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第1節 

1 水環境の現状

(1)水質汚濁の原因
 日本の水質汚濁は、工場・事業場排水に関しては、排水規制の強化等の措置が効果を現している一方、日常生活に伴って家庭から排出される生活排水については、汚水処理施設の整備が未だ十分ではありません(図3-1-1)。特に、流域内に人口や産業が集中する河川や、手賀沼、印旛沼などのように集水域の都市化が進んでいる湖沼においては、排出負荷量のうち生活排水の占める割合が大きくなっています。このほかに、降雨等により流出するいわゆる非特定汚染源からの汚濁や、従来からの水質汚濁の結果として沈殿・堆積した底質からの栄養塩類の溶出等による汚濁が、水質汚濁の大きな要因となっています。




(2)環境基準の設定
 水質汚濁に係る環境基準のうち、健康項目については、現在、カドミウム、鉛等の重金属類、トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物、シマジン等の農薬など26項目が設定されています。加えて、要監視項目として平成16年3月に塩化ビニルモノマー等5項目を追加し現在27項目を設定し、水質測定の実施と知見の集積を行い、水質汚濁の未然防止を図ることとしています。なお、ダイオキシン類については、その水環境中での挙動に関して引き続き知見を集積しています。
 生活環境項目については、BOD、CODDO、全窒素及び全りん等の基準が定められており、利水目的から水域ごとに環境基準の類型を指定することとされています。また、一部の水域で設定している暫定目標のうち海域の全窒素及び全りんに関し、国が類型指定を行う水域については、その見直しを進めています。
 平成15年11月には、水生生物の保全の観点から、新たに全亜鉛を環境基準生活環境項目として設定しました。同時に、クロロホルム等3項目を要監視項目に設定しました。

(3)水質汚濁の現状
ア 公共用水域の現状
 平成14年度全国公共用水域水質測定結果によると、カドミウム等の人の健康の保護に関する環境基準(26項目)の達成率は、99.3%(前年度99.4%)と、前年度と同様、ほとんどの地点で環境基準を達成していました(表3-1-1)。



 一方、BOD、COD等の生活環境の保全に関する項目に関しては、平成14年度末までに環境基準類型が当てはめられた3,300水域(河川2,550、湖沼153、海域597)について、有機汚濁の代表的な水質指標であるBOD(又はCOD)の環境基準の達成率をみると、渇水の影響等で河川の環境基準達成率が落ち込んだ6年度を除けば、測定開始以来、毎年わずかながら向上し、14年度は81.7%(過去最高)となっています。水域別にみると、河川85.1%(13年度は81.5%)、湖沼43.8%(同45.8%)、海域76.9%(同79.3%)であり、特に、湖沼、内湾、内海などの閉鎖性水域で依然として達成率が低くなっています(図3-1-2図3-1-3表3-1-2)。







イ 地下水質の現状
 平成14年度地下水質測定結果によると、全国的な状況の把握を目的とした概況調査の結果では、調査対象井戸(5,269本)の6.7%(351本)において環境基準を超過する項目がみられました(表3-1-3図3-1-4)。11年2月に環境基準項目に追加された硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素については、5.9%の井戸で環境基準を超えていました。公共用水域及び地下水における硝酸・亜硝酸性窒素の汚染源として、農用地への施肥、家畜排せつ物、工場等からの排水、一般家庭からの生活排水が挙げられており、その対策が緊急の課題となっています。





