第4節 地球のいのちの行方を決める生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)

 人類の生存基盤を健全に保つためには、地球温暖化対策だけではなく、生物多様性の保全と持続可能な利用が欠かせません。このため、達成に失敗した2010年目標の経験を踏まえ、2010年以降の新たな目標の設定に向け、国際社会は大きく動き出しています。議長国として、COP10を成功させ、生態系サービスを持続的に利用していくための取組を推進していきます。

1 大きな転換期を迎えた国際社会

 COP9の閣僚級会合において発表された「生態系と生物多様性の経済学TEEB)」の前書きでは、人間の社会では、人的資本、社会的資本、自然的資本といったいくつかの概念で価値をとらえようとしており、これらの資本が有する価値が何であるかを長年追求しているとしています。人的資本は、労働に対する対価の支払いで価値付けされ、社会的資本は、提供されるサービスへの支払いによって価値付けされている一方、自然的資本については、生態系サービスのごく一部は価格が付けられて売買されていますが、大半の生態系サービスは、無償で利用され、価値付けは行われてきませんでした。この価値付けの欠如が生物多様性の損失と生態系の劣化の根本的な原因の一つと考えられます。この原因を取り除いていくことが生態系サービスを持続的に利用するうえで必要としています。

 生物多様性条約は、1992年(平成4年)にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議地球サミット)で気候変動枠組条約とともに署名が開始されました。そのため、この2つの条約は双子の条約ともいわれます。現在、生物多様性条約には193の国と地域が、気候変動枠組条約には192の国と地域が、それぞれ加盟しています。この2つの条約には地球上のほとんどの国が参加していることとなり、国際的な関心の高さが分かります。条約の締約国には生物多様性国家戦略を定めることが義務付けられており、現在170の国が国家戦略を策定しています(図3-4-1)。このように生物多様性の喪失に対する危機感を共有する国々が増えてきており、今後の各国の対策、国際的な取組が一層進展することが期待されます。


図3-4-1 生物多様性条約締約国数の推移

 1993年(平成5年)に生物多様性条約が発効して以降、図3-4-2のように国際社会での取組が進んできました。「対話から行動へ」をテーマに2002年(平成14年)にオランダのハーグで開催された生物多様性条約COP6では、「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という「2010年目標」を含む「生物多様性条約戦略計画」が採択されました。COP10で2010年目標の達成状況を評価するため、2010(平成22年)年5月に条約事務局が公表した「地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)」では、世界の生物多様性の状況を表す15の指標のうち9の指標で悪化傾向であることが示されるなど(図1-5-2)、「2010年目標は達成されず、生物多様性は引き続き減少している」と評価されています。


図3-4-2 国際的な取組の経緯と動向

 このまま生物多様性の劣化が止まらなければ、生態系サービスを大きく損ない深刻な事態になりかねないという危機感が高まっています。その一方で、生物多様性の科学的な把握、評価はいまだ不十分であり、手法の確立とともに生物多様性のモニタリング体制の整備なども世界的に進めていく必要があります。

2 2010年と生物多様性条約COP10の意義

 2010年(平成22年)に開催されるCOP10では、2010年目標を評価するとともに、それをもとに2010年以降の生物多様性に関する新たな世界目標、いわゆる「ポスト2010年目標」が議論されます(図3-4-3)。


図3-4-3 COP10で議論が予定される主なテーマ

 また、2006年(平成18年)の国連総会で、2010年(平成22年)を「国際生物多様性年(IYB:International Year of Biodiversity)」とすることが決定されました。生物多様性条約事務局が国際生物多様性年の担当機関とされており、生物多様性条約の3つの目的([1]生物多様性の保全、[2]生物多様性の構成要素の持続可能な利用、[3]遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分)とポスト2010年目標を達成するための認識を高めることや、国家的な委員会を設置して国際生物多様性年の式典を挙行することなどを締約国に求めています。条約事務局が決定したロゴマーク(図3-4-4)とスローガン「生物多様性、それはいのち 生物多様性、それは私たちの暮らし」の下、2010年(平成22年)には世界各地でさまざまな活動が展開されます。さらに、同年9月には国連総会で生物多様性に関する首脳級のハイレベル会合が予定されています。この国際的にも大きな節目となる年に、今後の世界の生物多様性の行く末を決定する国際会議が日本で開催されることになります。


