第4節 地球規模の視野を持って行動する取組

1 国際的取組

(1)生物多様性条約

 2010年(平成22年)10月に愛知県名古屋市で開催されるCOP10を成功に導くため、引き続き、関係副大臣等会議や関係省庁連絡会議等を活用しながら関係省庁の緊密な連携を図るとともに、NGOや市民社会の幅広い参画を図っていくために、「生物多様性条約第10回締約国会議及びカルタヘナ議定書第5回締約国会議に関する情報共有のための円卓会議」の開催や全国各地における対話の場の設置などにより、多様な主体の情報交換や連携・協働を促進するなど、ホスト国として万全の準備を進めていきます。

 「ポスト2010年目標」や「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」、カルタヘナ議定書第5回締約国会議(COP-MOP5)における「責任と救済」をはじめとしたさまざまな議題について、COP10でよりよい成果が得られるよう、議長国としてCOP10に向けた国際的な議論にリーダーシップを発揮していきます。「SATOYAMAイニシアティブ」については、COP10を契機とした国際パートナーシップの構築に向け、各国の社会経済情勢や自然資源の質に即した自然資源管理となるよう、準備会合等を通じた合意形成に努めていきます。

 わが国は2012年(平成24年)に予定されるCOP11までの期間、COPの議長国を務めることになることから、議長国としての国際的なリーダーシップを継続して発揮し、生物多様性の保全と持続可能な利用に関するさまざまな日本の先進的な取組を国内外に発信しつつ、「ポスト2010年目標」の達成のために国際的な取組を主導していきます。

(2)カルタヘナ議定書

 カルタヘナ法の適切な施行や締約国会議などの参加の機会を通じ、議定書が効果的に実施されるよう協力します。2010 年(平成22年)には、わが国で第5回締約国会議(COP-MOP5)が開催されることから、開催国として国際的なリーダーシップを発揮し、会議の成功に貢献します。

(3)ワシントン条約

 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)締約国間の適切な条約の運用に向けた取組を推進するとともに、関係省庁、関連機関が連携・協力して、違法行為の防止、摘発に努めます。

(4)ラムサール条約

 特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(ラムサール条約)締約国会議の決議などに則し、条約湿地に関するモニタリング調査や普及啓発などを関係する地方公共団体やNGOなどと連携しつつ実施し、総合的な湿地の保全と賢明な利用を図っていきます。また、2012年(平成24年)に予定されている第11回締約国会議に向けて、ラムサール条約湿地候補の追加に向けた検討を行い、国際的に重要な湿地については、引き続きラムサール条約湿地への登録を進めます。

 アジア地域の重要な湿地の保全のため、引き続きアジア諸国の湿地登録の促進に努めるとともに、湿地システムとしての水田の生物多様性の向上を訴えていきます。

(5)二国間渡り鳥条約・協定

 アメリカ、オーストラリア、中国、ロシア及び韓国との二国間の渡り鳥条約等に基づき、各国との間で渡り鳥等の保護のため、アホウドリ、オオワシ、ズグロカモメなどの希少種をはじめとする種について共同調査を引き続き推進するとともに、わが国でオーストラリア、中国及び韓国との二国間会合を開催し、情報や意見の交換を行います。

(6)東アジア・オーストラリア地域フライウェイ・パートナーシップ等

 平成18年11月に発足した「東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ」に基づき、同地域における渡り性水鳥とその生息地の保全のため、ネットワーク参加地における普及啓発、調査研究、研修、情報交換などの活動を推進するとともに、ネットワークの拡充を進めます。また、中国、韓国との間で、黄海とわが国の間をわたり、特に保全の必要性の高い種について情報共有などを進めます。

(7)国際サンゴ礁イニシアティブ

 平成22年6月に、タイ(プーケット)で「第6回ICRI東アジア地域会合」を開催し、東アジアを中心とした海域における重要サンゴ礁ネットワーク戦略を策定します。

(8)世界遺産条約

 屋久島、白神山地及び知床は、世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)に基づき、世界遺産一覧表に記載されています。これらの世界自然遺産について、地元の意見と科学的な知見を管理に反映させるための管理体制と保全施策の充実を図ります。また、関係省庁・地方公共団体・地元関係者・専門家の連携により、引き続き適正な保全・管理を推進します。

