水質汚濁に係る環境基準のうち、健康項目については、現在、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬など、公共用水域において27項目、地下水において28項目が設定されています。平成22年度にはカドミウムの基準値見直しに係る検討を行いました。さらに、要監視項目(現在公共用水域:26項目、地下水:24項目)等、環境基準項目以外の項目の水質測定や知見の集積を行いました。
生活環境項目については、BOD、COD、溶存酸素量(DO)、全窒素、全りん、全亜鉛等の基準が定められており、利水目的から水域ごとに環境基準の類型指定を行っています。また、水質の評価に加えて、地域の特性に応じ良好な水環境を実感できる指標として取りまとめた「水辺のすこやかさ指標(みずしるべ)」の普及について検討を行いました。さらに、海域・湖沼の底層DO等の環境基準設定に向けた長期間連続測定を実施しました。
生活環境項目のうち、水生生物の保全に係る水質環境基準については、平成22年度には国が類型指定する水域のうち、阿武隈川、那珂川等10水域について類型指定を行うとともに、伊勢湾については類型指定に係る検討を、東京湾については類型指定の見直しに係る検討を行いました。また、亜鉛に続く基準項目の追加について検討を開始しました。
水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号。以下「水濁法」という。)に基づき、国及び地方公共団体は水質環境基準項目について、公共用水域及び地下水の水質の常時監視を行っています。また、クロロホルムをはじめとする要監視項目についても、都道府県等の地域の実情に応じ、公共用水域等において水質測定が行われています。
また、要調査項目については、アセトン、4-t-オクチルフェノール及びノニルフェノール、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリブロモジフェニルエーテルの分析法を検討し、要調査項目等調査マニュアル(平成22年10月)として取りまとめました。
公共用水域の水質保全を図るため、水濁法により特定事業場から公共用水域に排出される水については、全国一律の排水基準が設定されていますが、環境基準の達成のため、都道府県条例においてより厳しい上乗せ基準の設定が可能であり、すべての都道府県において上乗せ排水基準が設定されています。
また、平成13年に有害物質として排水基準が設定されたほう素・ふっ素・硝酸性窒素等について、一律排水基準を直ちに達成させることが困難であることから、これまで21業種について暫定排水基準が適用されていましたが、平成22年7月に見直しを行い、6業種については一律排水基準へ移行、残る15業種については暫定排水基準値を強化して延長又は現行の暫定排水基準値のまま延長することとしました。
さらに、平成21年11月に水質環境基準の追加・見直しが行われたことを踏まえ、同年11月に中央環境審議会に諮問を行い、平成23年2月に塩化ビニルモノマー、1,2‐ジクロロエチレン、1,1‐ジクロロエチレンの排水規制等について答申がなされました。
湖沼については、富栄養化対策として、水濁法に基づき、窒素及びりんに係る排水規制を実施しており、窒素規制対象湖沼は320、りん規制対象湖沼は1,393です。また、湖沼の窒素及びりんに係る環境基準については、琵琶湖等合計115水域について類型指定が行われています。
また、水濁法の規制のみでは水質保全が十分でない湖沼については、湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)によって、環境基準の確保の緊要な湖沼を指定して、湖沼水質保全計画を策定し(図2-4-1、図2-4-2)、下水道整備、河川浄化等の水質の保全に資する事業、各種汚濁源に対する規制等の措置等を推進しています。また、琵琶湖等の湖沼の汚濁機構解明や窒素・りん比率変動と植物プランクトンとの関係把握のための調査を実施しました。
ア 富栄養化対策
閉鎖性が高く富栄養化のおそれのある海域に適用される窒素及びりんに係る排水基準については、現在、88の海域とこれに流入する公共用水域に排水する特定事業場に適用されています。また、海域における全窒素及び全りんの環境基準については、上記の閉鎖性海域を対象に環境基準類型を当てはめる作業が国・都道府県で行われており、54海域が指定されています。
また、平成17年の下水道法(昭和33年法律第79号)一部改正を受け、閉鎖性水域に係る流域別下水道整備総合計画に下水道終末処理場からの放流水に含まれる窒素・りんの削減目標量及び削減方法を定める見直しを進めるとともに、これらに基づく下水道の整備を推進しました。
イ 水質総量削減
