環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書施策第6章>第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

第3節 技術開発、調査研究、監視・観測等の充実等

1 グリーン・イノベーションの推進

(1)環境研究・技術開発の実施体制の整備
ア 研究開発の総合的推進

科学技術基本計画に基づき、我が国及び世界の持続的な発展に資する観点から、持続的な循環型社会の実現、生活環境における安全・安心の確保、地球規模課題への対応と世界の発展への貢献に資する研究開発を推進します。主な施策例は表6-3-1のとおりです。

表6-3-1 研究開発の総合的推進に関する施策の例

また、環境省では2015年8月に取りまとめた「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」(中央環境審議会答申)の取組状況に関してフォローアップを行い、研究・技術開発を効率的に推進します。

イ 環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進

(ア)国立水俣病総合研究センター

国立水俣病総合研究センターでは、国の直轄研究機関としての使命を達成するため2015年度に策定した「中期計画2015」の四つの重点項目について、引き続き研究及び業務を積極的に推進します。特に、地元医療機関との共同による脳磁計(MEG)・磁気共鳴画像診断装置(MRI)を活用したヒト健康影響評価及び治療に関する研究、メチル水銀中毒の予防及び治療に関する基礎研究、国内外諸機関との共同による環境中の水銀移行に関する研究並びに水俣病発生地域の地域創生に関する調査・研究等を進めます。

また、水銀に関する水俣条約締結を踏まえ、水銀分析技術の簡易・効率化を図り、開発途上国に対する技術移転を促進します。水俣病情報センターについては、歴史的資料等保有機関として適切な情報収集及び情報提供を実施します。

(イ)国立研究開発法人国立環境研究所

国立研究開発法人国立環境研究所では、環境大臣が定めた第4期中長期目標(2016年度~2020年度)と第4期中長期計画に基づき、「環境研究・環境技術開発の推進戦略について」で提示されている重点的に取り組むべき課題に対応する課題解決型研究及び災害環境研究等、環境研究の中核的機関として、従来の個別分野を越えて、国内外の研究機関とも連携し、統合的に環境研究を推進します。また、環境の保全に関する科学的知見の創出、国内外機関とのネットワーク・橋渡しの拠点としてのハブ機能強化、研究成果の積極的な発信と政策貢献・社会貢献を推進します。さらに、環境情報を収集・整理し、国民に分かりやすく提供します。

ウ 各研究開発主体による研究の振興等

科学研究費助成事業による研究助成等、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究の推進や研究施設・設備の整備・充実への支援を行います。また、戦略的創造研究推進事業等により、環境に関する基礎研究を推進します。なお、 大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所においては、人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野を横断的に取り入れた地球環境問題の解決に資する研究プロジェクトを行います。

地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動も活発に推進しています。これらの地方環境関係試験研究機関における試験研究の充実強化を図るため、環境省では地方公共団体環境試験研究機関等所長会議を開催するとともに、全国環境研協議会等と共催で環境保全・公害防止研究発表会を開催し、研究者間の情報交換の促進、国と地方環境関係試験研究機関との緊密な連携の確保を図ります。

(2)環境研究・技術開発の推進

環境研究総合推進費では、2017年度の新規課題の採択において、2015年12月の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」を踏まえた温室効果ガスの抜本的な排出削減や経済・社会的課題の同時解決のきっかけとなる気候変動対策に関する研究課題や、気候変動の影響に対する適応に関する研究課題を重点的に採択します。また、地球温暖化の防止に関する研究のうち、各府省が中長期的視点から計画的かつ着実に関係研究機関において実施すべき研究を、地球環境保全試験研究費により効果的に進めます。

総務省では、国立研究開発法人情報通信研究機構等を通じ、電波や光を利用した地球環境のリモートセンシング技術や、環境負荷を増やさず飛躍的に情報通信ネットワーク設備の大容量化を可能にするフォトニックネットワーク技術の研究開発を引き続き推進します。

