第4節 水環境の保全対策

1 環境基準の設定等

 水質汚濁に係る環境基準のうち、健康項目については、平成21年11月30日に、公共用水域において1項目(1,4-ジオキサン)、地下水において3項目(1,2-ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマー、1,4-ジオキサン)追加し、1,1-ジクロロエチレンについては基準値を見直しました。現在、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬など、公共用水域において27項目、地下水において28項目が設定されています。さらに、要監視項目(現在公共用水域:26項目、地下水:24項目)等、環境基準項目以外の項目の水質測定や知見の集積を行いました。

 生活環境項目については、BODCOD、溶存酸素量(DO)、全窒素、全りん、全亜鉛等の基準が定められており、利水目的から水域ごとに環境基準の類型指定を行っています。また、生活環境項目の設定から37年以上が経過していること等を踏まえ、今後のあり方に関して基礎的な調査を進めたほか、水環境を総合的にとらえ、水環境の健全性を示す指標について調査を行い、水辺のすこやかさ指標(みずしるべ)として取りまとめました。

 生活環境項目のうち、水生生物の保全に係る水質環境基準については、国が類型指定する水域のうち、木曽川、淀川水系等11水域及び阿武隈川について類型指定を行うとともに、那珂川水域等10水域については類型指定に係る検討を行いました。

2 水利用の各段階における負荷の低減

(1)汚濁負荷の発生形態に応じた負荷の低減

 ア 特定汚染源対策

 (ア)排水規制の実施と上乗せ排水基準の設定

 公共用水域の水質保全を図るため、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号。以下「水濁法」という。)により特定事業場から公共用水域に排出される水については、全国一律の排水基準が設定されていますが、環境基準の達成のため、都道府県条例においてより厳しい上乗せ基準の設定が可能であり、すべての都道府県において上乗せ排水基準が設定されています。

 また、平成13年に健康項目として排水基準が設定されたほう素・ふっ素・硝酸性窒素等について、一律排水基準を直ちに達成させることが技術的に困難であることから、現在21業種に暫定排水基準が適用されています。各業界による自主的取組の指導及び必要な技術的検討等が実施されており、それらも踏まえつつ、平成22年6月に行う暫定排出基準の見直しに向けた検討を進めました。

 さらに、平成21年11月に水質環境基準の追加・見直しが行われたことを踏まえ、1,4-ジオキサン等の排水規制等の設定について検討に着手しました。

 (イ)汚水処理施設の整備

 生活排水対策については処理施設の整備がいまだ十分でないため(図2-4-1)、地域の実状に応じ、浄化槽、下水道、農業等集落排水施設、コミュニティ・プラント(地域し尿処理施設)など各種汚水処理施設の整備を推進しました。その際、人口減少等の社会情勢の変化を踏まえ、都道府県ごとの汚水処理施設の整備等に関する「都道府県構想」の見直しを推進し、汚水処理施設の整備の効率化を図りました。


図2-4-1 汚水処理人口普及率の推移

 浄化槽の整備促進のため、省エネ型の浄化槽の設置や単独処理浄化槽の転換などを促進する市町村の浄化槽整備事業等に対する助成事業(浄化槽整備区域促進特別モデル事業)に対して国の助成率を2分の1に引き上げるなど、浄化槽整備事業に対する支援の一層の充実を図りました。また、個人の設置に対する補助を行う市町村や、市町村自らの整備に対する国庫補助制度により、平成20年度においては、全国約1,800の市町村のうち約1,300の市町村で整備が図られました。また、既存の単独処理浄化槽の合併処理浄化槽への転換については、単独処理浄化槽の撤去を交付金の対象とすることにより推進しました。

 下水道整備については、「社会資本整備重点計画」に基づき、普及が遅れている中小市町村等の人口が集中している地区等の整備効果の高い区域における下水道整備、閉鎖性水域における水質保全のための高度処理の積極的導入等を重点的に実施しました。

 合流式下水道については、平成16年から原則10年以内での改善が義務化されたことを受け、「合流式下水道緊急改善事業」等を活用し、緊急的・総合的に合流式下水道の改善を推進しました。さらに、流域全体で効率的に高度処理を実施することができる高度処理共同負担事業を推進し、各地の検討を支援しました。

 また、下水道の未普及対策として、「下水道未普及解消クイックプロジェクト社会実験」を実施し、従来の技術基準にとらわれず地域の実状に応じた低コスト、早期かつ機動的な整備が可能な新たな整備手法の積極的導入を推進しており、施工が完了した地域では大幅なコスト縮減や工期短縮などの効果を実現しました。さらに、平成21年度においては、社会情勢の変化を踏まえ下水道計画の見直しをした上で、人口の集中している地区を対象に汚水に係る管きょの補助対象範囲を拡充する制度として「下水道未普及解消重点支援制度」を創設する等、早急な未普及解消を図り、水環境の保全を推進しました。