広域的な閉鎖性海域のうち、人口、産業等が集中し排水の濃度規制のみでは環境基準を達成維持することが困難な海域である東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海を対象に、COD、窒素含有量及びりん含有量を対象(指定項目)として、水質総量削減を実施しています。具体的には、指定地域にある一定規模以上の工場・事業場から排出される汚濁負荷量について、環境大臣が定める範囲をもとに都府県知事が定める総量規制基準の遵守指導による産業排水対策を行うとともに、地域の実情に応じ、下水道、浄化槽、農業集落排水施設、コミュニティ・プラントなどの整備等による生活排水対策、合流式下水道の改善その他の対策を引き続き推進しました。
その結果、これらの閉鎖性海域の水質は改善傾向にありますが、COD、全窒素・全りんの環境基準達成率は十分な状況になく(ただし、大阪湾を除く瀬戸内海における全窒素・全りんの環境基準はおおむね達成。)、富栄養化に伴う問題が依然として発生しています(図2-4-3)。
そこで、平成22年3月の中央環境審議会答申「第7次水質総量削減の在り方について」を踏まえ、閉鎖性海域における水環境の一層の改善を推進するために、第7次における総量規制基準の設定方法に係る告示を公布するなど、第7次水質総量削減の実施に向けた検討・取組を行いました。
ウ 瀬戸内海の環境保全
瀬戸内海においては、瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)及び瀬戸内海環境保全基本計画等により、総合的な施策が進められてきています。瀬戸内海沿岸の関係11府県は、自然海浜を保全するため、自然海浜保全地区条例等を制定しており、平成21年12月末までに91地区の自然海浜保全地区を指定しています。また、瀬戸内海における埋立て等については、海域環境、自然環境及び水産資源保全上の見地等から特別な配慮がされることとしており、同法施行以降21年11月1日までの間に埋立ての免許又は承認がなされた公有水面は、約4,867件、約13,055.1ha(うち20 年11月2日以降の1年間に26 件、14.9ha)になります。加えて、今後の瀬戸内海の水環境保全の総合的な推進に必要な助言を得るため「今後の瀬戸内海の水環境の在り方懇談会」を開催し、有識者からのヒアリング等を行い、論点を取りまとめました。
エ 有明海及び八代海の環境の保全及び改善
有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律(平成14年法律第120号)に基づき環境省に設置された「有明海・八代海総合調査評価委員会」からの提言(平成18年12月)を踏まえ、有明海において、貧酸素水塊発生や底質環境、魚類等の生態系回復に関する調査等を実施しました。
オ 里海の創生の推進
多様な魚介類等が生息し、人々がその恩恵を将来にわたり享受できる自然の恵み豊かな豊穣の里海の創生に向け、先進的な取組を実施している海域を支援するとともに、里海の創生に向けた取組を支援するための手引書を作成しました。また、里海の概念の普及のため、10月の生物多様性条約締約国会議(COP10)において里海サイドイベントを、12月に国際里海ワークショップをそれぞれ開催しました。
カ 海域の栄養塩管理
生物多様性に富み、豊かで健全な海域の構築に向け、海域の状況に応じた陸域・海域が一体となった栄養塩類の円滑な循環を達成するための効率的かつ効果的な管理方策を明らかにするため、モデル地域における栄養塩循環状況と円滑な栄養塩循環が滞る要因解明のための調査を実施しました。
生活排水対策については処理施設の整備がいまだ十分でないため(図2-4-4)、地域の実状に応じ、浄化槽、下水道、農業等集落排水施設、コミュニティ・プラント(地域し尿処理施設)など各種汚水処理施設の整備を推進しました。その際、人口減少等の社会情勢の変化を踏まえ、都道府県ごとの汚水処理施設の整備等に関する「都道府県構想」の見直しを推進し、汚水処理施設の整備の効率化を図りました。
浄化槽の整備促進のため、省エネ型の浄化槽の設置や単独処理浄化槽の転換などを促進する市町村の浄化槽整備事業等に対する助成事業(浄化槽整備区域促進特別モデル事業)に対して国の助成率を2分の1に引き上げるなど、浄化槽整備事業に対する支援の一層の充実を図りました。また、個人の設置に対する補助を行う市町村や、市町村自らの整備に対する国庫補助制度により、平成21年度においては、全国約1,700の市町村のうち約1,300の市町村で整備が図られました。また、既存の単独処理浄化槽の合併処理浄化槽への転換については、単独処理浄化槽の撤去に対する交付金の補助要件を緩和することにより推進しました。
下水道整備については、「社会資本整備重点計画」に基づき、人口が集中している地区等の整備効果の高い区域において重点的下水道整備を行うとともに、閉鎖性水域における水質保全のための高度処理を積極的に導入しました。
