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第2節 

4 持続可能で快適な都市空間の創出

 (1)欧州における取組
成熟社会を迎えた欧州では、いち早く持続可能な都市(サスティナブル・シティ)の実現に向けた取組が進められており、これらは、大きく次の3つの政策に分類することができます(表2-2-1)。



ア 土地利用と交通計画による環境と福祉の統合
社会福祉先進国であるデンマークの首都コペンハーゲン市では、ノーマライゼーションの考えに基づき、また、家族が住みやすいまちづくりやヨーロッパの環境首都を目標にした取組を進めています。具体的には、5本の近郊電車(Sバーン)を5本の指に見立て、このSバーン沿いに市街地を展開しており、それ以外の地域では土地利用の規制を強めつつ、大規模な緑地を確保し、コンパクト化による地域熱供給システムの導入を図るフィンガープランと呼ばれる施策を実施しています。また、バス交通網の充実やバスと鉄道の乗り継ぎ利便性の向上、中心部への自動車の流入規制や駐車場の削減、自転車道ネットワークの整備などの交通政策を段階的に進めています。このような取組の結果、市街地に隣接して大規模な緑地空間が保全されることとなり、環境への効果のみならず、市民の憩いの場としても機能しています。また、現在、通勤時には市民の約30%が自転車を利用するようになるなど成果を上げています。



イ 市街地の自動車抑制による持続可能な交通システムの実現
また、ノルウェーの首都オスロ市は、環境政策として、交通渋滞の緩和、公共交通機関の拡張などの取組を行っているほか、交通部門における環境負荷の低減を目的に、市中心部に設置されたゲート(トールリング)を通過するすべての車両に通行税を課し、そこで得た資金を活用して地下幹線道路の建設やその他交通システムの改善を行っています。このような取組を通じて、市中心部の地上道路で交通量を減少させることに成功し、この結果、スムーズな交通が確保され、交通事故が減少したほか、大気汚染や騒音問題も改善されました。



欧州ではこのようなサステナブル・シティの取組に対する「持続可能な都市大賞」という表彰制度があり、上記2都市もその受賞都市です。このように、EU加盟国内において持続可能な都市についての知見や経験が共有され、また、蓄積される仕組みが作られています。

(2)米国における取組
米国では、現在も人口増加が続いていますが、そのスピードを上回って郊外における住宅開発や自動車交通が拡大しており、このような郊外化によって野生生物の減少などの自然環境や大気汚染、水質汚濁、地球温暖化、騒音といった環境問題、中心市街地の衰退、市街地の犯罪増加などを招き、それがさらなる郊外化を引き起こすという悪循環が見られます。
一方で、交通混雑や大気汚染の解決するために行われた道路整備が誘発交通を生み、自動車利用の拡大を招くなど、政策自身がスプロールを助長することにもなりました。また、郊外化を抑制するために行われる土地開発規制では、きめ細やかな対応が難しいことから、適切な土地利用を促進する取組が求められるようになりました。
このため、歩いていける範囲に商業、居住、オフィス、娯楽、公共サービスなど様々な施設や公園、広場、緑地などのオープンスペースが配置された、多機能なコミュニティ空間を形成することや、貴重な自然環境を最大限に保全しつつ、エネルギー消費を最小限に抑える環境に配慮した社会システムの構築を目指し、新規開発を一定の区域に誘導することや公共交通機関の整備などを行う「スマートグロース(賢明なる成長)」の取組が広がっています。
ア 予算の集中投資による都市開発の誘導
ワシントンDCに隣接するメリーランド州では、2025年には2000年に比べ16%も増加することが予想されるなど人口増加が著しく、田園への住宅進出が進んでいました。そこで、従来の土地利用規制に加え、住みやすい都市環境づくりへの支援や自然資源及び農地の保全を通じ、経済成長と環境保護のバランスの取れた持続可能な開発の促進する「スマートグロースイニシアティブ」を実施しています。
具体的には、州の公共事業等への支出を優先的資金投資エリアに限定することでその区域の利用を促進するスマートグロース区域法に基づき、中心市街地での職場や遊び場としての環境を整え、住みやすいと思えるコミュニティの維持・再生を図っています。また、農地の買い取りによりグリーンベルトを確保する田園遺産保存制度に基づき、都市開発によってだんだんと縮小していく自然資源の適正な管理・保護を行っており、これらの施策によってバランスが取れた地域の発展を目指しています(図2-2-1)。



イ 複数の核への成長の集約と公共交通ネットワーク
ワシントン州シアトル市では、住宅と雇用、ショッピングやレクリエーションなどの住民サービスをアーバンビレッジという特定地域に集中させ、各ビレッジを公共交通機関で結ぶことにより、職住近接なコンパクトなまちづくりを目指した「アーバンビレッジ構想」を実施しています。
アーバンビレッジは、そのエリア内の徒歩圏で生活サービスを充足させ、都市圏域での公共交通利用を促進させることに狙いがあり、商業機能や居住区域などが集まり高い優先度で開発を進める地域(アーバンセンター)を設定するほか、集合住宅地域(居住アーバンビレッジ)や居住地区、重要商業地区が混在する地域(ハブアーバンビレッジ)など、その特性に応じ細かに設定しており、これらの核となる地域を、アーバンビレッジ交通ネットワーク計画に基づき、2030年までに交通網で結ぶことを予定しています(図2-2-2)。



