現代の社会においては、様々な産業活動や日常生活に多種多様な化学物質が利用され、私たちの生活に利便を提供しています。また、物の焼却等に伴い非意図的に発生する化学物質もあります。化学物質の中には、適切な管理が行われない場合に環境汚染を引き起こし、人の健康や生活環境に有害な影響を及ぼすものがあります。
化学物質の一般環境中の残留実態については、毎年、化学物質環境実態調査を行い、「化学物質と環境」として公表しています。2017年度においては、[1]初期環境調査、[2]詳細環境調査及び[3]モニタリング調査の三つの調査を実施しました。これらの調査結果は、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号。以下「化学物質審査規制法」という。)のリスク評価及び規制対象物質の追加の検討、特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成11年法律第86号。以下「化学物質排出把握管理促進法」という。)の指定化学物質の指定の検討、環境リスク評価の実施のための基礎資料など、各種の化学物質関連施策に活用されています。
初期環境調査は、化学物質排出把握管理促進法の指定化学物質の指定やその他化学物質による環境リスクに係る施策についての基礎資料とすることを目的としています。2017年度は、調査対象物質の特性に応じて、水質、底質又は大気について調査を実施し、対象とした15物質(群)のうち、7物質(群)が検出されました。また、2018年度は、19物質(群)について調査を実施しました。
詳細環境調査は、化学物質審査規制法の優先評価化学物質のリスク評価を行うための基礎資料とすることを目的としています。2017年度は、調査対象物質の特性に応じて、水質、底質又は大気について調査を実施し、対象とした10物質(群)のうち、9物質(群)が検出されました。また、2018年度は、10物質(群)について調査を実施しました。
モニタリング調査は、難分解性、高蓄積性等の性質を持つポリ塩化ビフェニル(PCB)、ジクロロジフェニルトリクロロエタン(DDT)等の化学物質の残留実態を経年的に把握するための調査であり、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(以下「POPs条約」という。)の対象物質及びその候補となる可能性のある物質並びに化学物質審査規制法の特定化学物質等を対象に、物質の特性に応じて、水質、底質、生物又は大気について調査を実施しています。
2017年度は、14物質(群)について調査を実施し、数年間の結果が蓄積された物質を対象に統計学的手法を用いて解析したところ、全ての媒体で濃度レベルが総じて横ばい又は漸減傾向を示していました。また、2018年度は20物質(群)について調査を実施しました。
環境施策上のニーズや前述の化学物質環境実態調査の結果等を踏まえ、化学物質の環境経由ばく露に関する人の健康や生態系に有害な影響を及ぼすおそれ(環境リスク)についての評価を行っています。その取組の一つとして、2018年度に環境リスク初期評価の第17次取りまとめを行い、13物質について健康リスク及び生態リスクの初期評価を、4物質について生態リスクの初期評価を実施しました。その結果、相対的にリスクが高い可能性がある「詳細な評価を行う候補」とされた物質はなく、健康リスク初期評価で6物質、生態リスク初期評価で6物質について「更なる関連情報の収集が必要」と判定されました。
化学物質審査規制法に基づき、法制定以前に製造・輸入が行われていた既存化学物質を含む一般化学物質等を対象に、スクリーニング評価を行い優先評価化学物質と指定した上で、優先評価化学物質のリスク評価を実施しました。
ナノ材料については、環境・省エネルギー等の幅広い分野で便益をもたらすことが期待されている一方で、人の健康や生態系への影響が十分に解明されていないことから、国内外におけるナノ材料への取組に関する知見の集積を行うとともに、生態影響と環境中挙動を把握するための方法論を検討しました。
化学物質審査規制法では、包括的な化学物質の管理を行うため、法制定以前に製造・輸入が行われていた既存化学物質を含む一般化学物質等を対象に、まずはスクリーニング評価を行い、リスクがないとは言えない化学物質を絞り込んで優先評価化学物質に指定した上で、それらについて段階的に情報収集し、国がリスク評価を行っています。2019年4月末時点で、優先評価化学物質223物質が指定されています(図5-1-1)。また、優先評価化学物質については段階的に詳細なリスク評価を進めており、2018年度までに72物質について「リスク評価(一次)評価II」に着手し、32物質について評価IIの評価結果を審議しました。
一方、新たに製造・輸入される新規化学物質については、2018年度は、455件(うち低生産量新規化学物質は164件)の届出を事前審査しました。
2017年4月に開催されたPOPs条約第8回締約国会議の議論を踏まえ、2018年2月に化学物質審査規制法施行令を改正し、[1]新たに条約上の廃絶対象とすることが決定されたポリ塩化直鎖パラフィン(炭素数が10から13までのものであって、塩素の含有量が全重量の48パーセントを超えるものに限る。)及びデカブロモジフェニルエーテルを第一種特定化学物質に指定するとともに、[2]当該物質が使用されている場合に輸入することができない製品群を指定しました。[1]については2018年4月1日に、[2]については同年10月1日に施行されました。
難分解性及び高蓄積性を有し、人又は高次捕食動物への長期毒性を有するか不明な物質として、2018年4月に新たに2物質を監視化学物質に指定しました。
化学物質による環境汚染の防止を適切に実施するため、[1]新規化学物質の審査特例制度における国内の総量規制を一定の環境排出量を上限とするものに改めるとともに、[2]一般化学物質のうち毒性が強い化学物質(特定新規化学物質及び特定一般化学物質)に係る管理の強化を図るなどの所要の措置を講ずることを内容とする化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の一部を改正する法律(平成29年法律第53号)が、2017年6月に公布され、[1]については2019年1月1日に、[2]については2018年4月1日に施行されました。[2]については、本年度3物質を特定新規化学物質として指定しました。
