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第6節 

1 調査研究及び監視・観測等の充実

 (1)研究開発の総合的推進
環境分野は、第2期科学技術基本計画において、わが国の研究開発の重点分野の一つとされています。分野別推進戦略を踏まえ、重点課題として選定された地球温暖化研究、ゴミゼロ型・資源循環型技術研究、自然共生型流域圏・都市再生技術研究、化学物質リスク総合管理技術研究、地球規模水循環変動研究の5課題については、イニシャティブ研究会合等を開催し、省際的な研究開発の推進を図り、その成果を取りまとめました。
総合科学技術会議では、「環境研究開発推進プロジェクトチーム」において、上記の各重点課題の最新動向や関係府省における施策の取組・連携状況、不必要な重複及び実施中の施策の効果等について調査検討を行いました。また、科学技術連携施策群のテーマの一つとして「バイオマス利活用」を立ち上げ、研究・技術開発に関して関係府省における施策の取組・連携状況の把握や、関係府省の連携を深めるための課題の選定など、各府省の連携の下で積極的に推進しました。さらに、平成17年度は第2期科学技術基本計画の最終年度であることから、第3期の基本計画(計画年度:平成18〜22年度)及びこれに基づく分野別推進戦略を策定しました。

(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進
ア 独立行政法人国立環境研究所
環境大臣が定めた5年間の中期目標(平成13〜17年度)とこれを達成するための中期計画に基づき、重点研究分野を中心に、特に重要な以下の課題についてはプロジェクトを形成し、環境研究の推進を図りました。
1) 地球温暖化の影響評価と対策効果
2) 成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明
3) 内分泌かく乱作用を有する物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理
4) 生物多様性の減少機構の解明と保全
5) 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理
6) 大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価
また、環境行政の新たなニーズに対応した以下の政策対応型調査・研究を2つの研究センターで実施しました。
1) 循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究
2) 化学物質環境リスクに関する調査・研究
重点研究分野をはじめ、長期的視点に立った基盤研究や創造的・先導的調査研究を6つの研究領域等で実施しました。
研究の効率的実施や研究ネットワークの形成に資するため、環境研究基盤技術ラボラトリーにおいて環境標準試料の作製等を実施するとともに、地球環境研究センターにおいて地球環境の戦略的モニタリング等を実施し、知的研究基盤の整備に取り組みました。
環境情報センターにおいては、環境の保全に関する国内外の資料の収集、整理及び提供を行い、国民等への環境に関する適切な環境情報の提供サービスを実施しました。
イ 国立水俣病総合研究センター
国立水俣病総合研究センターは、水俣病に関する総合的医学研究を行い、水俣病患者の医療向上を図るため、昭和53年に熊本県水俣市に設立され、水俣病に関する医学的研究、社会科学的研究、自然科学的研究等を幅広く行っています。また、水銀汚染問題に関する日本の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなどの施策を実施しました。また、同センターに属する水俣病情報センターにおいては、資料の収集・整理・提供を実施しました。

(3)公害防止等に関する調査研究の推進
環境省に一括計上した平成17年度の関係行政機関の試験研究機関(国立機関及び独立行政法人)の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額12億3,272万円でした。8府省20試験研究機関等において、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構の解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等の領域にわたり、61の試験研究課題を実施しました。その内容は表7-6-1のとおりです。



(4)地球環境研究に関する調査研究等の推進
地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成17年6月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成17年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施しました。
関係府省の国立試験研究機関、独立行政法人、大学、民間研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下、「地球環境研究総合推進費」により、学際的、国際的観点を重視しつつ地球環境研究を推進しました。平成17年度は、戦略的な研究課題として、温暖化の危険な水準及び温室効果ガス安定化レベル検討のための温暖化影響の総合的評価に関する研究に着手しました。関係行政機関等による中長期的視点から着実に推進すべき研究については、「地球環境保全試験研究費」により、地球温暖化の防止に資する研究を行いました。17年度に実施した主な調査研究は表7-6-2のとおりです。



