環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第4章>第7節 大気環境の保全

第7節 大気環境の保全

1 窒素酸化物・光化学オキシダント・PM2.5等に係る対策

大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)に基づく固定発生源対策及び移動発生源対策等を引き続き適切に実施するとともに、光化学オキシダント及びPM2.5の生成の原因となり得る窒素酸化物(NOX)、揮発性有機化合物(VOC)について、排出実態や科学的知見、排出抑制技術(対策効果の定量的予測・評価を可能とするシミュレーションの高度化を含む。)の開発・普及の状況等を踏まえて、経済的及び技術的考慮を払いつつ、対策を進めます。また、PM2.5については、集積した知見を踏まえ、高濃度地域に着目しつつ、より効果的な排出抑制策の検討を進めます。加えて、光化学オキシダントについては、人健康影響に加え、植物によるCO2吸収を阻害するため、気候変動という観点でも影響が懸念されている大気汚染物質になります。このような背景を踏まえ、2022年1月の中央環境審議会大気・騒音振動部会では、光化学オキシダント対策に係るワーキングプランを示し、気候変動対策・大気環境改善に資する総合的な対策について検討を進めています。

(1)ばい煙に係る固定発生源対策

大気汚染防止法に基づく排出規制の状況、科学的知見や排出抑制技術の開発・普及の状況等を踏まえて、経済的及び技術的考慮を払いつつ、追加的な排出抑制策の可能性を検討します。

(2)移動発生源対策

自動車排出ガス規制(オフロード特殊自動車も含む。)及び自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(平成4年法律第70号)に基づく車種規制を引き続き実施するとともに、環境性能に優れた低公害車の普及等を引き続き促進します。また、大気環境保全の観点から、自動車排出ガス低減技術の進展を見据えつつ、国内の大気環境、走行実態及び国際基準への調和等を考慮した許容限度の見直しに資する検討を進めます。

道路交通情報通信システム(VICS)やETC2.0、高度化光ビーコン等を活用した道路交通情報の内容・精度の改善・充実、信号機の改良、公共車両優先システム(PTPS)の整備等の高度道路交通システム(ITS)の推進、観光地周辺の渋滞対策、総合的な駐車対策の効果的実施等の交通流の円滑化対策を推進します。

これらの対策に加え、エコドライブの普及啓発を実施するとともに、公共交通機関への利用転換による低公害化・低炭素化を促進します。

(3)VOC対策

VOCの排出量の実態把握を進めることなどにより排出抑制対策の検討を行うとともに、法規制と自主的取組のベストミックスによる排出抑制対策を引き続き進めます。

大気環境配慮型SS(e→AS(イーアス))認定制度を通じて、VOCの一種である燃料蒸発ガスを回収する機能を有する給油機(Stage2)の利用促進・普及促進を図ります。

(4)監視・観測、調査研究

大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得るため、大気汚染防止法に基づき、都道府県等で常時監視を行っています。引き続き、リアルタイムに収集した測定データ(速報値)、都道府県等が発令した光化学オキシダント注意報等やPM2.5注意喚起の情報を「大気汚染物質広域監視システム(そらまめ君)」により、国民に分かりやすく情報提供を行います。その他、酸性雨や黄砂、越境大気汚染の長期的な影響を把握することを目的としたモニタリングや放射性物質モニタリングを引き続き実施します。また、PM2.5と光化学オキシダントは発生源や原因物質において共通するものが多いことに鑑み、両者の総合的対策に向け科学的知見の充実を図ります。

2 アジアにおける大気汚染対策

アジア地域におけるPM2.5、光化学オキシダント等の大気汚染の改善に向け、コベネフィット(共通便益)・アプローチも活用しながら、様々な二国間・多国間協力を通じて大気汚染対策を推進します。

(1)二国間協力

モンゴルとのコベネフィット事業や韓国とのPM2.5の発生源解析等に関する共同研究による科学的知見の集積等を通じて、我が国の知見やノウハウを相手国に提供するとともに、我が国の技術の海外展開等を図り、広くアジア地域の大気環境改善や気候変動対策に貢献します。

