環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第1章>第2節 気候変動の影響への適応の推進

第2節 気候変動の影響への適応の推進

1 気候変動の影響等に関する科学的知見の集積

気候変動の影響に対処するため、温室効果ガスの排出の抑制等を行う緩和だけではなく、既に現れている影響や中長期的に避けられない影響を回避・軽減する適応を進めることが求められています。適応を適切に実施していくためには、科学的な知見に基づいて取組を進めていくことが重要となります。

2018年に施行された気候変動適応法(平成30年法律第50号)において、環境大臣は、気候変動及び多様な分野における気候変動影響の観測、監視、予測及び評価に関する最新の科学的知見を踏まえ、おおむね5年ごとに、中央環境審議会の意見を聴いて、気候変動影響の総合的な評価についての報告書を作成し、これを公表することとされています。2020年12月に、気候変動影響の総合的な報告書として「気候変動影響評価報告書」を公表しました。同報告書でまとめられた課題を踏まえ、次期報告書の作成に向けた検討を進めます。さらに、2016年に構築された気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)において、気候変動及びその影響に関する科学的知見、地方公共団体の適応に関する計画や具体的な取組事例、民間事業者の適応ビジネス等の情報の収集・発信を行います。さらに、2020年より開始された環境研究総合推進費による「気候変動影響予測・適応評価の総合的研究」を2023年度も継続して実施します。

2 国における適応の取組の推進

2018年12月に施行された気候変動適応法及び2021年10月に改定した「気候変動適応計画」に基づき、あらゆる関連施策に適応の観点を組み込み各分野で適応の取組を推進します。また、「気候変動適応計画」に記載されている各施策の進捗管理を行うとともに、気候変動適応の進展の状況を把握、評価する手法を開発します。また、これらの取組を進めるに当たって、環境大臣が議長である「気候変動適応推進会議」の枠組みを活用することなどにより関係府省庁が連携していきます。

気候変動に脆(ぜい)弱な開発途上国の多種多様な技術協力ニーズに応えるため、河川・沿岸防災、健康、水資源、食料安全保障、気候難民、造礁サンゴ再生等による自然を基盤とした解決策(NbS)など様々な適応課題に対し、二国間での技術協力による気候資金へのアクセス支援を強化します。また、適応策実施に民間資金を動員するための仕組みづくりなど、より具体的な気候変動適応国際協力を推進します。さらに、アジア太平洋地域の途上国が科学的知見に基づき気候変動適応に関する計画を策定し、実施できるよう、国立研究開発法人国立環境研究所と連携し、2019年6月に軽井沢で開催したG20関係閣僚会合において立ち上げを宣言した、国際的な適応に関する情報基盤であるAP-PLATの取組を強化します。

気候変動への適応策として重要な熱中症対策については、「熱中症対策行動計画」(2021年3月策定、2022年4月改定)に基づき、関係府省庁が一丸となって更なる熱中症対策を推進します。熱中症警戒アラートの発表により、国民に対して暑さへの気づきを促すとともに、時季に応じた適切な普及啓発を実施することで国民、事業所等による適切な熱中症予防行動の定着を目指します。あわせて、地域モデル事業を引き続き実施し、地域の特性や関係者の連携を活かした具体的な地方自治体の取組を支援するとともに、全国的に取組を展開していきます。さらに、改正気候変動適応法の施行に向け、現行より一段上の熱中症特別警戒情報の発表、暑熱避難施設(クーリングシェルター)の指定・開放や、熱中症対策を普及・推進していく地域団体の活用など、新制度に関する具体的な運用等について検討を進めます。

3 地域等における適応の取組の推進

地方公共団体における科学的知見に基づく適応策の立案・実施を支援するため、A-PLATの知見充実や、国立研究開発法人国立環境研究所による地方公共団体及び地域気候変動適応センターへの技術的支援等を行います。また、全国7ブロック(北海道、東北、関東、中部、近畿、中国四国、九州・沖縄)で「気候変動適応広域協議会」を開催し、気候変動適応に関する施策や取組についての情報交換・共有や、地域における気候変動影響に関する科学的知見の整理等を行います。また、「気候変動適応広域協議会」に立ち上げた地域の気候変動適応課題に関する分科会で策定したアクションプランについて、関係者の連携による適応策の実施や地域気候変動適応計画への組込みを後押ししていきます。

また、セミナー等の機会を通じて事業者の適応の取組を促進していきます。さらに、事業者の適応ビジネスを促進するため、事業者の有する気候変動適応に関連する技術・製品・サービス等の優良事例を発掘し、A-PLATやAP-PLATも活用しつつ国内外に積極的に情報提供を行います。

国民の適応に関する理解を深めるため、広報活動や啓発活動を行います。また、住民参加型の「国民参加による気候変動情報収集・分析」事業により、国民の関心と理解を深めます。