図3-4-4 国際生物多様性年ロゴマーク

 COP10では、ポスト2010年目標以外にも重要な議題が予定されています。COP10までに国際的な枠組みの検討を完了するとされている遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS:Access and Benefit Sharing)もその一つです。生物多様性条約では、各国は、自国の天然資源に対して主権的権利を有するものと認められ、遺伝資源の利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分することが条約の第3の目的とされています。ABSとは、遺伝資源の利用から生じた利益が生物多様性の保全と持続可能な利用に資するものとなるよう、遺伝資源の利用者が円滑に提供国の遺伝資源にアクセスできる仕組みを整え、同時に利用者がその遺伝資源から得た利益を、提供国に対しても公正かつ衡平に配分することを目指すものです。

 ABSの国際的な枠組みが、遺伝資源への円滑なアクセスを確保し、遺伝資源から開発された医薬品等による人類の福利への貢献と、得られた利益の適切な配分による世界的な生物多様性の保全の推進に資する仕組みとなることが重要です(図3-4-5)。現在、生物多様性条約の下で関係国が検討を進めており、COP10の議長国であるわが国は、交渉の進展に向けてリーダーシップを発揮していくことが求められています。


図3-4-5 生物多様性条約採択前の遺伝資源の利用に関連する先進国と途上国の関係

 そのほかにも、生物多様性の持続可能な利用、保護地域、ビジネスと生物多様性、広報普及啓発及び国際生物多様性年等が主な議題として予定されています。COP10は、生物多様性条約の3つの目標に対応した国際的な枠組みや取組に道筋を付ける重要な場となります。

3 議長国としての日本の責任

(1)日本の経験を踏まえた国際貢献

 COP10は、今後の世界の生物多様性の方向性を議論するたいへん重要な会議です。わが国は議長国としてCOP10を成功させるだけでなく、日本の経験を踏まえた提案を行うことなどを通じ、会議の成果を実りあるものとしていく必要があります。COP10の主要議題であるポスト2010年目標の設定に関連して、これまでの2010年目標は、目標自体が抽象的で明確さに欠け、客観的・数値的な評価を行える手法がなく、危機意識をもって緊急の対策を行うことへの理解が得られないものであったという点が指摘されています。こうしたこともあり、生物多様性を損失させる開発や気候変動、森林の減少や過剰な漁獲などへの対策は、これらの問題を解決するうえで十分なものではありませんでした。COP9では、ポスト2010年目標について、意欲的かつ現実的で、計測可能な目標として2020年までの短期目標と2050年までの中長期目標を設定し、分かりやすく行動指向的なものとすることが決議されています。これらを踏まえ、平成22年1月に、わが国の経験を踏まえた「ポスト2010年目標に関する日本提案」を条約事務局へ提出しました(図3-4-6)。日本提案では、2050年までに自然との共生を実現し生物多様性の状況を現状以上に豊かなものとする中長期目標(Vision)と、生物多様性の損失を止めるために、2020年までに行う行動を示した短期目標(Mission)を提案しています。短期目標の下に9つの個別目標(Sub-Target)を提示し、その下の34の具体的な達成手法(Means)を多くの具体的な例示とともに示し、可能なものについては数値指標を提案しています。条約事務局では、日本をはじめとする各国からの提案を踏まえポスト2010年目標案を作成し、それをもとにCOP10で最終的な議論がなされます。わが国は日本提案をもとに、より良い目標となるよう議論に貢献していきます。


図3-4-6 生物多様性条約ポスト2010年目標に関する日本提案

 また、後述するように、COP10で議論が予定されるテーマである「生物多様性の持続可能な利用」に関連して、自然資源の持続可能な利用・管理を推進するため、わが国において自然資源を持続可能な形で利用する伝統的な場である里山の名を冠した「SATOYAMAイニシアティブ」を提案していくこととしています。

