環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第2節 生物多様性を社会に浸透させる取組

第2節 生物多様性を社会に浸透させる取組

1 生物多様性の主流化

(1)生物多様性の普及広報

 生物多様性の恵みを将来世代にわたって享受できる自然と共生する社会を実現していくためには、私たちの日常生活や社会経済活動の中に生物多様性への配慮を組み込んでいくことが必要です。

 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)における日本からの提案を踏まえ、2010年(平成22年)12月の国連総会において、2011年(平成23年)から2020年(平成32年)までの10年間を、愛知目標の達成に貢献するため、国際社会のあらゆるセクターが連携して生物多様性の問題に取り組む「国連生物多様性の10年」とする決議が採択されました。これを踏まえ、国内のあらゆる主体が連携を図り、生物多様性の保全と持続可能な利用の取組を促進し、愛知目標の達成に貢献するため、2011年(平成23年)9月に「国連生物多様性の10年日本委員会」(UNDB-J)を設立し、本委員会を通じて生物多様性の主流化に向けたさまざまな取組を推進しています。

ア 各セクター間の意見・情報交換

 平成25年11月に兵庫県豊岡市において第3回生物多様性全国ミーティングを開催し、各セクターの取組について発表・意見交換を行ったほか、全国3か所(平成25年7月:熊本県阿蘇市、8月:富山県富山市、平成26年1月:愛媛県松山市)で生物多様性地域セミナーを、1か所で生物多様性出前講座(平成25年8月:神奈川県横浜市)を開催しました(写真2-2-1)。

写真2-2-1 第3回生物多様性全国ミーティング

イ 委員会が推奨する連携事業の認定

 国際自然保護連合日本委員会が行う「にじゅうまるプロジェクト」の登録事業等の中から、「多様な主体の連携」、「取組の重要性」、「取組の広報の効果」などの観点からUNDB-Jが推奨する連携事業を認定しており、平成25年度は23件を認定しました。

ウ 普及啓発に資する推薦図書等の選定

 生物多様性の理解や普及啓発、環境学習にも資する図書、映像・音楽、各種グッズ等を推薦ツールとして選定しており、UNDB-J推薦「子供向け図書」(愛称:「生物多様性の本箱」~みんなが生きものとつながる100冊~)については、読み聞かせ会など、さまざまなイベントとの連携により広報を実施しました。

エ 生物多様性の認知度向上のための事業

 効果的なCEPA(Communication, Education & Public Awareness:広報・教育・普及啓発)活動を行っていくため、「地球いきもの応援団」、「生物多様性リーダー」、「生物多様性キャラクター応援団」による広報を行うとともに、「MY行動宣言」の実施や「グリーンウェイブ2013」(全国で567団体の参加、140団体の協力のもと、約1万8,000人が参加)への参加の呼びかけ、生物多様性マガジン「Iki・Tomo(イキトモ)」の発行など、さまざまな主体への働きかけを行っています。

 さらに、生物多様性の保全や持続可能な利用に向け自ら行動する個人・団体がメンバーとして参画する「Iki・Tomoパートナーズ」を立ち上げ、拡大を図っています。

オ 国際生物多様性の日

 毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」です。平成25年度は、平成24年の国際生物多様性の日のテーマ「水の生物多様性」を受けて、東京・青山の国連大学において「国際生物多様性の日シンポジウム~三陸復興国立公園の創設から考える生態系サービスの強化と持続可能な地域社会の構築~」を開催しました(主催・環境省、国連大学サステイナビリティと平和研究所、国連生物多様性の10年日本委員会、地球環境パートナーシッププラザ他)。

(2)地方公共団体、企業、NGOなど多様な主体の参画と連携

 生物多様性基本法(平成20年法律第58号)において、都道府県及び市町村は生物多様性地域戦略の策定に努めることとされています。平成26年3月末現在、31都道県、44市町村等で策定されており、これ以外の多くの地方公共団体でも策定に向けた検討が進められています(表2-2-1)。

