1 調査研究及び監視・観測等の充実
(1)研究開発の総合的推進
環境分野は、第2期科学技術基本計画において、わが国の研究開発の重点分野の一つとされています。分野別推進戦略*を踏まえ、特に重点化するとされた地球温暖化研究、ゴミゼロ型・資源循環型技術研究、自然共生型流域圏・都市再生技術研究の3課題については、環境研究イニシアティブ研究会合等を開催し、省際的な研究開発の推進を図りました。
「地球温暖化研究イニシアティブ」においては、「地球温暖化研究最前線−地球温暖化問題研究へのわが国の取り組み」を発行しました。
また、京都議定書における温室効果ガス削減目標の達成に資するため、総合科学技術会議は、「温暖化対策技術プロジェクトチーム」を平成14年8月に立ち上げ、地球温暖化対策推進大綱に係る研究開発戦略のとりまとめを行いました。
中央環境審議会では、「環境研究・環境技術開発の推進方策について(第一次答申)」を平成14年4月に取りまとめ、環境研究・環境技術開発の目的、役割及び方向性、これを推進するための体制整備のあり方、重要な研究分野について必要な一連の研究開発課題をまとめた六つの「重点化プログラム」を示しました。
(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進
ア 独立行政法人国立環境研究所
(ア)環境研究の推進
環境大臣が定めた5か年間の中期目標(平成13〜17年度)に基づき、これを達成するための中期計画を平成13年4月に策定し、重点研究分野を中心に、以下の環境研究の推進を図りました。
a 重点特別研究プロジェクト
社会的要請が強く、環境研究としても大きな課題とされている六つのプロジェクトを継続して実施しました。
1) 地球温暖化の影響評価と対策効果
2) 成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明
3) 内分泌かく乱化学物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理
4) 生物多様性の減少機構の解明と保全
5) 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理
6) 大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価
b 政策対応型調査・研究
環境行政の新たなニーズに対応した以下の調査・研究を二つのセンターで実施しました。
1) 循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究
2) 化学物質環境リスクに関する調査・研究
c 基盤的調査・研究
重点研究分野をはじめ、長期的視点に立った基盤研究や創造的・先導的調査研究を六つの研究領域等で実施しました。
d 知的研究基盤の整備
研究の効率的実施や研究ネットワークの形成に資するため、環境研究基盤技術ラボラトリーにおいて環境標準試料の作製等を実施するとともに、地球環境研究センターにおいて地球環境の戦略的モニタリング等を実施し、知的研究基盤の整備に取り組みました。
(イ)環境情報の提供
環境情報センターにおいて、環境の保全に関する国内外の資料の収集、整理及び提供を行い、国民等への環境に関する適切な環境情報の提供サービスを実施しました。
イ 国立水俣病総合研究センター
国立水俣病総合研究センターにおいては、水銀汚染問題に関するわが国の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなどの施策を実施しました。
(3)公害防止等に関する調査研究の推進
環境省に一括計上した平成14年度の関係行政機関の試験研究機関(国立機関及び独立行政法人)の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額19億173万円であり、7府省25試験研究機関等において、環境への負荷が少ない循環を基調とする経済社会システムの実現、自然と人間との共生の確保等環境基本計画に定める長期的な目標の達成に資するため、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構の解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等環境研究技術の幅広い領域にわたり、85の試験研究課題を実施しました。その内容は次のとおりです。
ア 大気環境の保全に資するための研究
各種発生源からの窒素酸化物、ベンゼン等大気汚染物質排出抑制技術の開発等に関する9課題の研究を継続して実施したほか、有害大気汚染物質・揮発性有機化合物の高効率・簡易型処理システムに関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。