 農業振興地域においては、農業集落におけるし尿、生活雑排水等を処理する農業集落排水施設の整備を348地区で実施するとともに、高度処理技術の一層の開発・普及を推進し、遠方監視システムの活用による高度処理の普及促進を支援しました。

 また、緊急に被害防止対策を必要とする地区については、用排水路の分離、水源転換等を行う水質障害対策に関する事業を実施しました。さらに、漁業集落から排出される汚水等を処理し、漁港及び周辺水域の浄化を図るため、漁業集落排水施設整備を推進しました。

 水濁法では生活排水対策の計画的推進等が規定されており、同法に基づき都道府県知事が重点地域の指定を行っています。平成22年3月末現在、42都府県、211地域、337市町村が指定されており、生活排水対策推進計画による生活排水対策が推進されました。

 イ 非特定汚染源対策

 降雨等により流出するいわゆる非特定汚染源も、水質汚濁の大きな要因の一つになっています。雨天時に宅地や道路等の市街地から公共用水域に流入する汚濁負荷を削減するため、下水道事業における対策を推進しました。

(2)水環境の安全性の確保

 ア 地下水汚染対策

 水濁法に基づいて、地下水の水質の常時監視、有害物質の地下浸透禁止、事故時の措置、汚染された地下水の浄化等の措置が取られています(図2-4-2)。また、地下水の水質調査により井戸水の汚染が発見された場合、井戸所有者に対して飲用指導を行うとともに、周辺の汚染状況調査を実施し、汚染源が特定されたときは、指導等により、適切な地下水浄化対策等が行われます。


図2-4-2 水質汚濁防止法の地下水の規制等の概要

 環境基準超過率が最も高い硝酸性窒素による地下水汚染対策については、硝酸性窒素による地下水汚染が見られる地域において効果的な汚染防止対策を促進するための方策を検討しました。

 また、汚染の未然防止にむけた地下水保全施策のあり方について検討を行いました。

 イ 農薬環境汚染対策

 農薬については、水質汚濁の未然防止を図る観点から、農薬取締法(昭和23年法律第82号)に基づき水質汚濁に係る農薬登録保留基準を定めており、平成21年度に27農薬の基準値を設定しました。また、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準について、平成21年度に45農薬の基準値を設定しました。

3 閉鎖性水域における水環境の保全

(1)湖沼

 湖沼については、富栄養化対策として、水濁法に基づき、窒素及びりんに係る排水規制を実施しており、窒素規制対象湖沼は277、りん規制対象湖沼は1,329です。また、湖沼の窒素及びりんに係る環境基準については、琵琶湖等合計112水域(106湖沼)について類型指定が行われています。

 また、水濁法の規制のみでは水質保全が十分でない湖沼については、湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)によって、環境基準の確保の緊要な湖沼を指定して、湖沼水質保全計画を策定し(図2-4-3図2-4-4)、下水道整備、河川浄化等の水質の保全に資する事業、各種汚濁源に対する規制等の措置等を推進しています。また、琵琶湖等の湖沼の汚濁機構解明や窒素・りん比率変動と植物プランクトンとの関係把握のための調査を実施しました。


図2-4-3 湖沼水質保全特別措置法に基づく11指定湖沼位置図


図2-4-4 湖沼水質保全計画策定状況一覧(平成22年3月現在)

(2)閉鎖性海域

 ア 富栄養化対策

 閉鎖性が高く富栄養化のおそれのある海域に適用される窒素及びりんに係る排水基準については、現在、88の海域とこれに流入する公共用水域に排水する特定事業場に適用されています。また、海域における全窒素及び全りんの環境基準については、上記の閉鎖性海域を対象に環境基準類型を当てはめる作業が国・都道府県で行われており、54海域が指定されています。

 また、平成17年の下水道法(昭和33年法律第79号)一部改正を受け、閉鎖性水域に係る流域別下水道整備総合計画に下水道終末処理場からの放流水に含まれる窒素・りんの削減目標量及び削減方法を定める見直しを進めるとともに、これらに基づく下水道の整備を推進しました。

 イ 水質総量削減対策

 広域的な閉鎖性海域のうち、人口、産業等が集中し排水の濃度規制のみでは環境基準を達成維持することが困難な広域的な閉鎖性海域である東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海を対象に、COD、窒素含有量及びりん含有量を削減対象の指定項目として、水質総量削減を実施しています。具体的には、地域の実情に応じ、下水道、浄化槽、農業集落排水施設、コミュニティ・プラントなどの整備等による生活排水対策、工場等の総量規制基準の遵守指導による産業排水対策、合流式下水道の改善等によるその他の汚濁発生源に対する諸対策を引き続き推進しました。

 その結果、これらの閉鎖性海域の水質は改善傾向にありますが、COD、全窒素・全りんの環境基準達成率は十分な状況になく(ただし、大阪湾を除く瀬戸内海における全窒素・全りんの環境基準はおおむね達成)、富栄養化に伴う問題が依然として発生しています(図2-4-5)。


図2-4-5 三海域の環境基準達成率の推移(全窒素・全りん)