表2-2-1 生物多様性地域戦略策定済み都道府県

 生物多様性の保全や回復、持続可能な利用を進めるには、地域に根付いた現場での活動を、自ら実施し、また住民や関係団体の活動を支援する地方公共団体の役割は極めて重要なため、平成22年10月に「生物多様性自治体ネットワーク」が設立されました。平成26年3月末現在、135自治体が参画しています。

 また、愛知目標4「ビジネス界を含めたあらゆる関係者が、持続可能な生産・消費のための計画を実施する」を受け、平成24年度には事業者による生物多様性分野における取組について調査を実施し、生物多様性に配慮した材料調達や製品づくりなどの取組事例を収集しました。平成25年度はこれらの取組事例の評価結果及び事業者と地方公共団体の連携状況等を勘案し、事業者による取組を促進するための方策について検討しました。また、COP12に向けた生物多様性分野における民間参画に関する国際的議論・取組等に関する情報収集を行うとともに、それをもとに事業者を対象とした啓発用資料を作成しました。

 さらに、生物多様性の保全及び持続可能な利用等、生物多様性条約の実施に関する民間の参画を推進するため、経済界を中心とした自発的なプログラムとして設立された「生物多様性民間参画パートナーシップ」や「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」と連携・協力しました。「生物多様性民間参画パートナーシップ」には平成26年3月末現在504の企業・団体が参加しています。

 地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、平成22年度から「地域生物多様性保全活動支援事業」を開始し、平成25年度は全国31か所の取組を支援しました。また、平成20年度から開始した「生物多様性保全推進支援事業」については、全国23か所の取組を支援しました。

 地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(平成22年法律第72号。以下、「生物多様性地域連携促進法」という。)は、市町村やNPO、地域住民、企業など地域の多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進することで、地域の生物多様性を保全することを目的とした法律です。山口県宇部市は平成25年3月に、同法に基づく地域連携保全活動計画を全国の市町村に先駆けて作成しました。現在、8市町村が同計画を作成済みです。また、同法では、地方公共団体は地域連携保全活動支援センターの機能を確保するよう努めることとしており、平成26年5月現在で8自治体が支援センターを設置又はその機能を確保しています(図2-2-1表2-2-2)。同法に基づく地域の活動に対する国の支援として、平成25年度は5地域の活動に対してアドバイザーを派遣しました。

図2-2-1 地域連携保全活動支援センターの役割

表2-2-2 地域連携保全活動支援センター設置状況

 ナショナル・トラスト活動については、その一層の促進のため、引き続き税制優遇措置、普及啓発等を実施しました。

事業者による生物多様性分野における取組の現状

 事業者による事業活動は、生物多様性の保全と持続可能な利用と大きな関係があります。

 このため、平成21年に、幅広い事業者が生物多様性分野において取組を進めるために必要となる基本的な考え方や情報などを取りまとめた「生物多様性民間参画ガイドライン」を策定しましたが、その後の事業者における取組状況を把握するために、平成25年1月に「生物多様性分野における事業者による取組の実態調査」を実施しました(従業員数500人以上の事業者(農業、林業、漁業、鉱業・採石業・砂利採取業については50人以上)6,418社を対象。うち2,601社より回答(有効回答率40.5%))。

 その結果、「生物多様性民間参画ガイドラインを知っており、活用している」と回答した事業者の割合は12.1%、「愛知目標の内容を知っている」と回答した事業者の割合は24.8%といずれも低いレベルに留まりました。

生物多様性民間参画ガイドラインの認知

愛知目標の認知

 また、生物多様性の保全や持続可能な利用に向けた方針や目標を設定したり推進体制を構築したりするなど、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を実施しているか、実施する方向で検討していると回答した事業者の割合は57.2%でした。一方で、「平成23年度環境にやさしい企業行動調査」の結果によると、地球温暖化対策については7割以上の企業が「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく計画を作成しているか、作成を検討していると回答しており、生物多様性分野でも今後より一層の事業者の取組が期待されます。