(5)基礎的・基盤的研究の推進
次世代の環境保全技術の基礎となる「知的資産」を蓄積するため、「環境技術開発等推進費」の「基礎研究開発課題」において、「空間明示モデルによる大型哺乳類の動態予測と生態系管理に関する研究」等計8課題及び「フィージビリティスタディ研究課題」のうち基礎研究開発の技術分野において1課題の研究の推進を図り、また、「自然共生型流域圏・都市再生技術課題」において、主要都市・流域圏の自然共生化に必要なシナリオの設計・提示を目指した2課題の研究の推進を図りました。
(6)地球環境に関する観測・監視
衛星による地球環境観測については、熱帯降雨観測衛星(TRMM)の降雨レーダ(PR)や米国地球観測衛星(Aqua)の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR−E)から取得された観測データを、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明に活用しました。環境観測技術衛星「みどりII」(ADEOS-II)から得られた観測データについては、最大限活用すべくデータの精度の向上を図るとともに、オゾン層破壊の現象解明等に活用しました。また、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の打上げ、環境省、国立環境研究所及び宇宙航空研究開発機構の共同による温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の開発及び、全球降水観測(GPM)計画主衛星に搭載する二周波降水レーダ(DPR)の研究開発を行いました。
海洋における観測については、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進しました。第47次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球規模での環境変動の解明を目的とする各種のプロジェクト研究観測等を実施しました。特に、平成18年1月、約100万年前の気候や二酸化炭素濃度を解明するために、ドームふじ基地において深さ3,029mの氷床コアの採取に成功しました。
地球変動予測研究については、世界最高性能のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用した地球温暖化予測モデル開発等を推進しています。
地球規模の変動に大きく関わっている海洋における観測について、海洋の観測データを飛躍的に増加させるため、海洋自動観測フロート約3千個を全世界の海洋に展開し、地球規模の高度海洋監視システムの構築を目指すARGO計画を推進しました。
「地球観測システム構築推進プラン」では、競争的研究資金制度のもと、地球観測システムの構築に貢献する研究開発等に効果的に取り組んでいます。本事業が創設された平成17年度は、地球温暖化・炭素循環分野及びアジアモンスーン地域水循環・気候変動分野における研究課題の実施を開始しました。
GPS装置を備えた検潮所において、精密型水位計により、地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供業務を継続しました。また、平成16年に続き、国内の影響・リスク評価研究の推進に向けて、日本付近のより詳細な気候変化の予測結果を更新・提供したほか、それらの結果を取りまとめ、「地球温暖化予測情報」として発表しました。
地上観測については、環境省及び気象庁が、それぞれ沖縄県波照間島や東京都南鳥島等で温室効果ガスの測定を行っています。気象庁ではWMO/GAW計画の一環として、温室効果ガス、CFC等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線等の定常観測、日本海周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中の二酸化炭素等の定期観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を引き続き実施しました。また、黄砂及び有害紫外線に関する情報を発表しています。
世界の地上気候データの円滑な国際交換を推進するため、世界気象機関(WMO)の計画に沿って各国の気象局と連携し地上気候データの入電数向上、品質改善等のための業務を実施しています。
平成17年度に実施した主な観測・監視は表7-6-3のとおりです。



(7)廃棄物処理等科学研究の推進
総合科学技術会議の「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」で重点を置くとされた研究イニシアティブのうち、「ごみゼロ型・資源循環型技術研究」を推進するため、競争的研究資金を活用し広く課題を募集し、平成17年度は、50件の研究事業及び6件の技術開発事業を実施しました。
研究事業については、「社会におけるマテリアルフロー分析、循環型社会の評価手法に関する研究」、「経済的インセンティブを用いた3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進に関する研究」、「地域における最適な資源循環システムの構築に関する研究」、「安全、安心のための廃棄物管理技術に関する研究」を重点テーマとし、廃棄物をとりまく諸問題の解決とともに循環型社会の構築に資する研究を推進しました。
技術開発については、「廃棄物適正処理技術」、「廃棄物リサイクル技術」、「循環型社会構築技術」を公募分野とし、次世代を担う廃棄物処理等に係る技術の開発を図りました。
文部科学省では、廃棄物の無害化処理と再資源化を図るとともに、影響・安全性評価及び社会システム設計に関する研究開発を産学官の連携で行う「一般・産業廃棄物・バイオマスの複合処理・再資源化プロジェクト」を開始しました。

