我が国では、全国的な観点から植生や野生動物の分布など自然環境の状況を面的に調査する自然環境保全基礎調査のほか、様々な生態系のタイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査する「モニタリングサイト1000」等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化を把握しています。
自然環境保全基礎調査における植生調査では、詳細な現地調査に基づく植生データを収集整理した1/2万5,000現存植生図を作成しており、我が国の生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっています。2018年度までに、全国の約88%に当たる地域の植生図の作成を完了しました。また、クマ等の野生鳥獣の生息分布状況の調査を実施しました。
自然環境保全基礎調査における巨樹・巨木林調査では、2000年度の第6回フォローアップ調査終了後からは市民参加型調査に移行し、調査結果を「巨樹・巨木林データベース」ウェブサイトで公開しています。同ウェブサイトでは、ドローンを活用した「空から見た巨樹の動画」や「おすすめの観察コースガイド」、「各地の観察会情報」等のコンテンツを通じて巨樹・巨木林の魅力に触れられるほか、調査結果の閲覧や報告等を手軽に行うことができます。
モニタリングサイト1000では、高山帯、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(磯、干潟、アマモ場、藻場、サンゴ礁等)、小島嶼(しょ)について、生態系タイプごとに定めた調査項目及び調査方法により、合計約1,000か所の調査サイトにおいて、モニタリング調査を実施し、その成果を公表しています。また、得られたデータは5年ごとに分析等を加え、取りまとめて公表しています。2018年度は第3期の取りまとめの年に当たることから、これに向けてデータの解析等を進めました。
インターネットを使って、全国の生物多様性データを収集し、提供するシステム「いきものログ」により、2018年度末時点で466万件の全国の生物多様性データが収集され、地方公共団体をはじめとする様々な主体で活用されています。
地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域の生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化等を推進する「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)」の取組の一環として、2018年7月にマレーシアのクチンにおいてAP-BONワークショップを開催しました。また、同年10月に京都市で開催された第11回全球地球観測システム(GEOSS)アジア太平洋シンポジウムにおいて、AP-BON分科会を開催し、アジア太平洋地域における生物多様性モニタリングを推進しました。さらに、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上を目的とする「東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(ESABII)」を推進するため、同地域の行政担当官や若手研究者等を対象に、ワシントン条約附属書掲載種の識別研修をマレーシアのクアラルンプールで実施しました。
研究開発の取組としては、独立行政法人国立科学博物館において、「ミャンマーを中心とした東南アジア生物相のインベントリー-日本列島の南方系生物のルーツを探る-」、「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究」等の調査研究を推進するとともに、約479万点の登録標本を保管し、標本情報についてインターネットで広く公開しました。また、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)の活動を支援するとともに、日本からのデータ提供拠点である独立行政法人国立科学博物館及び大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所と連携しながら、生物多様性情報をGBIFに提供しました。
再生可能エネルギーの導入促進が求められている今日、国立公園内におけるこれら取組の効率的な導入の支援を主な目的として、2016年度から全国に34か所ある国立公園における地形・地質、動植物をはじめとした景観要素に関する既存資料を網羅的に収集し、インベントリとして整理しました。また、これらの資料に含まれる各種情報のデータベース化を進めました。収集した情報は合計約800万レコード以上に上り、自然環境の概況や法制度等の様々な条件を可視化した地図についても作成を進めました。2019年度には、これらのデータを適切に公開することとしており、自然環境等に配慮した適切かつ効率的な再生可能エネルギーの導入促進をはじめ、円滑な公園区域や公園計画の検討等に寄与することが期待されます。
保護地域での適応策検討に資するため、大雪山国立公園及び慶良間諸島国立公園をモデル地域として、今後の保護区の管理を想定しながら、生態系の変化予測と生態系サービスを含めた影響の予測、脆(ぜい)弱性評価等を実施しました。それらを踏まえた適応策の案を検討するとともに、気候変動を踏まえた保護地域の将来的な保全管理の検討に活用できる手引きを作成しました。
生態系サービスを生み出す森林、土壌、生物資源等の自然資本を持続的に利用していくために、自然資本と生態系サービスの価値を適切に評価・可視化し、様々な主体の意思決定に反映させていくことが重要です。そのため、生物多様性の主流化に向けた経済的アプローチに関する情報収集や、生態系サービスの定量的評価に関する研究を実施するとともに、企業による生物多様性保全活動の評価のための作業説明書を公表しました。また、「生物多様性及び生態系サービスの総合評価報告書第3版(JBO3)」の作成に向け、内容の検討や必要な情報収集を行いました。
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