(2)国際的な動向の国内施策への反映と加速

 日本政府は生物多様性条約に基づき、これまで平成7年、14年、19年と3次にわたり生物多様性国家戦略を策定してきました。その後、20年6月に施行された生物多様性基本法では、政府が生物多様性国家戦略を策定することを国内の法律で義務付けました。さらに、22年3月には、生物多様性基本法に基づく初の生物多様性国家戦略となる「生物多様性国家戦略2010」を策定しました(図3-4-7、8)。


図3-4-7 生物多様性国家戦略の策定経緯


図3-4-8 生物多様性国家戦略2010の概要

 この生物多様性国家戦略2010では、平成22年1月に生物多様性条約事務局に提出したポスト2010年目標に対する日本提案の考え方を盛り込み、COP10で目指す成果を視野に政府として取り組む事項を追加しています。

 生物多様性国家戦略2010は大きく2部構成となっています。第1部は戦略本体と呼ぶべき部分で、生物多様性とは何か、その重要性などの現状認識を確認した後、わが国の生物多様性に影響を与えている課題として4つの危機を整理し、おおむね平成24年度までに重点的に取り組むべき施策の大きな方向性となる4つの基本戦略などを整理しています。平成19年に策定した第三次生物多様性国家戦略では、この4つの基本戦略を実施していく際の、長期的視点として自然生態系の回復する時間を踏まえ100年先 を見通した共通ビジョンである生物多様性から見たグランドデザインを整理しました。今回、ポスト2010年目標の日本提案を盛り込んだことから、おおむね2012年度(平成24年度)、2020年、2050年、2110年と段階的かつ長期的に戦略を進めていく道筋ができました(図3-4-9)。


図3-4-9 生物多様性の回復イメージ

 第2部は戦略を実現していくための具体的な行動計画として各種の施策を体系的に記述しており、実施省庁を明記した具体的施策の数は、第三次生物多様性国家戦略の約660から約720に、数値目標の数は34から35にそれぞれ増加しています。わが国は生物多様性国家戦略2010に盛り込まれたこれらの施策を着実に実行することで、COP10に向けて国内外の施策を推進していきます。

 また、COP10終了後に、COP10でのポスト2010年目標の議論を反映させ生物多様性国家戦略2010を見直していく予定となっています。

(3)国、地方、民間、市民、あらゆる主体の参画と連携

 生物多様性国家戦略2010の4つの基本戦略の一つ「生物多様性を社会に浸透させる」で述べているように、自然の恵み豊かな国土を将来世代に引き継いでいくためにも、私たち一人ひとりの日常の暮らしにとどまらず、社会全体で生物多様性について考えたり、意識したりすることが必要です。そのため、生物多様性の保全の重要性が地方公共団体、事業者、国民などにとって常識となり、それぞれの行動に反映される、いわば「生物多様性の社会における主流化」が実現されるように、多様な主体に呼びかけ、それぞれの主体に応じた取組を推進していくことが必要です。第3節では、さまざまな主体による先進的な取組事例を紹介しました。これらさまざまな主体の参画や連携を促し、自主的な取組を支援するため、生物多様性地域戦略策定の手引き、生物多様性民間参画ガイドライン、地域生物多様性保全活動支援事業などさまざまな取組を進めています。

(4)一過性ではなく、市民生活に根付くきっかけに

 多くの恵みをもたらす生物多様性は我々人類にとってかけがえのない存在です。一方、日々の生活をはじめとする人類の社会経済活動の多くは、生物多様性に対し大きな負荷を与えています。生物多様性への負荷の低減には、気候変動問題同様、日常生活や社会経済活動における取組も行っていく必要があります。