生物多様性分野における取組の実施

地球温暖化対策の推進に関する法律への対応

 さらに、原材料調達、生産加工、販売などの事業活動の場面毎の取組状況をみると、特に販売段階においては、生物多様性に配慮した製品・サービスの供給を促進させる取組が十分には進んでいないことが明らかとなりました。消費者に最も近い販売の段階における取組は、生物多様性を主流化していく上で重要であり、販売段階での取組を進めるためには、消費者が生物多様性に配慮した商品やサービスを求めるようになることも必要と考えられます。

 「生物多様性と経済活動に関する情報提供」 http://www.biodic.go.jp/biodiversity/private_participation/trend/index.html(別ウィンドウ)

生物多様性に配慮した製品「竹紙」

 日本の美しい竹林。しかし、適切に管理されていない竹林は、隣接する森林に侵入し、里山の生態系に悪影響をもたらします。また、根の張りが浅いため、土壌を支えきれず土砂崩れの原因にもなっています。かつて間伐した竹は、竹垣や竹篭などに利用されていましたが、生活様式の変化などで需要が減り、日本中で放置竹林の問題が起こっています。

 竹林の多い鹿児島県薩摩川内市に工場を持つ中越パルプ工業株式会社は、平成10年から国産竹を紙の原料として活用する取組を始めました。タケノコの生産性を上げるために間伐された竹の有効活用に向けた地域貢献としての挑戦でした。

 成長の早い竹ですが、内部が空洞のため、伐採、運搬、チップ加工等において木材に比べて効率が悪く、それまで日本の製紙会社ではほとんど扱われていませんでした。しかし、同社は、タケノコ農家、チップ工場の協力を得ながら試行錯誤を重ね、効率的な竹の集荷体制を築きあげました。

竹伐採

 地道な取組を続けた結果、同社は平成21年に国産竹100%の紙の販売を開始し、現在、日本の竹100%を原料とした紙を大量生産製品として生産販売している唯一の総合製紙メーカーとなりました。

竹抄造

 国産竹の活用は、地域の竹林管理、竹の新たな経済価値の創出、隣接する里山の保全再生、生物多様性の保全に貢献しています。

(3)生物多様性の経済価値評価

 平成22年10月に最終報告書が公表された「生態系と生物多様性の経済学(TEEB)」では、生態系や生物多様性の価値をさまざまな主体の意思決定に反映させていくためには、その価値を経済的に評価し「見える化」していくことが有効な手段の一つであるという考え方が示されました。こうした考え方を踏まえ、我が国でも愛知目標の達成や、世界銀行が進める「生態系価値評価パートナーシップ(WAVES)」への貢献を視野に、生物多様性の経済価値評価に関する情報収集や政策研究を実施し、施策の検討を行いました。

 平成25年度は湿地(湿原及び干潟)が有する生態系サービスの経済価値評価を実施しました。その結果、日本全国の湿原が有する生態系サービスの価値は年間約8,391億円~9,711億円、干潟が有する生態系サービスの価値は年間約6,103億円と試算されました。ただし、試算された価値は湿地が本来有する価値のほんの一部でしかないことに注意が必要です。また、干潟を再生することに対する一世帯あたりの支払意思額を、アンケート調査に基づき推定したところ、中央値で2,916円/年、平均値で4,431円/年で、これに全国の世帯数をかけると約1,514億円/年又は約2,301億円/年という評価額が算出されました。

 このほか、ツシマヤマネコを保護増殖することに対する一世帯あたりの支払意思額を、アンケート調査に基づき推定したところ、中央値で1,015円/年、平均値で2,790円/年で、これに全国の世帯数をかけると約527億円又は約1,449億円という評価額が算出されました。

