第3章 地球温暖化対策を進める技術

人間活動の増大による二酸化炭素の大量排出の結果生じた地球温暖化は、私たち人類の生存基盤すらも脅かしかねない状況にあることが分かってきました。この章では、地球温暖化を回避して持続可能な社会を築いていく上での我が国の環境関連技術が果たす役割と、その開発や普及の重要性を述べていきます。

第1節 持続可能な社会への転換


1 「持続可能な社会」という理念

地球上では、多様な生物や大気、水、土壌などが有機的に結びついて物質循環を支えており、人類もまたその中でしか存在しえないこと、そして、特に近年の人類の営みは、大気や水、土壌などを汚染し、生態系とその基盤である生物多様性に対して大きな打撃となっていることを第2章で見てきました。地球環境が無尽蔵で無限なものではないという認識も、多くの人々に広まりつつあります。地球の物質循環や生態系の破壊、ひいては人類社会の破綻を回避するために、私たちは、地球という有限な器の中で「持続可能な社会」を築いていかねばなりません。
「持続可能」という理念は、1987年、国連の環境と開発に関する世界委員会(WCED)の最終報告書「地球の未来を守るために(Our Common Future)」(いわゆる「ブルントラント報告」)において提唱されました。ブルントラント報告では、「持続可能な開発」とは「将来の世代のニーズを充たしつつ、現在の世代のニーズをも満足させるような開発」を言うとされています。以来、「持続可能な開発」という考え方は世界中で広く用いられるようになり、1992年の国連地球サミットではこの考え方を基に「環境と開発に関するリオ宣言」や「アジェンダ21」が合意され、今日の地球環境問題に関する世界的な取組の基礎となっています。
平成18年4月に閣議決定された第3次環境基本計画においては、持続可能な社会は「健全で恵み豊かな環境が地球規模から身近な地域までにわたって保全されるとともに、それらを通じて国民一人一人が幸せを実感できる生活を享受でき、将来世代にも継承することができる社会」と定義されています。これを実現する上では、1)地球に存在する資源の制約の問題と2)人間活動によって排出される汚染に対する自然のシステムの処理能力の問題について考える必要があります。
鉱物資源、化石燃料などの資源は有限です。資源の安定供給を確保する観点からも、使用量の削減、回収・リサイクル、代替材料開発、再生可能資源活用などの促進が重要です。例えば金属資源は、再利用可能であり、合理的に循環して利用する必要があります。また、化石燃料については、太陽光エネルギーやバイオマスなどの再生産が可能な資源に代替していくことが必要です。
2)は、人間活動によって排出される汚染物質量が大気、水、土、生物などで構成される自然のシステムの処理能力の範囲を超えてはならないということを意味しています。例えば、現在、人間活動により排出される二酸化炭素の量が森林等による吸収量を超えていることが、地球温暖化の大きな原因となっています。自然のシステムの処理能力を踏まえた二酸化炭素排出量の削減が不可欠です。

2 化石燃料の大量消費時代

産業革命以降の人類社会は、機械設備を備えた大工場が人手をかけずに良質で安価な工業製品を大量に生産し、生産された工業製品を人々が大量に消費することで成り立ってきました。先進国は、こうした大量生産・大量消費スタイルによってかつてないほどの豊かさと繁栄を手にしてきました。そして、発展途上国においてもまた、先進国のような豊かさと繁栄を求めて、大量生産・大量消費化が進んでいます。
これを支える大きな原動力となったものが、石炭や石油などの化石燃料です。化石燃料は、世界中で大量生産・大量消費化が進むにつれて、大量に使用されるようになり、その消費量が加速度的に増えていきました(図3-1-1)。

図3-1-1化石燃料からの二酸化炭素排出量推移

このままのペースで化石燃料を使い続けた場合、近い将来、これらの資源は枯渇してしまうと考えられます。数億年という長い年月をかけて炭素が植物の光合成などの生物の働き等によって有機物として固定されることにより、地中に安定した形で貯蔵されてきた化石燃料を、私たちは産業革命以降のわずかな期間で使い切ってしまおうとしているのです。
化石燃料の消費はまた、自然のシステムの処理能力を超えた二酸化炭素の排出も招いています。
現代の人類社会は、有限な化石燃料を大量に使用し、自然システムの吸収能力を超えて二酸化炭素を排出した結果、大気中の二酸化炭素の濃度を増加させているのです。現代社会の現状は、持続可能な社会とはほど遠いものと言わざるを得ません。
私たちは、人類の生存の基盤である生態系を守り、人類社会を維持していくために、二酸化炭素などの大気中の温室効果ガスの排出・吸収のバランスの取れた社会を構築し、地球温暖化が危険な影響を及ぼす水準になることを防がねばなりません。


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