 そのためには、生物多様性という言葉やその意味、日々の生活や社会経済活動が生物多様性に負荷を与えていることを多くの人々が認識し、日常生活等において、生物多様性に対する負荷を低減する行動につなげていくことが重要です。平成21年に内閣府が実施した世論調査によると、生物多様性という言葉の認知度(「聞いたことがある」あるいは「言葉の意味を知っている」人の割合)は全国で36.4%にとどまるという結果が出ています。5年前の16年に環境省が同様の調査を行った結果(30.2%)に比べやや増加していますが、引き続き認知度を上げていく必要があります(図3-4-10)。


図3-4-10 「生物多様性」という言葉の認知度

 COP10はわが国で開催される生物多様性に関する初の大規模な国際会議となります。1997年(平成9年)に気候変動枠組条約第3回締約国会議が京都で開催されたことをきっかけに、国内での地球温暖化問題に対する認知度や取組は大きく前進しました。生物多様性条約のCOP10も、生物多様性に対する認知度の向上とともに、生物多様性の社会における主流化を推進する絶好のチャンスとなります。

 環境省は、「国際生物多様性年国内委員会」を平成22年1月に設立しました。国内委員会の中に設置した学識者、経済界、マスコミ、文化人、NGO等で構成する「地球生きもの委員会」で記念行事や活動等の方針を検討していきます(図3-4-11)。検討結果をもとに、国際生物多様性年や国際生物多様性の日に関する記念行事等、個別事業毎に各事業主体からなる実施組織「個別事業プロジェクトチーム」を立ち上げ各種事業を実施していきます。また、主流化をより効率的に推進していくために、関連事業を自主的に行う団体、関連する活動に協賛、協力する団体などを「地球生きものサポーター」として登録して、より裾野の広い活動につなげていきます。


図3-4-11 生物多様性を社会に浸透させる取組について


地球のいのち、つないでいこう「地球いきもの応援団」



地球のいのち、つないでいこう「地球いきもの応援団」


4 世界へ広げる自然共生の知恵と心

 生物多様性の保全にとっては、原生的な姿で維持されてきた自然だけでなく、長い年月にわたる持続可能な農林業などの人間の営みを通じ形成・維持されてきた二次的な自然が果たす役割も同じく重要です。しかしながら、これらの二次的な自然は、そこから得られる生態系サービスと合わせ、都市化や産業の発展、地方人口の急激な変化や高齢化など近年発生しているさまざまな事情により、その持続性が危ぶまれ、もしくはすでに失われてしまったところも多くあります。こうした地域は世界各地に存在し、例えば、フィリピンではムヨン(muyong)やウマ(uma)、パヨ(payoh)、韓国ではマウル(mauel)、スペンインではデヘサ(dehesa)、フランスではテロワール(terroirs)、マラウィやザンビアではチテメネ(chitemene)、日本では里地里山と呼ばれていますが、地域の気候、地形、文化、社会経済などの条件により、その特徴はさまざまです。これらの地域において生物多様性の保全やその持続可能な利用を進めていくためには、二次的な自然の価値を認め、その維持保全を図ることの重要性を世界的に共有しつつ、それぞれの地域の特性に則した対策を講じることにより、自然共生社会を実現していくことが重要です。

 具体的には、各地域における持続可能な生物資源の利用・管理の方法、直面する問題とその克服の方法を世界的に共有、分析しあうとともに、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する既存の諸原則を踏まえて、地方政府、国際機関、NGOの間での連携による関係者の能力向上や二国間や多国間のODAプロジェクトの実施が有効です。これをわが国はSATOYAMAイニシアティブとして提唱しており、COP10を契機に多様な主体の参加によるパートナーシップを立ち上げるなど国際的な連携の強化、取組の拡大を呼びかけ、取組を推進していくこととしています(図3-4-12)。


