前のページ 次のページ

第1節 

3 労働力人口の減少

 (1)将来の労働力人口
経済成長を人材供給の観点からとらえる労働力人口は、2025年(平成37年)までに6,297万人と、2000年(平成12年)に比べ約7%減少すると見込まれています。
労働力人口の減少は、労働時間に変化がないものと仮定すると、労働力投入量の減少により生産量を減少させる方向に働くものと考えられます。現在の経済規模を維持させるためには、労働者1人当たりの生産量である生産性を向上させる必要があります。
生産性を向上させる手段として、IT化、機械化の進展による技術革新や省エネ、省資源の取組による生産コストの削減などがあります。これらの手段を組み合わせることにより、エネルギーや資源の消費が抑制され、環境負荷の低減が進みます。しかし、機械化の進展といった対応は、環境負荷を増大させる可能性も考えられることから、女性やニートなどの多様な労働力の活用や何度でも挑戦できる再チャレンジができる社会づくりなど、労働力人口の減少への対応を進めるとともに、労働力人口の減少が環境に及ぼす影響について注意する必要があります。

(2)2007年問題
昭和40年代にかけての深刻な公害やオイルショックを経験した団塊の世代(昭和22年〜24年の第1次ベビーブーム期に生まれた世代)が、2007年(平成19年)から大量に退職します。早期退職制度の活用による退職時期の分散など、2007年問題の緩和に向けた対策が進められているものの、一度に大量の退職者が生じることにより、企業・行政の双方において、技術・技能や経験の継承が課題となります。これは公害防止に関する規制対応をはじめとする環境対策の技術や、環境マネジメントに必要とされる知識や経験の継承についても同様に考えなければならない問題です。
ア 企業における課題
内閣府の調査によると、団塊の世代が大量に退職することについては、「労務コストの軽減効果」や「年齢構成の若返りによる組織の活性化」がポジティブな評価として挙げられています。一方で、「製造業における後の世代への技術・技能の継承」については57.9%が困難化するとしており、なお団塊の世代の知識や経験に依存しなければならないのが現状といえます(図1-1-13)。このことは環境保全に係る技術・技能、経験の継承についても同様のことが考えられ、特に環境マネジメントや規制対応の観点から重要であるととらえることができます。



アンケート結果(図1-1-14)によれば、事故の発生につながる要因として懸念される事項の最上位に「保安スキルを有する人材の減少(63%)」が挙げられています。保安と関連が深いと考えられる環境の分野においても、団塊の世代の退職に伴う技術者等の不足が問題となるおそれがあります。
一方、環境マネジメントや規制対応の観点からは、環境管理部門への適切な人員配置は極めて重要と考えられます。



平成17年にはわが国を代表する大手企業による大規模な排水基準違反事件が発生しましたが、その企業が公表した報告書によれば、環境管理部門における人員の配置不足が事件発生の一因とされています。
今後、経験豊富な人材の大量退職により、企業における人員配置も影響を受けることが考えられ、その結果、環境管理上の問題が発生することも懸念されます。したがって、ブラックボックス化している技術や経験を目に見える形に直しながら引き継ぐ仕組みづくりを進める必要があります。
イ 行政機関における課題
地方公共団体においても、2007年問題については退職金による財政負担の増加や職員数の不足による住民サービスの低下等が課題とされているところです。環境保全の観点からは、昭和40年代、深刻な公害問題に直面する一方で、公害関係の法令が整備され、多くの都道府県・政令市では環境担当の職員の採用を進めました。今後、公害問題への対応や分析業務といった貴重な経験を積んだこれらの職員が退職するため、次の世代への継承を確実に実施しなければならないという課題を指摘することができます。また、従来から公害対策として進められている規制的手法の実施はもとより、科学的な知見の充実に努めながら、対策を講じなければならない地球温暖化対策や化学物質対策においても、十分な現場の把握とこれまでの公害経験が必要です。
深刻な公害を経験した、大規模な都道府県A、中規模都道府県B及び政令指定都市Cにおける環境専門職員(環境保全部門に主に従事する技術系の職員)の年齢構成は図1-1-15のとおりです。全国の都道府県における一般行政職員については、50代後半の職員の占める割合が1割を下回る一方で、これらの自治体の環境専門職員では全体の4分の1にも及んでいます。さらに、50代全体では半数近くを占めており、環境専門職員に関する2007年問題は、一般行政職員に関する問題に比べ、大きな影響を及ぼすと可能性があると考えられます。また、環境専門職員といった特定の職種を持たない場合の多い市区町村では、分析業務や監視測定業務等について外部委託が進められていますが、現場を理解した職員によるマネジメント体制を構築しなければなりません。



(3)進められている対策
現在の労働力人口のうち、大きな割合を占める団塊の世代の一斉退職については、さまざまな視点から対策の必要性が訴えられてきたところですが、環境保全についても例外ではありません。
人口減少を経験したスウェーデンやフィンランド等の北欧諸国では、1990年代のバブル経済の崩壊後、知識集約型産業の育成を目指す政策転換が行われ、ネットワークコンピューティングの普及に的を絞った政策を実施しました。その結果、IT関連産業を中心に世界でも有数の高い競争力を持つことになり、生産性の向上と環境負荷の低減とのバランスも保つことに成功しています。
一方、わが国でも生産性の向上が環境負荷の削減につながる取組が開始されています。紙・パルプ産業のあるグループでは、生産性向上の観点から、効率の高い機械に生産を集中し、効率の低い機械の使用を控えるという生産体制の見直しを実施し、あわせて製紙工程で使用する排水や燃料の消費の低減を図っています。
製造業等においては、2007年問題における技術・技能や経験の継承に係る取組がすでに進められており、OJT(職場内教育・研修)や勉強会を通じた熟練技術者のノウハウの継承、ヒヤリ/ハット事例や経験のデータベース化が進められています(図1-1-16)。



さらに、製造業のある企業では、公害防止管理者等の環境保全に係る資格の保有者が定年退職により減少していることから、環境管理体制を維持するために資格者の計画的な育成を進めています。また、環境マネジメントや規制対応の基礎として、工場をはじめとする現場の状況を熟知させるため、ベテラン技術者とともに業務を進め、経験を伝承する取組が進められています。
特に深刻な公害問題への対応に関する経験や技術は、具体的に数値化して説明できるものではないため、マニュアル化し、次世代に継承することには困難が伴います。このため、このような環境問題や環境対策に知識や経験を持った高齢者が、現役時代の経験等を生かすことのできる新たな活躍分野として、国内外で、現場や地域の草の根の環境取組のリーダーとして活躍する道を開くような社会的な仕組みを設けることが重要となります。

前のページ 次のページ