2 自然とのふれあい

(1)自然とのふれあい活動

 「みどりの月間」(4月15日~5月14日)、「自然に親しむ運動」(7月21日~8月20日)、「全国・自然歩道を歩こう月間」(10月)等を通じて、自然観察会等自然とふれあうための各種活動を実施しました。また、平成25年8月に「山陰海岸国立公園指定50周年記念フェスティバルin鳥取砂丘」を鳥取県鳥取市において開催しました。

 国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員の研修を実施し、利用者指導の充実を図ったほか、パークボランティアの養成や活動に対する支援を実施しました。

 「スノーケリングでサンゴ礁体験」など子供達に国立公園等の優れた自然地域を知ってもらい、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。

 国有林野においては、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林・林業への理解を深めるための「森林ふれあい推進事業」等を実施しました。また、学校等による体験・学習活動の場である「遊々の森」や、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」の設定・活用を推進しました。

 国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(2)エコツーリズム

 エコツーリズム推進法(平成19年法律第105号)に基づき、エコツーリズムに取り組む地域への支援、全体構想の認定・周知、技術的助言、情報の収集、普及啓発、広報活動等を総合的に実施しました。

 また、エコツーリズムによる地域活性化のための人材・プログラムづくりを実施しました。

 人材・プログラムづくりとして、28地域の自然観光資源を活用したエコツーリズムを推進するため、魅力あるプログラムの開発、ルールづくり、ネットワークの構築等を支援するとともに、地域におけるエコツーリズムガイドやコーディネーター等の人材育成事業等を実施しました。

 また、基盤づくりとしては、国立公園のエコツーリズムに意欲的な5地域において、エコツーリズムの基盤となる情報提供施設、自然資源の保全利用に係る施設を集中的に整備しました。

(3)自然とのふれあいの場の提供

ア 国立・国定公園などにおける取組

 国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を環境省の直轄事業とし、温室効果ガスの排出削減に資する施設やユニバーサルデザインを取り入れた施設による利用拠点整備、国立公園の魅力を一層引き出すための展望施設や自然解説施設の整備、関係省共同でシカ等による影響を受けた自然生態系を維持回復させるための施設整備等を重点的に進めました。国定公園及び長距離自然歩道については、36都道府県に自然環境整備交付金を交付し、その整備を支援しました。

 長距離自然歩道の計画総延長は約2万7,000kmに及んでおり、平成23年には約6,926万人が長距離自然歩道を利用しました。

イ 森林における取組

 保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備等を推進しました。さらに、森林総合利用施設等において、年齢や障害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の普及を図りました。国有林野においては、自然休養林等のレクリエーションの森において、民間活力をいかしつつ利用者のニーズに対応した森林及び施設の整備等を行いました。また、国有林野を活用した森林環境教育の一層の推進を図るため、農山漁村における体験活動とも連携し、フィールドの整備及び学習・体験プログラムの作成を実施しました。

(4)都市と農山漁村の交流

 全国の小学校において農山漁村での宿泊体験活動の実施を目指す「子ども農山漁村交流プロジェクト」を推進し、子供の豊かな心を育むとともに、自然の恩恵などを理解する機会の促進を図るため、新たに全国で4地域の受入モデル地域を指定しました。

 都市住民の農山漁村情報に接する機会の拡大、地域資源を活用した交流拠点の整備、都市と農村の多様な主体が参加した取組等を総合的に推進し、グリーン・ツーリズムの普及を進め、農山漁村地域の豊かな自然とのふれあい等を通じて自然環境に対する理解の増進を図りました。

(5)温泉の保護及び安全・適正利用

ア 温泉の保護及び安全・適正利用

 温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。平成24年度には、温泉掘削許可193件、増掘許可10件、動力装置許可182件、採取許可60件、濃度確認204件、浴用又は飲用許可1,574件が行われました。

 温泉法の適正な施行を図るため、温泉の保護対策や温泉成分の分析方法等に関する調査・検討を実施しました。

イ 国民保養温泉地

 国民保養温泉地は、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき指定された地域であり、平成26年3月末現在、91か所が指定されています。