イ 水環境の保全に資するための研究
排水対策技術、モニタリング技術、地下水浄化技術等に関する12課題の研究を継続して実施したほか、酵母による環境モニタリング及びリン、重金属等の回収除去に関する研究等新たに3課題の研究を実施しました。
ウ 土壌環境の保全に資するための研究
汚染土壌の修復技術、リスク評価・管理等に関する研究を継続して実施しました。
エ 循環型社会形成に資するための研究
廃棄物の処理技術、再利用技術の開発等に関する6課題の研究を継続して実施したほか、生分解性プラスチックの適正使用のための分解菌データベース作成に関する研究を新たに実施しました。
オ 生物多様性の保全に資するための研究
わが国における生物多様性の保護・管理等に関する12課題の研究を継続して実施したほか、生物農薬の放飼が在来昆虫個体群の遺伝子多様性に及ぼす影響の解析等新たに3課題の研究を実施しました。
カ 都市・生活環境の保全に資するための研究
都市における総合的な環境保全を図るため、騒音及び悪臭の発生源対策技術等に関する3課題の研究を継続して実施したほか、臭気環境目標の設定に必要な臭気に係る量反応関係に関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。
キ 環境の監視、観測及び影響の予測評価技術の充実に資するための研究
測定技術の精度向上及び信頼性の確保、測定対象の特性に見合った新たな計測技術の開発等に関する4課題の研究を継続して実施したほか、有害液体物質流出時の環境汚染モニタリングに関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。
ク 化学物質等の環境リスク対策に資するための研究
化学物質等のリスク評価、評価手法の開発等に関する13課題の研究を継続して実施したほか、化学物質等の環境リスク対策の基盤整備としてのトキシコゲノミクス研究等新たに3課題の研究を実施しました。
また、地域における環境問題について地方公共団体と国が共同で研究を実施する地域密着型環境研究として、ノリ加工用海水の浄化再生に関する研究等3課題の研究を継続して実施したほか、ダイオキシン類による地域環境汚染の実態とその原因解明に関する研究等新たに2課題の研究を実施しました。
(4)地球環境に関する調査研究等の推進
地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成14年7月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成14年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施しました。
また、地球環境問題は、従来の環境問題に比べて対象の時間的・空間的スケールが大きく、関連する分野も多岐にわたるとともに、そのメカニズムや影響など未解明な点も多く残されていることから、自然科学はもとより、人文社会科学的な視点を含め、学際的に調査研究を推進する必要があります。さらに、これらの調査研究を進めるに当たっては、世界気候研究計画(WCRP)、地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)、地球環境変化の人間社会的側面国際研究計画(IHDP)等の国際的な地球環境研究計画への参加・連携を進める必要があります。
このような観点から、関係府省の国立試験研究機関、独立行政法人、大学、民間研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下に地球環境研究を学際的、国際的に推進するため、「地球環境研究総合推進費」により、調査・研究等を行うとともに、平成14年度から従来のボトムアップ型のシステムに加え、トップダウン型のファンディングシステムによる戦略的・先導的な大規模研究開発を開始しました。また、中長期的視点から着実に推進すべき、関係行政機関の試験研究機関又は関係行政機関による研究については、「地球環境保全試験研究費」により、地球温暖化の防止に資する研究を行いました。
平成10年3月末に設立されその活動を開始した「地球環境戦略研究機関」(IGES)においては、アジア・太平洋地域を中心とする国際的連携の下で、21世紀の持続可能な社会の実現のための戦略研究を実施し、第1期戦略研究プロジェクト(〜平成12年度)の成果を取りまとめました。
平成14年度に実施した主な調査研究は表2-7-1のとおりです。
(5)基礎的・基盤的研究の推進