(8)環境保全に関するその他の試験研究
環境省では、ナノテクノロジーを環境分野に活用した環境モニタリング・健康生態影響評価・環境汚染防止対策に関する技術開発等を行いました。
内閣府では、温室効果ガス削減の国際的な枠組みの問題等気候変動問題に焦点をあて、国内外の研究機関と共同で国際共同研究を実施しました。また、環境と経済の関係を示す「環境サテライト勘定」について、これまでの研究及びシステム開発を基に、改訂版環境・経済統合勘定ハンドブック(SEEA2003)の中でも中心的な役割を担っているNAMEA(National Accounting Matrix including Environmental Accounts)の推計及び勘定体系の改良を行いました。
総務省では、電磁波を利用した地球環境観測技術の研究として、GPM搭載2周波降水レーダーの開発、宇宙からの雲観測技術、宇宙からの風観測のためのライダー技術、宇宙からの大気微量成分の三次元観測技術、極域大気環境の総合計測技術に関する国際共同研究、高分解能映像レーダーによる地表面の高精度観測技術、亜熱帯環境計測技術の研究開発を実施しました。
農林水産省では、環境負荷を低減し、持続的農業を推進するための革新的技術の開発として、畜産臭気の低減技術の開発とバイオマスの総合利用による地域循環システムの実用化に関する取組を強化しました。また、地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価や温室効果ガスの排出削減・固定化技術の開発を実施したほか、流域圏における水・物質循環の機構及び農林水産生態系の機能の解明による流域圏環境の総合的管理手法の開発、野生鳥獣による農林業被害を軽減する管理技術の開発、農林水産生態系における有害化学物質の動態把握と生物・生態系への影響評価と分解・無毒化等を通じたリスク低減技術の開発、アジアモンスーン地域における水循環変動を考慮した食料需給モデルの開発、水循環変動の影響を評価・予測、変動の影響を最小化するための対策シナリオの策定等を実施しました。
経済産業省では、植物機能や微生物機能を活用して工業原料を生産する技術開発、廃棄物や汚染物質の生分解・処理技術の開発を実施しました。特に、生物機能を活用した物質生産に係る実用化開発を推進する観点から、「バイオプロセス実用化開発プロジェクト」を実施しました。また、これらの開発を支える基盤整備のための生物遺伝資源の収集に係る技術開発や、バイオテクノロジーの産業利用における安全管理充実のための遺伝子組換え体のリスク管理に関する基盤研究等を実施しました。さらに、愛・地球博において、バイオマス由来プラスチックの利活用の実証を実施しました。
国土交通省では、ライフサイクル(製造から廃棄までの全期間)を通じたCO2と廃棄物に関する建築物の環境性能を定量的に評価する手法の開発、及びその対策技術の開発を実施しました。また、効果的なヒートアイランド対策の推進のために、地理情報等を活用して都市空間におけるヒートアイランド現象をスーパーコンピュータにより再現するシミュレーション技術の開発等について実施しました。
循環型社会の構築に向け、下水汚泥の建設資材利用や、他の有機質廃材と組み合わせた有効利用等の技術開発を推進しました。
環境への負荷が小さく、新たな海洋空間の創造が可能な超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の普及促進のための調査を行いました。また、内航海運の活性化と物流における環境負荷低減に大きく貢献する次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発、外航海運分野からの環境負荷(バラスト水問題等)の低減と採算性を両立した低環境負荷型外航船(グリーンシップ)の研究開発、船舶からの大気汚染の防止を図ることを目的に、排出ガスに含まれるSOxを大幅に削減する活性炭素繊維(ACF)を活用した高機能排煙処理システムや、NOx及びCO2の排出を同時に削減させる超臨界水を活用した舶用ディーゼル燃焼技術といった新たな環境負荷低減技術の研究開発を実施しました。

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