ウ 閉鎖性水域の現状
 人口や産業が集中する内湾、内海、湖沼等の閉鎖性水域では、流入する汚濁負荷が大きい上に汚濁物質が蓄積しやすく、汚濁が生じやすい状況にあります。これに加えて、窒素、りん等を含む物質が流入し、藻類その他の水生生物が増殖繁茂することに伴い、その水質が累進的に悪化するという富栄養化に伴う赤潮等の現象がみられます。これら閉鎖性水域における平成14年度の環境基準の達成率を有機汚濁の代表的な指標であるCODでみると、東京湾は68%、伊勢湾は44%、瀬戸内海は69%、湖沼は44%となっています(図3-1-2図3-1-3参照)。また、平成14年の赤潮の発生状況をみると、東京湾34件、伊勢湾47件、瀬戸内海89件、有明海42件となっており、東京湾及び三河湾では青潮の発生もみられます。湖沼についてもアオコや淡水赤潮の発生がみられています。
エ 海洋環境の現状
 長期的な海洋環境の変動を把握するため実施している海洋環境モニタリング調査について、平成13年度の分析調査を取りまとめた結果、水質汚染の状況は、過去に実施してきた調査結果と同様、全体的に低いレベルであることがわかりました。底質の状況は、北九州沖の調査測線では、カドミウム、鉛、銅、全クロムの濃度が沿岸から沖合にかけて高くなる傾向がありました。一方、北海道南西沖の調査測線では、はっきりとした傾向がみられませんでした。生体濃度調査によると、海洋生物の軟体部・筋肉部・肝臓部のダイオキシン類などの濃度については、海域により違いがあるものの、今回得られた測定項目の平均値等はこれまでに行われてきた調査研究の結果の範囲内であることがわかりました。プラスチック類等の漂流ゴミについては、九州南東沖で調査した結果、一部の測点で多くの浮遊性プラスチック類等が観測されました。
 また、海洋汚染状況を把握するため実施している海洋汚染調査について、平成15年の調査を取りまとめた結果、日本の周辺海域、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」(昭和45年法律第136号。以下「海防法」という。)において廃棄物排出海域として定められているA海域、閉鎖性の高い海域等における海水及び海底堆積物中の油分、PCB、重金属などについては、例年と同様な濃度レベルで推移していることが認められました。
 また、平成15年の日本周辺海域における、廃油ボールの漂流・漂着に関する調査の結果、平均採取量は漂流・漂着ともに前年に比べ増加しました。特に南西諸島への漂着が目立っています。さらに、15年の海上漂流物の目視による調査の結果、確認された漂流物の6割以上を発泡スチロール、ビニール類等の石油化学製品が占め、それらは九州西岸、本州南岸で多く認められました。一方、最近5か年の日本周辺海域における海洋汚染(油、廃棄物、赤潮、その他)の発生確認件数の推移は図3-1-5のとおりです。15年は571件と14年に比べ55件増加しました。15年の海洋汚染のうち油による汚染についてみると、船舶からのものが260件と約7割を占めており、そのほとんどが取扱不注意と海難によるものでした。油以外の汚染についてみると、陸上からのものが101件と約7割を占めており、そのほとんどが故意による廃棄物の排出でした。15年の観測によると、水銀及びカドミウムは例年と変わらない濃度レベルで推移しており、廃油ボールは昭和57年以降低いレベルにあり、日本周辺海域を除いた北西太平洋海域ではほとんど採取されていません。また、プラスチック等の海面漂流物は、春期の日本近海に多く分布しています。




(4)水質汚濁による被害状況
 水道水源(約7割は河川等の表流水、約3割は地下水)の汚染事故により影響を受けた水道事業体数は平成14年度には92事業でした。また、近年、貯水池等の富栄養化による藻類等の異常な増殖により、異臭味の発生等が生じており、14年度には、68の水道事業等(被害人口の合計約367万人)において異臭味による影響が生じました。
 工業用水の約7割は河川水であり、河川水の水質汚濁により影響を受ける場合があります。また、工業用水道事業では、一般的に薬品沈殿による水質処理を行っていますが、河川水の汚濁物質除去により発生する汚泥の処理が問題となる場合があります。
 平成14年度に発生した水質汚濁等による突発的漁業被害は、都道府県の報告によると、発生件数が114件(13年度128件)、被害金額は9億5,050万円(同6億1,243万円)で、13年度より発生件数は減少しましたが、被害金額は増加しました。このうち、海面の油濁による被害が12件、7,036万円(同9件、2,805万円)、赤潮による被害は29件、8億579万円(同37件、4億9,542万円)です。なお、水銀等による魚介類の汚染に関しては、汚染が確認された水銀に係る7水域及びドリン系殺虫剤に係る2水域において、引き続き漁獲の自主規制又は食事指導等が行われています(平成15年12月末現在)。
 地方公共団体が実施した平成15年度の海水浴場等の水質調査によれば、調査対象とした809水浴場(前年度の遊泳人口がおおむね1万人以上の海水浴場及び5千人以上の湖沼・河川水浴場)すべてが水浴場として最低限満たすべき水質を維持しており、このうち、水質が良好な水浴場は、677水浴場(全体の84%)でした。
 また、平成8年における病原性大腸菌O-157による食中毒問題を踏まえ、15年度も各地方公共団体において水浴場を対象としたO-157等の調査が行われました。この結果、測定が行われた787水浴場のすべてで検出されませんでした。また、国が管理する河川等のうち、主要な水浴場・親水施設が設置されている個所を中心に調査を実施し、すべての調査地点で検出されませんでした。

(5)国際的な海洋汚染
 世界的な海洋汚染の状況は、調査海域が先進国の周辺海域に偏っていることなどから、その全体像は必ずしも明らかではありませんが、北海、バルト海、地中海等の閉鎖性海域においては、赤潮発生の拡大、重金属などの有害物質による汚染が広がっています。また、大型タンカーの航行、海底油田の開発等に伴う重大な海洋汚染の危険が存在し、一度事故が発生した場合の被害が長期間かつ広範囲に及ぶことなどから、海洋環境の保全は重要な課題となっています。特に、近年相次いで発生した大型タンカーの事故による大量油流出事故は、海洋環境に深刻な影響を与え、改めて海洋環境保全の重要性を国際世論に訴えることとなりました。

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