物多様性保全と持続可能な利用の観点から見た国土の保全管理

第3節 生物多様性保全と持続可能な利用の観点から見た国土の保全管理

1 30by30目標の達成に向けた取組

30by30目標は、COP15第二部で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」に位置付けられ、新たな国際目標となりました。国内においては引き続き、2022年4月に公表した30by30ロードマップに基づき、本目標の達成に向けた取組を推進します。

(1)保護地域の拡張と管理の質の向上

我が国では、現在、陸地の約20.5%、海洋の約13.3%が国立公園等の保護地域に指定されていますが、今後、30by30目標を達成するため、国立公園等の拡張により現状からの上乗せを目指しています。国立・国定公園については、2021年から2022年にかけて、2010年に実施した「国立・国定公園総点検事業」のフォローアップを行い、生態系や利用に関する最新のデータ等に基づき指定・拡張の候補地について再評価した上で、全国で14か所、国立・国定公園の新規指定・大規模拡張候補地としての資質を有する地域を選定しました。これらの候補地については、2022年度以降、基礎情報の収集整理を継続するとともに、自然環境や社会条件等の詳細調査及び関係機関との具体的な調整を開始し、2030年までに順次指定・拡張することを目指します。また、2030年までに国立・国定公園の再検討や点検作業を強化し、必要に応じて周辺エリアの国立・国定公園への編入や地種区分の格上げを進めていきます。海域については、特に景観・利用の観点からも重要で生物多様性の保全にも寄与する沿岸域において、国立公園の海域公園地区の面積を2030年までに倍増させることを目指します。さらに、国立公園等について、広範な関係者と連携しつつ、国立公園満喫プロジェクト等により対象となる自然の保護と利用の好循環を形成するとともに、自然再生、希少種保全、外来種対策、鳥獣保護管理を始めとした保護管理施策や管理体制の充実を図ります。

(2)保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)の設定・管理

30by30目標は、主にOECMにより達成を目指すこととしています。このため、まずは、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域(企業緑地、里地里山、都市の緑地、藻場・干潟等)について、国によって「自然共生サイト」として認定する仕組みを2023年度から開始し、2023年中に100 箇所以上を認定することを目指します。認定された区域は、既存の保護地域との重複を除いてOECM 国際データベースに登録することで、30by30目標の達成に貢献します。また、団体との連携協定によるOECM設定の検討を進めます。

さらに、国の制度等に基づき管理されている森林、河川、港湾、都市の緑地、沖合の海域等についても、関係省庁が連携し、OECM に該当する可能性のある地域を検討します。

2 生態系ネットワークの形成

生物の生息・生育空間のまとまりとして核となる地域(コアエリア)及びその緩衝地域(バッファーゾーン)を適切に配置・保全するとともに、これらを生態的な回廊(コリドー)で有機的につなぐことにより、生態系ネットワーク(エコロジカルネットワーク)の形成に努めます。生態系ネットワークの形成に当たっては、流域圏など地形的なまとまりにも着目し、様々なスケールで森里川海を連続した空間として積極的に保全・再生を図るための取組を関係機関が横断的に連携して総合的に進めます。また、OECMに関する取組を進めることで、保護地域を核としたネットワーク化を図り、生物多様性の保全を推進します。

3 重要地域の保全

各重要地域について、保全対象に応じて十分な規模、範囲、適切な配置、規制内容、管理水準、相互の連携等を考慮しながら、関係機関が連携・協力して、その保全に向けた総合的な取組を進めます。

(1)自然環境保全地域等

原生自然環境保全地域、自然環境保全地域、沖合海底自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域については、引き続き行為規制や現状把握等を行うとともに、新たな地域指定を含む生物多様性の保全上必要な対策を検討・実施します。沖合海底自然環境保全地域に関しては、第2章第4節も参照。

(2)自然公園

自然公園(国立公園、国定公園)については、公園計画等の見直しを進めつつ、規制計画に基づく行為規制や事業計画に基づく保護及び利用のための施設整備、生態系維持回復事業の実施、質の高い自然体験活動の促進等を行います。また、国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」としてブランド化し、保護すべきところは保護しつつ、利用の促進を図ることにより、地域の活性化を目指す取組を推進します。その他、再生可能エネルギーの利用の促進や省エネルギー化による施設の脱炭素化の取組を推進します。

(3)鳥獣保護区

狩猟を禁止するほか、特別保護地区(鳥獣保護区内で鳥獣保護又はその生息地保護を図るため特に必要と認める区域)においては、一定の開発行為の規制を行います。

(4)生息地等保護区

生息地等保護区の指定、生息環境の把握及び維持管理、施設整備、普及啓発を行い、必要に応じ、立入り制限地区を設け、種の保存を図ります。

(5)天然記念物

文化財保護法(昭和25年法律第214号)に基づき、動物、植物及び地質鉱物で我が国にとって学術上価値の高いもののうち重要なものを天然記念物に指定するなど、適切な保存と整備・活用を推進します。