農林水産省では、農林水産省地球温暖化対策総合戦略及び農林水産省気候変動適応計画に基づき、気候変動に係る研究及び技術開発を推進します。環境保全型農業等の農林水産関連施策を効果的に推進するため生物多様性指標とその評価手法の開発、未利用資源を利用した高付加価値マテリアル等の製造技術の開発を進めるとともに、農林水産分野における温室効果ガスの排出削減技術・吸収源機能向上技術の開発を推進します。また、精度の高い収量・品質モデル等を開発し、気候変動による農林水産物への影響評価を行うとともに、気候変動に適応する農林水産物の品種・育種素材の開発や農畜産物の生産安定技術、山地災害の激甚化や人工林の生育環境の変化等に対応するための技術、気候変動に伴い予想される野生鳥獣害拡大への対応技術の開発を推進します。さらに、これらの研究開発に必要な生物遺伝資源の収集・保存や特性評価等を推進します。

東京電力福島第一原子力発電所事故の影響を受けた被災地において、農業者が早期に、安心して営農を再開できるようにするため、除染後農地の省力的維持管理技術の開発、農地への放射性物質流入防止技術の開発及び植物の特性を利用した新たな放射性物質吸収抑制技術の開発を行います。さらに、消費者に安全な木材製品を供給するため、木材製品、作業環境等に係る放射性物質の調査・分析を行うとともに木材の安全確保のため、木材製品等の流通調査・分析や木材製品等に係る安全証明体制の検討・構築を図ります。

経済産業省では、生物機能を活用した高付加価値物質の生産技術開発、遺伝子組換え生物等の適切な使用及び海外の遺伝資源の円滑な利用を促進するための事業環境の整備等を引き続き実施します。

国土交通省では、地球温暖化対策にも配慮しつつ地域の実情に見合った最適なヒートアイランド対策を検討できるシミュレーション技術の運用や、地球温暖化対策に資する都市緑化等によるCO2の吸収量算定手法の開発等を引き続き実施します。下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)等による下水汚泥の有効利用技術等の実証と普及を積極的に進めます。鉄道の更なる省エネ化を図るため、節電、省エネ効果が期待される蓄電池電車等の技術開発を推進します。海運からのCO2の排出削減に向け、我が国の高い技術力を背景に船舶からのCO2排出規制に関する国際的枠組みづくりを推進し、国際競争力を強化しつつ、CO2排出の大幅な削減対策を実施します。また、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所においては、船舶の環境負荷低減技術の普及を目指し、海上技術安全研究所にて、省エネデバイス等の実海域における運航性能を設計段階で評価できる手法の開発・研究を行うとともに、国内外に広く適用可能なブルーカーボン(海洋によって隔離される炭素)の計測手法を確立することを目的に、港湾空港技術研究所にて、大気と海水間のガス交換速度や海水と底生系(底生動植物、堆積物)間の炭素フロー等を定量的に計測するための沿岸域における現地調査や実験を含む研究を推進しています。

文部科学省では、希少元素の使用量の低減化や毒性の低下に資する研究開発として、「元素戦略プロジェクト」を実施していきます。

(3)環境研究・技術開発の効果的な推進方策

CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業により、引き続き将来的な地球温暖化対策強化につながり、各分野におけるCO2削減効果が相対的に大きいものの、民間の自主的な取組だけでは十分に進まない技術の開発・実証を強力に推進し、その普及を図ります。

環境省では、二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の導入に向けて、石炭火力発電所排ガスから商用規模でのCO2分離回収、海底下での安定的な貯留、我が国に適したCCSの円滑な導入手法の検討等を行います。

文部科学省では、省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体の研究開発、抜本的な温室効果ガスの排出削減の実現に資する先端的低炭素化技術開発等を実施します。

経済産業省では、省エネルギー、再生可能エネルギー、原子力、クリーンコールテクノロジー及びCCS等の技術開発・実証を引き続き実施します。

環境技術実証事業では、先進的な環境技術の普及に向け、技術の実証やその結果の公表等を引き続き実施するとともに、国際標準化を踏まえ、国際展開を図ります。

環境研究総合推進費や地球環境保全等試験研究費等により実施された研究成果について、引き続き広く行政機関、研究機関、民間企業、民間団体等に紹介し、その普及を図ります。