化学物質排出把握管理促進法に基づく化学物質排出移動量届出(PRTR)制度については、事業者が把握した2017年度の排出量等が都道府県経由で国へ届出されました。届出された個別事業所のデータ、その集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計結果を、2019年3月に公表しました(図5-1-2、図5-1-3、図5-1-4)。また、2010年度から、個別事業所ごとのPRTRデータをインターネット地図上で視覚的に分かりやすく表示し、ウェブサイトで公開しています。
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2017年度のダイオキシン類に係る環境調査結果は表5-1-1のとおりです。
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2017年度に人が一日に食事及び環境中から平均的に摂取したダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約0.66pg-TEQと推定されました(図5-1-5)。
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食品からのダイオキシン類の摂取量は0.65pg-TEQです。この数値は耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています(図5-1-6)。
ダイオキシン類対策は、「ダイオキシン対策推進基本指針(以下「基本指針」という。)」及びダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)の二つの枠組みにより進められています。
1999年3月に策定された基本指針では、排出インベントリ(目録)の作成、測定分析体制の整備、廃棄物処理・リサイクル対策の推進等を定めています。
ダイオキシン法では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物焼却炉に係るばいじん等の処理に関する規制、汚染状況の調査、土壌汚染に係る措置、国の削減計画の策定等が定められています。
基本指針及びダイオキシン法に基づき国の削減計画で定めたダイオキシン類の排出量の削減目標が達成されたことを受け、2012年に国の削減計画を変更し、新たな目標として、当面の間、改善した環境を悪化させないことを原則に、可能な限り排出量を削減する努力を継続することとしました。我が国のダイオキシン類の排出総量は年々減少しており、2017年における削減目標の設定対象に係る排出総量は、目標量を下回っており、排出削減目標は達成されたと評価されます(図5-1-7)。
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ダイオキシン法に定める排出基準の超過件数は、2017年度は大気基準適用施設で35件、水質基準適用事業場で0件、合計35件(2016年度44件)でした。また2017年度において、同法に基づく命令が発令された件数は、大気関係0件、水質関係0件で、法に基づく命令以外の指導が行われた件数は、大気関係1,143件、水質関係68件でした。
ダイオキシン類による土壌汚染対策については、環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、これまでに6地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定され、対策計画に基づく事業が完了しています。
ダイオキシン類に係る土壌汚染対策を推進するための各種調査・検討を実施しました。
「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針」又は「ダイオキシン類の環境調査に係る精度管理の手引き(生物検定法)」に基づいて実施するダイオキシン類の環境測定を伴う請負調査について、測定に係る精度管理を推進するために、測定分析機関に対する受注資格審査を行いました。
ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の排出実態に関する調査研究等を進めました。また、環境中でのダイオキシン類の実態調査等を引き続き実施しました。
農薬は、正しく使用しなければ、人の健康や生態系に悪影響を及ぼすおそれがあることなどから、農薬取締法(昭和23年法律第82号)に基づき規制されており、農林水産大臣の登録を受けなければ製造、販売等ができません。農薬を登録するかどうかの要件のうち、作物残留、土壌残留、水産動植物の被害防止及び水質汚濁に係る基準(農薬登録基準)を環境大臣が定めています。特に、水産動植物の被害防止に係る農薬登録基準及び水質汚濁に係る農薬登録基準は、個別農薬ごとに基準値を設定しており、2018年度は、それぞれ23農薬と19農薬に基準値を設定しました。
2018年6月に、農薬の安全性の一層の向上を図るため、農薬の再評価制度を導入するとともに、農薬の生態影響評価の対象を水産動植物から陸域を含む生活環境動植物に拡大することなどを内容とした農薬取締法の一部を改正する法律(平成30年法律第53号)が公布され、2018年12月に施行されました(農薬の生態影響評価の拡充は2020年4月に施行予定)。これに伴い、新たに水草及び鳥類を農薬登録時の評価対象に加えるとともに、野生のハチ類についても検討を行うこととしました。
農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(平成15年農林水産省・環境省令第5号)を改正し、芝や樹木等に農薬を使用する際にも、表示事項に従って安全かつ適正に使用するよう努めなければならないことを明確にしました。
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