環境技術開発等推進費による基礎研究開発課題として、平成12年度に採択した「環境中の複合化学物質による次世代影響リスクの評価とリスク対応支援に関する研究」、「遺伝子地図と個体ベースモデルに基づく野生生物保全戦略の研究」の2課題の研究を継続して実施しました。
また、総合科学技術会議の「平成14年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」で特に重点を置くとされた研究イニシアティブの分野のうち、「自然共生型流域圏・都市再生技術研究」を推進するため、公募方式により採択した2課題の研究プロジェクトに対して助成することにより、環境技術の開発・普及の推進を図りました。
(6)地球環境に関する観測・監視
地球環境に関する観測・監視は、分野、項目、地点、手法等多岐にわたるため、国際的な観測・監視計画と整合性を図りつつ国連環境計画(UNEP)における地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視(GAW)計画、WMO/ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)合同海洋・海上気象専門委員会(JCOMM)等における国際的な観測・監視計画に参加・連携して観測・監視を行いました。
また、衛星による地球環境観測については、熱帯降雨観測衛星(TRMM)から取得された観測データを、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明に活用しており、さらには平成14年12月、オゾン層破壊の現象解明や気候変動の実態把握への大きな貢献が期待される環境観測技術衛星(みどりII)の打上げに成功し、その後の衛星の機能確認等を行いました。また、地球規模の変動に大きく関わっている海洋において、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進しました。
さらに、第44次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球規模の気候変動の解明を目的とした地球環境のモニタリング研究観測等を実施しました。
全国の気象官署における観測開始以降の観測資料のデジタル化を実施しました。また、地球温暖化に伴う全球的な気候変動の予測を行い、その結果を「地球温暖化予測情報」として公表しました。さらに、地球温暖化に伴う海面水位上昇を監視するため、海洋変動による海面水位変動分を解析する手法の開発に着手しました。
平成14年度に実施した主な観測・監視は表2-7-2のとおりです。
(7)廃棄物処理等科学研究の推進
総合科学技術会議の「平成14年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」で重点を置くとされた研究イニシアティブのうち、「ごみゼロ型・資源循環型技術研究」を推進するため、競争的資金を活用し広く課題を募集し、42件の研究事業及び14件の技術開発事業を実施しました。
研究については、「廃棄物処理に伴う有害化学物質対策研究」と「廃棄物適正処理研究」という従来からの継続分野に、平成14年度は「循環型社会構築技術研究」を加え、廃棄物をとりまく諸問題の解決とともに循環型社会の構築推進に資する研究を行いました。
技術開発についても、「廃棄物適正処理技術」「廃棄物リサイクル技術」「循環型設計・生産技術」を公募分野とし、次世代を担う廃棄物処理等技術の開発を図りました。
(8)環境基本計画推進調査
環境省に一括計上される環境基本計画推進調査費は、環境基本計画に位置付けられた政策課題に関する調査研究を対象としており、平成14年度は、自然エネルギーの活用による地域資源循環圏整備調査などの調査研究を実施しました。
(9)環境保全に関するその他の試験研究
そのほかにも、環境保全に関する試験研究として、二酸化炭素の海洋隔離に伴う環境影響予測技術開発や二酸化炭素からメタノールを合成する技術開発等の温室効果ガスの固定化・有効利用・処分技術の研究開発、エネルギー効率が高く、オゾン層を破壊せず、地球温暖化効果の小さい新規フロン代替物質の省エネルギーな合成技術の開発、二酸化炭素や環境負荷物質の排出の少ない環境調和型生産技術の研究開発を実施しました。さらに、バイオテクノロジーの知見を利用した、低環境負荷・環境調和型の化学原料生産、物質変換、廃棄物処理・リサイクル、環境汚染浄化等に資する革新的技術の研究を実施しました。
また、環境への負荷が小さく、新たな海洋空間の創造が可能な超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)に関する研究開発を実施しました。さらに、窒素酸化物を大幅に削減できる環境低負荷型舶用推進プラント(スーパーマリンガスタービン)の研究開発に成功、同ガスタービンを搭載し、環境的にも経済的にも優れた次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発も実施しました。