2 官民における監視・観測等の効果的な実施

(1)地球環境に関する観測・監視

気候の観測・監視については、世界気象機関(WMO)及び全球気候観測システム(GCOS)の枠組みに基づき、地上及び高層における定常気象観測及び地上放射観測を引き続き推進するとともに、その推進に向けた国際的な取組に積極的に参画します。また、国立研究開発法人国立環境研究所では、引き続き波照間島における温室効果ガス等のモニタリング、航空機・船舶を利用したアジア地域等の大気中・海洋表層における温室効果ガスのモニタリング等の長期モニタリングを行います。また、気候変動によるサンゴや高山植生の生態系変化に対しての観測を行います。気象庁ではWMOの全球大気監視計画(以下「GAW計画」という。)の一環として、温室効果ガス、クロロフルオロカーボン(CFC)等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線及び大気混濁度等の定常観測を東京都南鳥島等で引き続き実施するとともに、航空機による北西太平洋上空の温室効果ガスの定期観測を継続します。さらに、日本周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中の二酸化炭素等の定期観測を実施します。これらの観測データについては、定期的に公表していきます。また、黄砂に関する情報及び有害紫外線に関する情報を引き続き発表します。

衛星による地球環境観測については、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)による観測を行い、観測データの検証、解析を進め、全球の温室効果ガスの濃度分布、月別・地域別の吸収・排出量の推定データ、濃度の三次元分布推定データのより正確な把握等を目指すとともに、2018年度の打上げを目指して観測精度と密度を飛躍的に向上させた後継機の開発を進めます。また、主要な温室効果ガス排出国の排出の監視を強化するとともに、全球の温室効果ガスの継続的な観測体制を整備するため、2017年度をめどに3号機の開発の検討に着手し、2022年度に打ち上げることで継続観測を図ります。そのほかにも、降水、雲・エーロゾル、植生等の地球環境に関する全球の多様なデータの収集を行う衛星の研究開発やデータ提供等、人工衛星による観測・監視技術の開発利用を一層推進します。また、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を引き続き推進し、地球規模の諸現象の解明・予測等の研究開発を推進します。さらに、地球規模の高度海洋監視システムを構築する「アルゴ(Argo)計画」を引き続き推進します。

南極地域観測については、南極地域観測第IX期計画に基づき、海洋、気象、電離層等の基本観測のほか、地球環境変動の解明を目的とする各種研究観測を実施します。

また、北極域研究については、国際共同研究や、国際連携拠点整備、若手研究者育成等を実施するとともに、海氷下観測に係る技術開発等を推進します。

地球温暖化対策に必要な観測を、統合的・効率的なものとするとともに、「今後10年の我が国の地球観測の実施方針」や「気候変動の影響への適応計画」に基づいて、「地球観測連携拠点(温暖化分野)」の機能を強化することを目的として2016年8月に構築した「気候変動適応情報プラットフォーム」を通じて、関係府省・機関間の観測及びデータ利用の連携を推進します。

地球観測・予測情報等のビッグデータを活用した気候変動等の社会課題の解決を支援する社会基盤(データ統合・解析システム(DIAS))の構築、全ての気候変動対策の基盤となる気候モデルの高度化や我が国周辺の極端気象現象に関する高精度な確率的予測等に係る研究開発、地域における気候変動適応策の立案・推進に貢献する研究開発を一体的に推進します。

地球温暖化の原因物質や直接的な影響を的確に把握する包括的な観測態勢整備のため、地球環境保全試験研究費において、2017年度からは「海洋表層観測網と国際データベースの整備による生物地球科学的な気候変動等の応答検出」、「西シベリア雪氷圏におけるタワー観測ネットワークを用いた温室効果ガス収支の長期変動解析」及び「光吸収性エアロゾルの監視と大気・雪氷系の放射収支への影響評価-地球規模で進行する雪氷圏融解メカニズムの解明に向けて-」の3つの研究を開始します。

全国の気象官署における観測開始以降の観測資料の利用を促進するなど、地球温暖化の状況等に関する調査研究を推進し、地球温暖化予測の強化を図ります。また、国内の影響・リスク評価研究の更なる進展のため、日本付近の詳細な気候変化の予測精度を高めるための技術開発を引き続き推進します。また、GPS装置を備えた検潮所において精密型水位計による地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供を継続します。

(2)技術の精度向上等

更なる環境測定分析の精度向上等を目指して、引き続き地方公共団体及び民間の環境測定分析機関を対象とした環境測定分析統一精度管理調査を実施します。

3 技術開発等に際しての環境配慮等

「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」に基づき、事業者から提出される浄化事業計画の同指針への適合確認を行う等、引き続き適切な制度の運用を行います。