これらの取組の結果、大気汚染や省エネルギーなどの環境保全効果はもちろんのこと、コンパクトな都市構造による公共投資の節約、コミュニティの生活の質の向上、これに伴う経済競争力の高まりなどが期待されています。

(3)わが国の先進的取組
わが国でも、持続可能なまちづくりを進める機運が高まる中、行政やコミュニティなど、さまざまな主体によるまちづくりが始まっています。
ア コンパクトシティの取組
富山県富山市では、「街の顔」となる中心市街地の再生と車に過度に頼らない、歩いて暮らせるまちづくりを目標として、まちなか居住を促進するための公的補助、空き店舗の活用をはじめとする中心市街地の再生事業を行うとともに、高齢者等の交通弱者にもやさしいLRT(Light Rail Transit)と呼ばれる路面電車の導入をはじめとした公共交通機関の充実により、まちの再生・活性化を図っています。このような取組には、中心商店街の活性化のみならず、コンパクトな都市構造による省エネルギーなど、環境負荷を低減する効果が期待されます。



また、富山高岡広域都市圏第3回パーソントリップ調査では、都市圏の将来像の設定に当たり、都市構造と公共交通の利用が現況のまま推移した場合や都市機能の都心部集約と公共交通重視を行った場合といった6つのパターンを想定した検討がなされています。これによれば、都心部に都市機能を集約し公共交通の利用促進を同時に行うパターンが、最も自動車の利用が抑制され、二酸化炭素排出量の削減に効果があると試算されています(図2-2-3)。



イ ひとと環境にやさしい交通まちづくり
大阪府池田市では、エコドライブの推進と駅ボランティア事業の取組により、「ひとと環境にやさしい交通まちづくり」を進めています。エコドライブ推進事業では、運送車両315台に運転状況にあわせて音声でエコドライブを指導するデジタルタコグラフを設置した結果、平成17年度は約1,300トンの二酸化炭素排出量が削減されました。また、駅ボランティア事業では、「心のバリアフリー」を目標に掲げ、高齢者や障害者の移動や荷物の運搬等の支援を行うなど、公共交通機関の利用の促進を図りました。これには、駅改札前のポイ捨てが減少したなどの副次的な効果も見られました。



ウ コミュニティバス
京都市伏見区の醍醐地区は、市営バスの撤退により地区内の移動が不便になったことや、高齢化の進む山沿いの公営団地に、公共交通機関の運行が求められていたことから、「醍醐地域にコミュニティバスを走らせる市民の会」が地元事業者の協力を受けて、コミュニティバスの運行を開始しており、現在は「醍醐地域にコミュニティバスを走らせる市民の会」と名称を変更し、活動を行っています。
このコミュニティバスは、高齢者や子どもたちなど、この地区の住民にとって、日常生活の貴重な足となっているだけでなく、自家用車を利用する場合と比較して二酸化炭素排出量が1人当たり約半分で済むといった環境負荷低減効果が得られています。
http://www16.ocn.ne.jp/~daigobus/index.html
エ 自転車のまちづくり
秋田県二ツ井町では、東京都杉並区でごみとして扱われ処分に苦慮していた放置自転車を再利用することにより、まちを活性化する事業に取り組んでいます。まちの主要な10か所のステーションに合計450台の自転車を設置するほか、町道・県道にあわせて総延長約3キロに自転車歩行車道を整備するなどの自転車のまちづくりを推進しており、地域の若者から高齢者、さらに観光客等にも利用してもらうことで、駅周辺や中心市街地、市内観光スポットなどへの「人」の流入を図り、中心市街地を賑いのある元気な「まちの顔」へと再生を図っています。このような取組の結果、車依存のライフスタイルから、車と自転車・歩行の使い分けへの転換が進んでおり、移動時の二酸化炭素排出の抑制効果が期待されます。
オ 地域冷暖房の取組
光が丘パークタウンは、練馬区と板橋区にまたがり、周囲に緑の公園を配し「自然と調和した緑豊かな明るい街」として建設された12,000戸の大規模住宅団地です。この団地と、隣接する住宅、学校、商業施設、官公庁施設を対象として、光が丘清掃工場の発電後の復水排熱を利用した高効率な熱製造と熱供給が行われています。この取組により、同様の施設を重油で賄った場合と比較して、二酸化炭素は66%減、NOxは72%減、SOxは94%減と大幅な環境負荷削減効果が得られています(東京熱供給株式会社の試算結果より)。
カ 自然再生の取組
埼玉県川越市、所沢市、狭山市、三芳町にまたがる通称「くぬぎ山地区」では、都市化の進展や農業の衰退により、平地林の転用や荒廃が進んだことから、オオタカなどが生息する武蔵野の面影を残す貴重な平地林が失われています。



この平地林を未来の世代に継承することを目的として、平成16年に自然再生推進法に基づく「くぬぎ山地区自然再生協議会」が発足し、地権者、土地所有者、市民団体、関係行政機関等の多様な主体により同地区における特別緑地保全地区制度を活用した樹林地の保全・再生・活用のための検討が進められています。
http://www.pref.saitama.lg.jp/A09/BD00/kunugiyama/kyougikai/index.html

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