 国内の世界自然遺産候補地である小笠原諸島と琉球諸島については、推薦・登録に向けた取組を進めていきます。特に、世界遺産暫定一覧表に記載されている小笠原諸島については、推薦書の提出を受けて実施される国際自然保護連合による登録評価のための現地調査を受け入れるとともに、関係省庁・地方公共団体等と連携し、外来種対策や希少種の保全を一層推進します。また、琉球諸島については、世界的にすぐれた自然環境の価値を保全するため必要な方策を検討します。

2 情報整備・技術開発

(1)生物多様性の総合評価

 わが国の生物多様性の総合評価の結果を分かりやすく取りまとめ、平成22年5月に公表します。また、その結果や方法をCOP10で発表するとともに、各国での総合評価の実施に向け、特にアジア・太平洋地域において技術的な支援等を行います。さらに、生物多様性の保全上重要な地域(ホットスポット)の選定に向けた検討を進めます。

(2)自然環境調査

 自然環境保全基礎調査の一環として、「植生調査」、「特定哺乳類生息状況調査」等、わが国の生物多様性に関する情報の収集整備を行います。「植生調査」では、縮尺2万5千分の1植生図の整備を進めるほか、効率的な植生図の作成に関する技術的な検討を行います。「特定哺乳類生息状況調査」では、農林業や生態系に大きな影響を及ぼしているシカやクマ等を対象として、全国的な推定個体数及び個体群動向を把握し、取りまとめを行います。

 全国の生態系の状況を把握するため、モニタリングサイト1000として、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(砂浜、磯、干潟、アマモ場、藻場及びサンゴ礁)、小島嶼の各生態系タイプに設置した合計約1000か所の調査サイトにおいて、生態系タイプ毎に定めた調査項目及び調査手法により、引き続きモニタリング調査を実施します。さらに、地球温暖化の影響を受けやすい高山帯においては、試行調査の結果を踏まえた本格的な調査を開始します。

 市民参加による身近な生き物の情報を収集する「いきものみっけ」事業を引き続き実施します。収集した情報を集計し、結果を分かりやすく情報発信することで、地球温暖化が身近な地域の出来事であり、生物多様性に影響を及ぼす要因となっていることに対する理解を深めます。

(3)地球規模生物多様性モニタリングなど

 アジア太平洋地域の生物多様性モニタリング体制の推進を目的として、地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、当該地域の研究者間のネットワークの構築支援を行います。また、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上に貢献するための東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブにおいて、当該地域の絶滅危惧種や渡り鳥等の情報を整備するとともに、分類学の能力向上のための研修を行います。

 生物多様性に関する科学及び政策の連携の強化を目的とした「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」については、引き続き創設に向けた国際的な議論に積極的に参画していきます。

(4)研究・技術開発など

 「生態系と生物多様性の経済学TEEB)」については、COP10での最終報告に向けた支援を引き続き実施します。

 「生物多様性関連技術開発等推進事業」により、生物多様性の保全・再生や持続可能な利用に関する政策課題に直結した技術開発や応用的な調査研究を、引き続き実施します。

 独立行政法人国立科学博物館において、「アジア・オセアニア地域の自然史に関するインベントリー構築」、「生物多様性ホットスポットの特定と形成に関する研究」などの調査研究を推進するとともに、約380万点の登録標本を保管し、これらの情報を引き続きインターネットで広く公開します。また、GBIF(地球規模生物多様性情報機構)の日本ノードとして、国内の自然史系博物館と協働で、引き続き標本資料情報を国際的に発信します。さらに、「かはく生物多様性シリーズ2010」として様々な展示や講座、体験教室などを種の多様性、生態系の多様性、遺伝的多様性の観点から体系的に実施します。



前ページ 目次 次ページ