そこで、閉鎖性海域における水環境の一層の改善を推進するために、第7次水質総量削減のあり方について検討を行いました。

 また、今後の閉鎖性海域が目指すべき水環境の目標とその達成に向けたロードマップからなる閉鎖性海域中長期ビジョンを策定しました。

 ウ 瀬戸内海の環境保全

 瀬戸内海においては、瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)及び瀬戸内海環境保全基本計画等により、総合的な施策が進められてきています。瀬戸内海沿岸の関係11府県は、自然海浜を保全するため、自然海浜保全地区条例等を制定しており、平成20年12月末までに91地区の自然海浜保全地区を指定しています。また、瀬戸内海における埋立て等については、海域環境、自然環境及び水産資源保全上の見地等から特別な配慮がされることとしており、同法施行以降20年11月1日までの間に埋立ての免許又は承認がなされた公有水面は、約4,841件、約13,040ha(うち19年11月2日以降の1年間に28件、94.4ha)になります。

 エ 有明海及び八代海の環境の保全及び改善

 有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律(平成14年法律第120号)に基づき環境省に設置された「有明海・八代海総合調査評価委員会」からの提言(平成18年12月)を踏まえ、貧酸素水塊や底質環境に関する調査、環境変化による魚介類への環境影響に関する調査等を充実させるとともに、調査機関間の連携・協力の促進に係る取組を実施しました。

 オ 里海の創生の推進

 多様な魚介類等が生息し、人々がその恩恵を将来にわたり享受できる自然の恵み豊かな豊穣の里海の創生に向け、先進的な取組を実施している海域を支援するとともに、里海の創生に向けた取組を支援するためのマニュアル作成に向けた検討を行いました。

(3)大都市圏の「海の再生」

 都市再生プロジェクト(第3次決定)「海の再生」の実現に向けて、東京湾、大阪湾、伊勢湾及び広島湾それぞれの再生行動計画に基づき、関係機関の連携の下、陸域からの汚濁負荷の削減、海域における環境改善、環境モニタリング等の各種施策を推進しました。さらに、東京湾においては、各種施策の推進のほかに、東京湾再生行動計画の第2回中間評価とフォローアップを行いました。

4 環境保全上健全な水循環の確保

(1)水環境に親しむ基盤づくり

 関係機関の協力の下、一般市民の参加を得て全国水生生物調査(水生生物による水質調査)を実施しました。平成20年度の参加者は、75,938人となりました。

 また、平成20年6月7日を中心に、全国のおよそ5,700地点で約1000の市民団体と協働して、身近な水環境の一斉調査を実施し、その結果を分かりやすく表示したマップを作成しました。

 さらに、河川水質を総合的に分かりやすく評価する新しい指標(人と河川の豊かなふれあいの確保、豊かな生態系の確保、利用しやすい水質の確保、下流域や滞留水域に影響の少ない水質の確保、の4つの視点)に基づき、全国で一般市民の参加を得て調査を実施しました。

 また、子どもたちのホタルに関連した水環境保全活動(「こどもホタレンジャー」)を募集し、平成21年度は、長野県の長野市立東条(とうじょう)小学校、和歌山県の広川町立津木(つぎ)中学校の活動に対して環境大臣表彰を行いました。

 平成21年10月には、「昭和の名水百選」の一つである天川の水がある島根県隠岐郡海士町において『名水サミットin海士』を開催し、水環境の保全の推進と水質保全意識の高揚を図りました。

 また、下水道施設や雨水・下水処理水等を活用したせせらぎ水路等の整備を推進しました。

(2)環境保全上健全な水循環の確保

 流域別下水道整備総合計画等の水質保全に資する計画の策定の推進に加え、下水道法施行令等の規定や、下水処理水の再利用の際の水質基準等マニュアルに基づき、適切な下水処理水等の有効利用を進めるとともに、雨水の貯留浸透や再利用を推進しました。

 また、健全な水循環系の構築に向けた計画づくりのための調査を実施しました。

 「健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議」では、健全な水循環系の構築のため、継続的に情報交換及び施策相互の連携・協力の推進を図りました。

5 水環境の効率的・効果的な監視等の推進

 水濁法に基づき、国及び地方公共団体は公共用水域及び地下水の水質の常時監視を行っています。平成17年度から、地方公共団体の常時監視に対する助成が廃止されたこと等を踏まえ、水質常時監視の的確化・効率化に資する具体的な評価手法や基準のあり方について検討を行いました。

 排水の監視については、水濁法に基づき、工場・事業場が自ら測定するとともに、都道府県知事及び政令市長は、工場・事業場の排水基準の遵守状況を監視するため、必要に応じ工場・事業場に報告を求め又は立入検査を行っています。これらの監視行為に基づき、都道府県知事及び政令市長は、改善命令等の必要な行政措置を工場・事業場に行っています。平成20年度の立入検査の件数は全国で43,509でした。

 クロロホルムをはじめとする要監視項目については、都道府県等において地域の実情に応じ、公共用水域等の水質測定が行われています。



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