(2)日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM)の下の協力

日中韓三か国間の大気汚染に関する政策対話、黄砂に関する共同研究等において、最新情報の共有や意見交換を実施することで、三か国の政策や技術の向上を図ります。

(3)多国間協力

アジア地域規模での広域的な大気環境改善を目指し、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)、アジア太平洋クリーン・エア・パートナーシップ(APCAP)等の既存の枠組みにおける活動を推進します。

3 多様な有害物質による健康影響の防止

(1)アスベスト(石綿)対策

引き続き、大気中の石綿濃度の調査を実施するとともに、石綿を使用している建築物の解体等工事における発注者の届出や施工者の作業基準の遵守等の徹底を図ることや、改正法の周知を徹底するなど、石綿の飛散防止を進めます。

(2)水銀大気排出対策

水銀に関する水俣条約を踏まえて改正された大気汚染防止法に基づく水銀大気排出対策の着実な実施を図るため、引き続き、地方公共団体や関係団体等の協力を得て、水銀排出施設及び要排出抑制施設における水銀濃度測定結果の把握や、水銀大気排出インベントリーの作成等を行います。これらの情報を基に、必要に応じて新たな措置を検討するなど、水銀大気排出対策を推進します。

(3)有害大気汚染物質対策等

引き続き、地方公共団体と連携して有害大気汚染物質の排出削減を図るとともに、有害大気汚染物質等の大気環境モニタリング調査を実施します。特に、酸化エチレン等の有害大気汚染物質について、環境目標値の設定・再評価や健康被害の未然防止に効果的な対策の在り方について検討するとともに、残留性有機汚染物質(POPs)等の化学物質に関しても、知見の収集に努めます。

4 地域の生活環境保全に関する取組

(1)騒音・振動対策
ア 自動車交通騒音・振動対策

車両の低騒音化、道路構造対策、交通流対策や、住宅の防音工事等のばく露側対策に加え、沿道に新たな住居等が立地される前に騒音状況を情報提供するなどにより、騒音問題の未然防止を図ります。また、自動車騒音低減技術の進展を見据えつつ、自動車交通騒音への影響や、国内の走行実態及び国際基準への調和等を考慮した許容限度の見直しに資する検討を進めます。

イ 鉄道騒音・振動、航空機騒音対策

鉄道騒音・振動、航空機騒音の状況把握や予測・評価手法の検討を進めるとともに、車両の低騒音化等の発生源対策や住宅の防音工事等のばく露側対策に加え、騒音状況の情報提供等により騒音問題の未然防止を図ります。さらに、土地利用対策について、関係省庁や沿線自治体と連携しながら推進していきます。

ウ 工場・事業場及び建設作業の騒音・振動対策

最新の知見の収集・分析等を行い、騒音・振動の評価方法等についての検討を行います。また、従来の規制的手法による対策に加え、最新の技術動向等を踏まえ、情報的手法及び自主的取組手法を活用した発生源側の取組を促進します。

エ 低周波音その他の対策

従来の環境基準や規制を必ずしも適用できない新しい騒音問題について対策を検討するために必要な科学的知見を集積します。風力発電施設や家庭用機器等から発生する騒音・低周波音については、その発生・伝搬状況や周辺住民の健康影響との因果関係、わずらわしさを感じさせやすいと言われている純音性成分など、未解明な部分について引き続き調査研究を進めます。

(2)悪臭対策

最新の知見を踏まえた分析手法の見直しを検討するとともに、排出規制、技術支援及び普及啓発を進めます。

(3)ヒートアイランド対策

近年の暑熱環境や今後の見通しを踏まえ、人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市形態の改善、ライフスタイルの改善、人の健康への影響等を軽減する適応策の推進を柱とするヒートアイランド対策を推進します。また、暑さ指数(WBGT)等の熱中症予防情報の提供を実施します。

(4)光害(ひかりがい)対策等

光害(ひかりがい)対策ガイドライン等を活用し、良好な光環境の形成に向け、普及啓発を図ります。また、星空観察の推進を図り、より一層大気環境保全に関心を深められるよう取組を推進します。

(5)効果的な公害防止の取組の促進

2010年1月の中央環境審議会答申「今後の効果的な公害防止の取組促進方策の在り方について」を踏まえ、事業者や地方公共団体が公害防止を促進するための方策等を引き続き検討・実施します。