図3-4-12 国際SATOYAMA パートナーシップ(仮称)の構成イメージ

 一方、国内では、SATOYAMAイニシアティブ推進事業の一環として次のような取組を進めています。

[1] 特徴的な取組を行う里地里山の調査・分析と情報発信

[2] 環境教育・エコツーリズムの場や、バイオマスの利用など、里山の新たな利活用方策の試行と社会実験

[3] 多様な主体が共有の資源として持続的に里山を管理・利用するルールや枠組みの構築

[4] 里地里山に対する国民の関心及び理解を促し、多様な主体による保全活用の取組を全国各地で国民運動として展開する「里地里山保全活用行動計画」の策定

 わが国は、歴史的にも、食材などは身の回りから調達する「四里四方」という考え方に代表されるように、比較的限られた生活圏の中で自然との共生を模索した暮らしが営まれていました。生物多様性に限らず気候変動、3Rなど、今日、人類が直面するさまざまな問題を解決するには、地球という閉じた世界でどの様に生活をするべきかが問われているともいえます。日本の里地里山に代表されるような地域の自然と調和した暮らし方は、その問題解決の一つの可能性です。しかし、我々日本人自身も今日の便利な生活を変えることは容易ではありませんし、日本という枠にとらわれずグローバルな視点をもつ必要があります。循環型社会に向けた考え方の一つに、3R(リデュースリユースリサイクル)に根ざしたライフスタイルやビジネススタイルへの変換「Re-style(リ・スタイル)」があります。自然共生社会を実現するためには、現代の社会経済状況に応じたリ・スタイルが必要です。

 COP10のロゴマークは、折り紙をモチーフにデザインされました(図3-4-13)。折り紙は日本の智恵と文化を象徴しています。中央に人間を配置することにより、人類と多様な生きものとの共生を表現しています。また、人間の親子は、豊かな生物多様性を未来に引き継いでいこうという思いを表現しています。生物多様性を含む今後の地球環境を考えるには、わが国がポスト2010年目標の中長期目標で提案したように、自然との共生を世界中で広く実現させるという考え方が重要です。そのためには、このロゴマークを掲げるCOP10においてSATOYAMAイニシアティブを広く世界に発信するとともに、COP10をきっかけに国内における取組を推進していきます。


図3-4-13 COP10ロゴマーク


里山の管理と生物多様性の関係


 里山で行われる管理方法の1つである森林の間伐が実際に生物多様性の保全や向上に資するかどうかを調べた(独)森林総合研究所の研究によると、スギの人工林で本数が約1/2、木の体積が約1/3になる間伐を行い、無間伐の林と比較したところ、1年後にハナバチ、チョウ、ハナアブ、カミキリムシは、無間伐の林に比べて間伐した方が種数は多く、個体数についてもいずれの種も間伐の方が多い結果となりました。3年後には、無間伐の林との差はなくなる傾向になりましたが、里山の管理としての人工林の間伐が、林床の植物の種構成を変え、短期的には、一部の昆虫の種数と個体数を増加させて森林の生物多様性を高めることが明らかとなりました。


間伐1年後と3年後に採集された昆虫の種類と個体数


 まとめ

 第3章では、本年10月にわが国で開催されるCOP10を控え、議長国としてのわが国の責任や生物多様性に配慮した社会経済への転換の必要性を示しました。生物多様性は通常わたしたちが考えているよりもはるかに大きなスケールで、多方面に及ぶ便益を人類に与えてくれています。その一方で、かけがえのない生物多様性が地球規模で急速に失われつつあり、生態系から提供されるサービスを将来にわたり持続的に享受することが困難になってきています。また、生態系を保全することで得られる便益の大きさは、一度損なった生態系を回復させるコストより大きいことも分かってきており、開発行為や自然資源の利用に当たっては、こうした費用効果分析を的確に行ったうえで進めていくことが大切です。

 わが国は多くの資源を海外に依存することで、世界の生物多様性に大きな影響を及ぼしており、人類の存続基盤である生物多様性を保全し、持続的に利用していくために、企業活動から私たちのライフスタイルまで、生物多様性に配慮した社会経済への転換を率先して進めていく必要があります。COP10は、2010年以降の新たな世界目標の検討など、世界の生物多様性の将来を左右する重要な会議です。わが国は議長国として、自然資源の持続可能な利用や管理を進める「SATOYAMAイニシアティブ」を世界に広げるなど、地球規模で人と自然の共生を実現するため、先導的な役割を果たしていく必要があります。



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