合流式下水道については、平成16年から原則10年以内での改善が義務化されたことを受け、「合流式下水道緊急改善事業」等を活用し、緊急的・総合的に合流式下水道の改善を推進しました。さらに、流域全体で効率的に高度処理を実施することができる高度処理共同負担事業を推進し、各地の検討を支援しました。
また、下水道の未普及対策や改築対策として、「下水道クイックプロジェクト」を実施し、従来の技術基準にとらわれず地域の実状に応じた低コスト、早期かつ機動的な整備及び改築が可能な新たな手法の積極的導入を推進しており、施工が完了した地域では大幅なコスト縮減や工期短縮などの効果を実現しました。
農業振興地域においては、農業集落におけるし尿、生活雑排水等を処理する農業集落排水施設の整備を348地区で実施するとともに、高度処理技術の一層の開発・普及を推進し、遠方監視システムの活用による高度処理の普及促進を支援しました。
また、緊急に被害防止対策を必要とする地区については、用排水路の分離、水源転換等を行う水質障害対策に関する事業を実施しました。さらに、漁業集落から排出される汚水等を処理し、漁港及び周辺水域の浄化を図るため、漁業集落排水施設整備を推進しました。
水濁法では生活排水対策の計画的推進等が規定されており、同法に基づき都道府県知事が重点地域の指定を行っています。平成23年3月末現在、42都府県、211地域、336市町村が指定されており、生活排水対策推進計画による生活排水対策が推進されました。
水濁法に基づいて、地下水の水質の常時監視、有害物質の地下浸透禁止、事故時の措置、汚染された地下水の浄化等の措置が取られています(図2-4-5)。しかしながら、近年においても、工場・事業場が原因と推定される有害物質による地下水汚染事例が毎年継続的に確認されています。このような状況を踏まえ、平成22年8月、中央環境審議会に対し「地下水汚染の効果的な未然防止対策の在り方について」を諮問し、水環境部会地下水汚染未然防止小委員会における審議を経て、平成23年2月に同審議会から、有害物質を取り扱う施設設置場所等の構造に関する措置等を内容とした答申がなされました。この答申を受け、同年3月に「水質汚濁防止法の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出しました。
また、地下水の水質調査により井戸水の汚染が発見された場合、井戸所有者に対して飲用指導を行うとともに、周辺の汚染状況調査を実施し、汚染源が特定されたときは、指導等により、適切な地下水浄化対策等が行われます。
さらに、環境基準超過率が最も高い硝酸性窒素による地下水汚染対策については、硝酸性窒素による地下水汚染が見られる地域において効果的な汚染防止対策を促進するための方策を検討しました。
関係機関の協力の下、一般市民の参加を得て全国水生生物調査(水生生物による水質調査)を実施しました。平成21年度は、70,623人の参加を得るとともに、調査のさらなる充実に向けて水質評価の手法等について検討を行いました。
また、平成20年6月7日を中心に、全国のおよそ5,700地点で約1,000の市民団体と協働して、身近な水環境の一斉調査を実施し、その結果を分かりやすく表示したマップを作成しました。
さらに、河川水質を総合的に分かりやすく評価する新しい指標(人と河川の豊かなふれあいの確保、豊かな生態系の確保、利用しやすい水質の確保、下流域や滞留水域に影響の少ない水質の確保、の4つの視点)に基づき、全国で一般市民の参加を得て調査を実施しました。
また、子どもたちのホタルなどの水辺の生きものに関連した水環境保全活動(「こどもホタレンジャー」)を募集し、平成22年度は、長野県の坂城町立村上小学校、静岡県の今川ホタルを守る会等の活動に対して環境大臣表彰を行いました。
平成22年6月には、「名水百選」の一つである清水川がある佐賀県小城市において『名水サミットin小城』を開催し、水環境の保全の推進と水質保全意識の高揚を図りました。
流域別下水道整備総合計画等の水質保全に資する計画の策定の推進に加え、下水道法施行令等の規定や、下水処理水の再利用の際の水質基準等マニュアルに基づき、適切な下水処理水等の有効利用を進めるとともに、雨水の貯留浸透や再利用を推進しました。
水環境の保全を図るため、環境省では、水問題の現状や課題を把握し、環境省として取り組むべきことを平成22年7月に水環境タスクフォース報告書として取りまとめるとともに、今後の水環境保全のあり方について検討を行い、平成23年3月に最終報告書が取りまとめられました。
「健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」では、健全な水循環系の構築のため、継続的に情報交換及び施策相互の連携・協力の推進を図りました。
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