環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和4年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第5章>第4節 化学物質に関する国際協力・国際協調の推進

第4節 化学物質に関する国際協力・国際協調の推進

1 国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM(サイカム))

2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)で定められた実施計画において、「2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への著しい悪影響の最小化を目指す(WSSD2020年目標)」こととされたことを受け、2006年2月、第1回国際化学物質管理会議(ICCM1)において、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM(サイカム))が採択されました。これを受け、2012年9月には、WSSD2020年目標の達成に向けた今後の戦略を示すものとして、「SAICM(サイカム)国内実施計画」を策定し、包括的な化学物質管理を推進してきました。2020年10月に予定されていた第5回国際化学物質管理会議(ICCM5)は新型コロナウイルス感染症のため延期されましたが、WSSD2020年目標の目標年を迎え、次期枠組み策定に向けた議論が進められています。

2 国連の活動

PCB、DDTなど残留性有機汚染物質(POPs)30物質(群)の製造・使用の禁止・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理等を規定しているPOPs条約及び有害な化学物質の貿易に際して人の健康及び環境を保護するための当事国間の共同の責任と協同の努力を促進する「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約(PIC条約)」の締約国会合の第一部が2021年7月にオンラインで合同開催されました。同会合では、委員の選出、2022年補正予算及び暫定予算などが決議されました。なお、POPs条約においては、補助機関である残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)の2020年から2024年までの委員が我が国から選出されています。また、東アジアPOPsモニタリングプロジェクトを通じて、東アジア地域の国々と連携して環境モニタリングを実施するとともに、2022年2月にオンラインで第14回東アジアPOPsモニタリングワークショップを開催し、同地域におけるモニタリング能力の強化に向けた取組を進めています。

化学物質の分類と表示の国際的調和を図ることを目的とした「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」については、関係省庁が作業を分担しながら、化学物質の有害性に関する分類事業を行うとともに、ウェブサイトを通じて分類結果の情報発信を進めました。

また、2022年2月~3月に開催された国連環境総会再開セッションにおいて、「化学物質・廃棄物の適正管理及び汚染の防止に関する政府間科学・政策パネル」の設置に向けた交渉を開始することが決定されました。

3 水銀に関する水俣条約

水銀による地球規模での環境汚染から人の健康と環境を保護するため、2013年10月に我が国で開催された外交会議において、水銀に関する水俣条約(以下「水俣条約」という。)が採択されました。水俣条約は2017年8月に発効し、同日、水銀による環境の汚染の防止に関する法律(平成27年法律第42号。以下「水銀汚染防止法」という。)が施行されました。2021年11月には、水俣条約締約国会議第4回会合の第一部がオンラインで開催されました。2022年3月にインドネシア・バリにおいて開催された第二部では、条約の有効性評価の枠組みについて合意されたほか、電球形蛍光ランプ等の製造・輸出入を2025年末に廃止することなどが決定されました。

国内では、水銀汚染防止法を着実に施行するとともに、同法に基づく「水銀等による環境の汚染の防止に関する計画」の実施状況の点検を行いました。また、沖縄県辺戸(へど)岬及び秋田県男鹿(おが)半島において、水銀の大気中濃度等のモニタリング調査を実施しました。

我が国は過去の経験と教訓を活かし、途上国による水俣条約の適切な履行を支援する国際協力と水俣発の情報発信・交流の二つの柱からなる「MOYAI(モヤイ)イニシアティブ」を推進しています。途上国への水銀対策支援については、国連工業開発機関(UNIDO)、国連環境計画(UNEP)、アジア太平洋水銀モニタリングネットワーク(APMMN)と協力して、途上国の技術者向けのモニタリング能力向上支援研修を行いました。また、我が国の優れた水銀対策技術の国際展開を推進すべく、ベトナム等で調査を実施しました。さらに、UNEPアジア太平洋地域事務所が有する途上国のネットワークを活用し、アジア太平洋地域を中心とする途上国の水俣条約の実施等を支援しました。

4 OECDの活動

我が国は、OECDの化学品・バイオ技術委員会において、環境保健安全プログラムを通じて、化学物質の安全性試験の技術的基準であるテストガイドラインの作成及び改廃など、化学物質の適正な管理に関する種々の活動に貢献しています。これに関する作業として、新規化学物質の試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、優良試験所基準(GLP)に関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関する我が国としての評価作業、化学物質の安全性を総合的に評価するための手法等の検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っています。また、環境省と国立環境研究所で開発している定量的構造活性相関(QSAR)プログラムである生態毒性予測システム(KATE)が、OECD QSAR Toolboxに接続されるなど連携を深めています。内分泌かく乱作用については、生態影響評価のための試験法の開発に主導的に参加するなど、OECDの取組に貢献しています。また、2006年に設置された「工業ナノ材料作業部会」では、工業ナノ材料に係る安全性評価手法の開発支援推進のためのヒト健康と環境影響に関する国際協力が進められており、我が国もその取組に貢献しました。

5 諸外国の化学物質規制の動向を踏まえた取組

欧州連合(EU)では、化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則(REACH)や化学品の分類、表示及び包装に関する規則(CLP規則)等の化学物質管理制度に基づく化学物質管理が実施されており、我が国との関係が特に深いアジア地域においても、関係法令の施行による化学物質対策の強化が進められています。このため、我が国でも化学物質を製造・輸出又は利用する様々な事業者の対応が求められています。こうした我が国の経済活動にも影響を及ぼす海外の化学物質対策の動きへの対応を強化するため、化学産業や化学物質のユーザー企業、関係省庁等で構成する「化学物質国際対応ネットワーク」を通じて、ウェブサイト等による情報発信やセミナーの開催による海外の化学物質対策に関する情報の収集・共有を行いました。

日中韓三か国による化学物質管理に関する情報交換及び連携・協力を進め、2021年11月に「第15回日中韓化学物質管理政策対話」がオンラインで開催されました。日中韓の政府関係者による政府事務レベル会合では、化学物質管理政策の最新動向と今後の方向性、化学物質管理に関する国際動向への対応、各国の最新の課題に関する対応の状況等について情報・意見交換を行いました。また、同政策対話の一環で開催された専門家会合では、リスク評価における技術的手法についての情報交換を行うとともに、共同研究の実施について議論を行いました。さらに、今後の三か国の共同行動計画についても合意しました。さらに、近年成長著しい東南アジアの化学物質管理に貢献するため、アジア地域において化学物質対策能力の向上を促進し、適正な化学物質対策の実現を図るためのワークショップ等を開催しています。2021年10月には、PRTR制度を始めとする、化学物質管理政策についてオンラインで意見交換及び情報交換を行い、両国における化学物質管理の向上に向け、引き続き連携していくことを確認しました。