さらに、油流出の際、精度の高い漂流予測が必要であることから、漂流予測手法の高度化を図るための研究・開発を行いました。また、船舶からの大規模油汚染を防止するための諸研究(ダブルハルタンカーの経年劣化等)も研究しました。
循環型社会及び安全な環境の形成のための建築・都市基盤整備技術の開発、シックハウス対策技術の開発、自然共生型国土基盤技術の開発、維持管理技術や転用等に社会資本ストックの延命化を実現しようとする社会資本ストックの管理運営技術の開発、地球温暖化防止施策の施策評価手法を確立しようとする地球温暖化に対応した国土保全支援システムに関する研究、微生物群制御による内分泌かく乱化学物質の分解手法に関する研究等についても実施しました。
自然環境に配慮した河川管理の取組の一つとして、岐阜県の木曽川三派川地区に設置した世界最大規模の実験河川を有する自然共生研究センターにおいて、河川湖沼の自然環境保全・復元のための基礎的・応用的研究に着手しました。
また、生態学的観点より河川を理解し、川のあるべき姿を探ることを目的として河川生態学術研究を実施しました。
環境負荷を低減し、持続的農業を推進するための革新的技術の開発、農林水産系におけるダイオキシン類をはじめとする内分泌かく乱物質の動態解明とその影響防止技術の開発、家畜排せつ物や食品廃棄物等の有機性資源のリサイクル技術の開発、農林業に由来する廃棄物からバイオマスエネルギーを生産する技術の開発、野生鳥獣による農林業被害を軽減する管理技術の開発等を引き続き実施するとともに、地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価や二酸化炭素等の温室効果ガスの排出削減・固定化技術の開発、流域圏における水・物質の循環についてのモニタリング、自然循環機能を維持向上させるための管理技術の開発に着手しました。
電磁波を利用した地球環境計測技術の開発については、高度電磁波利用技術に関する国際共同研究を実施したほか、高分解能3次元マイクロ波映像レーダ*による地表面観測技術、亜熱帯地球環境計測技術、超伝導サブミリ波放射サウンダ*による地球環境計測技術などの研究開発を実施しました。
海洋の観測データを飛躍的に増加させるため、海洋自動観測フロート約3千個を全世界の海洋に展開し、地球規模の高度海洋監視システムの構築を目指すARGO計画を推進しています。
さらに、地球規模の諸現象を解明し、その成果を活用して地球変動の精度の高い予測を行うために、国内外の関係機関の連携の下、プロセス研究、地球観測及びシミュレーションの三つの機能が一体となった研究開発を推進しています。シミュレーションに関しては、地球規模の複雑な諸現象を忠実に再現することを目指した超高速計算機システム「地球シミュレータ」の開発が平成14年2月に完了し、同3月から本格的な運用を開始しました。また、同4月には、Linpackベンチマークテスト*において、世界最高の演算性能を達成しました。さらに、大気と海洋の相互作用に焦点を置いたプロセス研究及びモデル開発を行う「地球フロンティア研究システム」を推進するとともに、「地球観測フロンティア研究システム」においては、地球変動に関する知見及び観測データの充実を図りました。
また、異常気象や地球温暖化に伴う水資源への影響を把握し、これを回避・最小化するための対策技術に関する研究を推進しており、平成14年度には、全球大気海洋結合モデル(CGCM2)での計算結果を用いて、全国の蒸発散量、水資源賦存量の推計を行いました。
東京都と神奈川県の都県付近をモデル地区として、交通流データと大気汚染データをリアルタイムで交通管制センターに集約し、その相関関係を体系的に分析するとともに、信号制御の高度化、交通情報版を用いたう回誘導、都県境を越える信号制御の連動等により交通公害を低減する「環境対応型交通管制モデル事業」を推進しました。
わが国単独では解決できない地球温暖化ガス削減の国際的な枠組みの問題、自動車等の個別排出源の対策などの問題等について、国内外の研究機関による国際共同研究を実施し、年度末に内外の共同研究者と外部の専門家を加えて報告会を行いました。
また、リサイクルに焦点を当て、経済モデルを用いた評価を通じて、望ましいリサイクルシステムについての提言を行うための研究を行ったほか、産業連関表を用いて、リサイクル推進政策が財・サービスの価格や実質最終需要、二酸化炭素排出量などの点で一国経済全体へどのような影響を与えるのかについても計測を行いました。