(6)国有林野における保護林及び緑の回廊

原生的な天然林を有する森林や希少な野生生物の生育・生息の場となる森林である「保護林」や、これらを中心としたネットワークを形成することによって野生生物の移動経路となる「緑の回廊」において、モニタリング調査等を行い森林生態系の状況を把握し順応的な保護・管理を推進します。

(7)保安林

「全国森林計画」に基づき、保安林の配備を計画的に推進するとともに、その適切な管理・保全に取り組みます。

(8)特別緑地保全地区・近郊緑地特別保全地区等

多様な主体による良好な緑地管理がなされるよう、管理協定制度等の適正な緑地管理を推進するための制度の活用を図ります。

(9)ラムサール条約湿地

湿地の保全と賢明な利用(ワイズユース)及びそのための普及啓発を図るとともに、条約湿地の質をより向上させていく観点から、これまでに登録された湿地について最新状況を把握し、ラムサール情報票(RIS)の更新を行います。

(10)世界自然遺産

登録された5地域(「屋久島」、「白神山地」、「知床」、「小笠原諸島」、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」)において、専門家の助言を踏まえつつ、地域関係者との合意形成を図りながら、関係省庁や自治体と連携し、世界自然遺産地域の適切な保全管理を推進します。

(11)生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)

国立公園等の管理を通して、登録された各生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)の適切な保全管理を推進するとともに、地元協議会への参画を通じて、持続可能な地域づくりを支援します。また、新規登録を目指す自治体に対する情報提供、助言等を行います。

(12)ジオパーク

国立公園と重複するジオパークにおいて、地方公共団体等のジオパークを推進する機関と連携して、地形・地質の多様性等の保全、自然体験・環境教育のプログラムづくり等を推進します。

(13)世界農業遺産・日本農業遺産

世界農業遺産及び日本農業遺産に認定された地域の農林水産業システムの維持・保全等に係る活動を推進するとともに、本制度や認定地域に対する国民の認知度を向上させるための情報発信に取り組みます。

4 自然再生

河川、湿原、干潟、藻場、里山、里地、森林など、生物多様性の保全上重要な役割を果たす自然環境について、自然再生推進法(平成14年法律第148号)の枠組みを活用し、多様な主体が参加し、科学的知見に基づき、長期的な視点で進められる自然再生事業を推進します。また、地域循環共生圏の考え方や防災・減災等の自然環境の持つ機能等に着目し、地域づくりや気候変動への適応等にも資する自然環境の再生等を推進します。

5 里地里山の保全活用

里地里山等に広がる二次的自然環境の保全と持続的利用を将来にわたって進めていくため、人の生活・生産活動と地域の生物多様性を一体的かつ総合的に捉え、民間保全活動とも連携しつつ、持続的な管理を行う取組を推進します。

文化財保護法に基づき、文化的景観のうち、地方公共団体が保存の措置を講じ、特に重要であるものを重要文化的景観として選定するとともに、地方公共団体が行う重要文化的景観の保存・活用事業に対し支援を実施します。

森林等に賦存する木質バイオマス資源の持続的な活用を支援し、地域の低炭素化と里山等の保全・再生を図ります。

6 都市の生物多様性の確保

(1)都市公園の整備

都市における生物多様性を確保し、また、自然とのふれあいを確保する観点から、都市公園の整備等を計画的に推進します。

(2)地方公共団体における生物多様性に配慮した都市づくりの支援

都市と生物多様性に関する国際自治体会議等に関する動向及び決議「準国家政府、都市及びその他地方公共団体の行動計画」の内容等を踏まえつつ、都市のインフラ整備等に生物多様性への配慮を組み込むことなど、地方公共団体における生物多様性に配慮した都市づくりの取組を促進するため、「生物多様性に配慮した緑の基本計画策定の手引き」の普及を図るほか、「都市の生物多様性指標」に基づき、都市における生物多様性保全の取組の進捗状況を地方公共団体が把握・評価し、将来の施策立案等に活用されるよう普及を図ります。

7 生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)及び気候変動適応策(EbA)の推進

かつての氾濫原や湿地等の再生による流域全体での遊水機能等の強化による、自然生態系を基盤とした気候変動への適応や防災・減災を進めるため、2023年3月に公表した「生態系保全・再生ポテンシャルマップ」の作成・活用方法を示した手引きと全国規模のベースマップを基に、自治体等に対する計画策定や取組への技術的な支援を進めます。また、自然の有する多機能性という特質を活かすことで、気候変動や生物多様性、社会経済の発展、防災・減災や食糧問題など複数の社会課題の同時解決を目指す考えである、自然を活用した解決策(NbS)は、Eco-DRRやEbAを包括的に含む傘となる大きな概念であり、自然保護の範囲や意義を拡張していくものです。2023年以降は、NbSにより自然がもたらす様々な効果を調査し、NbSの取組を現場実装するための手引きを策定します。